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レインボーピエロ 太陽の魂と白雪の心  作者: 水無月 一
第01章 少女の笑顔
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第22話 怒りの矛先

投稿です。

 掲げた腕を、振り下ろす。


 たったそれだけのアクションで足元のプレス機で高圧縮されたダストタワーが轟音とともに真っ二つに割れ、その上にいた二人は割れたそれに挟まれる形で高度三百メートルから垂直落下していく。


「ナニナニ!? なんの脈絡もなくキレちゃうとか最近のワカモノかよ、ってワカモノだったっけな」

「何をした」

「あ? なんつった?」


 背後のダストタワーの片割れを思いっきり蹴飛ばし、弾丸の如く計へと突っ込む。


「あの娘に何をしやがったあああああ!」


 激動する歯車を解き放たんばかりに拳を振り抜くが、それもまた計の能力によって難なくかわされた。


 まるで磁石のように手近のダストタワーの側面へと引き寄せられ、そこに立って落ちる照光を睥睨する。


「いいねいいねーますます欲しくなるぜその手足♬ ゼッテー手に入れてやんよカッカッカ!」

「お前をブチ殺したらいくらでもくれてやらあ!」


 ブースターを噴きトランスミッションを最大に引き上げ、落ちるダストタワーを垂直に駆け上がる。そして頂上に到達すると同時に計のいるダストタワーに飛びつき、


「フンッッッ!!」


 踏みつけで足を埋め込んだ。


 腹筋だけで上体を支える照光は計のいる真上を見て、能力で地上同然に側面に立つ計は照光のいる真下を見る。視線の高さはほぼ同じなのに交錯するそれは地面に垂直であり、そんな重力すら超越した喧嘩に計は楽しそうに口角を持ち上げる。


「ほーおそー来るか。さすがは無運枠ラックラックだ、やることが突飛だねー♫」

「あいつに何をしやがったッ。さっさと言いやがれ!」

「逆になんて言やー怒ってくれる?」

「もう怒ってるっつうのが分かんねえのかクソッタレがぁあ!!」


 ゴッ、ゴッ、ゴッ、と足を埋め込みながら計の許へと登り寄り、同時に憤怒の感情を叩きつける。それを向けられてなお飄々とした調子のまま計が口を開いた。


「言ったまんまだぜ? ベーやんと俺ァ拷問の一部を担当してたんだ。もし施設を逃げ出した時はどれほどの報いを受けるか刻みつけるためにな」


 カッカッカッカッ、と笑う計はダストタワーからいくつもの鉄塊を見えざる手でもぎ取り、砲弾のようにして投げ落とした。それらすべてを照光が拳で叩き落とし一歩ずつ確実に近づいていく。


「楽しかったねーあの日々は。壊しても壊しても治っていくから何度でも遊べたし、泣き喚かないからご近所にも優しい。俺ァまるで呪いのお菊人形で床屋ごっこするガキの気持ちだったぜ。あんなオモチャは滅多にあるもんじゃねーよ♬」


 奥歯を砕かんばかりに食い縛る。


「でも反応全然ねーからホント人形みてーなんだよなー。顔面殴っても腹蹴っても首折っても涙の一つも流さねーんだよ」


 拳を壊さんばかりに握り込む。


「テルミなら知らねーか? アレが泣くにはどーすればいいかをよ」


 脚を潰さんばかりに踏み締める。


「言っとくが毒飲ましても頭をかち割っても刀で手脚を斬り落としても眉一つ動かさなかったからな。あ、もしかしてシンプルに××××すればいいだけとか?」


 ブチンッ、とこめかみで音がなった。


 まるで、人格を切り替えるスイッチが入ったかのように。


「おおおおおおおおおおおおおおァァあああああああああああああああああああああああああああああァァがアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 魔獣の咆哮が世界を揺らす。


 どうやら照光は真の外道と相対しているようだ。この男は泣かない、いや泣けない少女を一方的にいたぶり、あまつさえそれに喜びを見出している。そのことも絶対に許せないし、何よりそのせいで白心の笑顔が遠のいたのではと思うと臓器のすべてが溶けてしまいそうな怒炎が湧き上がった。


