第34話 少年は少女を想い、少女は少年を————
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目が覚めるとそこは暗い瓦礫の中だった。
身体中を駆け巡る激痛を無視して起き上がり、瓦礫を崩して外に出た照光は、一瞬ここは高天原ではないのではないかと思った。
暗闇の荒野。文明を象徴する街灯やビルは根こそぎ刈られていて原始時代を連想させる空間しかなかった。しかし天空から垂れ下がっている空中鉄道の線路を見るとかろうじて高天原のようだ。
スマホで時間を確認すると夜の十時を示していた。救急隊などが見られないところからまだ日はまたいでいないのだろう。
それにしても静かである。虫一匹の命も感じられず暗闇ということもあって照光は地獄より冥府に近いイメージを抱いた。よく生きてるな俺、とその冥府を作った元凶はやっと自覚した自分の命に対してまるで他人事のような感慨を抱き、そういやあいつらは死んだのかな、とあの二人を一瞬だけ心配した。
直後、照光は大切なことを思い出す。
白心は大丈夫なのか?
先ほどとは打って変わって緊張の面持ちで周囲を見渡す。夢を叶えるためとはいえその過程で死んでしまわれては本末転倒だ。
しかしどこを見てもそこは瓦礫や鉄屑、硝煙と焦げる臭いしかなく、人間が生きられる環境とはとても思えなかった。
照光の表情が次第に絶望に染まる。
「白心ッ! いたら返事をしてくれ! 白心ォオ!!」
泣きそうになりながら大切な人の名前を呼ぶが案の定返事がない。それだけで最悪の事態がよぎる頭を握り潰そうかと思ったが、とあるものを見つけて思い留まる。
一つの優しい光があったのだ。
その光はあの衝撃の後でもそびえ立つ巨大ビル————だいたいその三十八階といったところか————から漏れ出ていた。
「白心……!!」
花のように無邪気な笑顔を浮かべ、照光は猛然とビルへと駆け出す。そして階段も使わずに外壁をその四肢の力だけで登って行った。
——白心は生きてる。あの光の中でいつものように輝いているんだ。
——しかもあの娘の『呪い』はなくなっている。
——もう普通の女の子として生きていけるんだ!
涙が溢れ出る。大切な人が彼女を苦しめる鎖から解き放たれたのだ、嬉しくないわけがない。
照光はまず会って何を言おうかと考える。
無事で良かった。これで自由だな。これからどうするんだ? 笑えるようになったか? 景気付けに笑おうか? もう人形じゃなくなったんだ、好きなことをしろよ。
——いや、もっとシンプルにしよう。いろいろ言ったら未練ができそうだからな。
——ありがとう。さようなら。よし、これで行こう!
自分の希望になってくれたことへの感謝、そして別れても強く生きていくことへの決意をその二つに込めようと照光は決める。
だが皮肉かな、照光が白心に抱く思いはすべて独善的なもので彼女の意思が反映されていないことに、照光は気づくことがなかった。
ようやく目的の階に到達して窓から飛び込む。そこに広がる光景に照光は息を呑んだ。
純白に包まれた少女が、光を放つカプセルに腰掛けていたのだ。
有機の原点と無機の頂点が奏でるその美しさはまるで神が手がけた作品で、これを自分が護ったことが信じられずまた涙を流す。
「白心」
大切な人の名前を呼ぶとそれに合わせて少女が振り返る。彼女は血だらけでボロボロの照光を不思議そうに見る。
「白心ッ!!」
心を抑えきれず白心の許へと赴く。それでも白心は特に反応を見せず照光を見続ける。
一歩一歩を噛み締めるように歩いて白心の前に来た照光はその両肩を掴み、用意していた言葉を口にしようとする。
ありがとう、さようなら、と。
しかしその直前で白心の瞳を見た照光は気づく。気づいてしまう。
そのことを指摘する前に、白心は照光と出会った時と同じ絶望で黒く濁った瞳で照光を見つめながらまっすぐ答えた。
死にかけの人間の心臓にナイフを突き刺すように、まっすぐ。
「あなたは、……誰ですか?」
次が最終話、その次がエピローグとなります。