 こいつだけは生かしておけない。


「いいツラだ♬ んじゃー次行ってみよー!」


 金属を引きちぎるような音。そしてその音は計の奥————ダストタワーの上部で響いたことを、一瞬認めることができなかった。


 十トンは優に超えるであろう大鉄塊が、宙に浮いて照光を見下ろしていたのだ。


「んー、じゃーこれどーすっかねー」


 チラチラと様子を窺われても物怖じしない表情をしていたのが引き金だったのかもしれない。


 クカカ、と底意地の悪い笑みが計の顔に浮かぶ。それから大鉄塊が隕石のように降り落ちるのに時間はいらなかった。


 能力と重力の恩恵を受けたそれはものすごい勢いで照光に向かう。一般人ならなりふり構わず逃げ出すような状況だ。


 だが照光を占めている感情は恐怖ではなく圧倒的な憤怒。


 故に、後退という選択肢はなかった。


洒落臭しゃらくせえんだよクソッタレがッ!!」


 地団駄(※ただし重機以上の破壊力)。


 言語に絶する破壊力のそれでダストタワーは間もなく折れ、足場が傾く形で大鉄塊を避けた。


「おっほーそんな避け方すったー思わなかったぜ♫ じゃーこれはどうだ!?」


 揺れに耐えながらクイッ、と人差し指を折り曲げる計の動作を見逃さなかった照光は、次に来る攻撃を予知することができた。


 傾いていくダストタワーから足を抜いてUターンしてきた大鉄塊をそのまま新しい足場にし、計へと急接近する。


「おもしれー。おもしれーおもしれーよ最高におもしれーよテルミ! その拳をここに叩きつけてみろよ!」


 ちょんちょん、と頬を突つく計の望み通りに飛び込み、この上なく強く拳を握る。


 ————あと5メートル。


 照光の怒りは今まで自分の不甲斐なさに向けるものだった。だが人のために怒る気持ちがこれほどにまで力になるとは思わなかった。


 ————あと3メートル。


 しかもその気持ちは今までに感じてきたどれよりも熱を帯びている。これを爆発させればできないことなどないような気がした。


 ————あと1メートル。


 この少年の顔に鉄拳をブチ込み、そして蹂躙された白心の仇を討つ。そうすればきっと彼女の笑顔に大きく近づくだろう。


 ————あと10センチ。


 拳を計の顔面に突っ込ませる。


 しかし。


 しかしその10センチが無運枠ラックラックとネクストとの間にある壁と言わんばかりに、照光の進撃を阻んだ。


「あー、前言撤回。やっぱつまんねー」


 手を広げたら頬に触れるほどのところで計が踵を踏み鳴らすと、


 バオンッ! と足元のダストタワーが炸裂した。それによって構成する大小様々の金属の塊が照光の身体に雨霰あめあられと注がれる。


「あ、……がぁ……」

「たしかにいい殺意だ。今まで殺ってきたどんな奴よりも怒りに満ちて俺を殺す気でいる鋭い殺意だよ。だけどチカラも才能も器もどれもこれも人並み未満。まるで殺意の波動に目覚めたスライムじゃねーか。……って聞いちゃいねーか」


 吹き飛ぶ身体に衝撃を重ねられ滑空するように彼方へ行く照光。そんな彼の耳に計の言葉が届くはずがない。


 ふわりと地面に降り立つ計と対照的に遠投のボールのように叩きつけられた照光は何度も身体を跳ねさせ、その顔を苦痛と憤怒をないまぜにした激烈なものにして悶えた。


 殴られ屋の仕事で異常に身体が打たれ強くなったから気絶することはなかった。だが、こうまで痛い思いをするならむしろこのまま寝た方がマシだと思えた。


 だがそうもいかない。怨敵がすぐそこに迫っていたからそれだけはできなかった。


「おおんどらああ……!」

「意味分かんねー。そのままくたばっときゃラクになれるっつーのになんで立つんだよ」


 つまらなそうにため息をつきながら、計はまるで雑草でも引き抜くような感覚で二人を囲むダストタワー群をへし折り、宙に浮かばせた。それらは引き絞られた弓矢のように照光に向けられ、いつでも発射できる状態となる。


 悪夢。それ以外の言葉がどこにあるだろうか。


「負けらんねえ」


 拳を握る。これは試練なのだ。それを振り払った先には、白心の笑顔があるはずだ!


「負けるわけにはいかねえんだよオオオオオオ!!」


 弾かれるようにして駆ける。


「あーメンドクセー」


 耳をほじってやる気のなさを見せるが、攻撃の手は軍隊より大きかった。


 矢の雨のように降り注ぐダストタワーを懸命に避けつつ怨敵を見据える。


「俺は勝つ。勝ってあの娘に星を見せるんだ!」

「あーうん、ロマンチックが止まらな〜い〜、ってヤツ?」


 もはやしゃべるのも億劫といった調子であくびをしながら、計は指をタクトのように振るう。


 しかし計が指揮したのはオーケストラなんてチャチなものではなく、悪夢を超えた絶望だった。


 地面に突き刺さったダストタワーが最小単位で細分化され、前後左右、そして上をさながらドームのように覆われた。一個一個が自律しているからかふわふわと不規則に揺れていて、それが万を越す数だから蠢く蛇の胃の中にいる錯覚を覚えた。


 クソッタレ、と喉を震わせる。


 いつだっただろうか。この四肢を本気で振るえばネクストにだって勝てるかもしれないと思った時があった。だが傷つけたくないだの見せたくないだのと言い訳してやろうともしなかった。それが普通だと思っていた。


 違った。それは驕りだったのだ。


 次元が違いすぎる。


 身を包むどころではない。身を包む空間ごと死に包まれている。こんなもの人間がどうこうできる域を超えている。


 ベロン、とスプリットタンを見せつつ指を振るう計の姿がドームの隙間からわずかに見えた。その仕草が生む破壊を防ぐには、義体の四肢だけでは明らかに足りない。


 ——結局、俺だけは・・・・負けるんだな。


 三分間。


 照光の立つ場所に全方向から無数の金属塊が叩きつけられた時間である。


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