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レインボーピエロ 太陽の魂と白雪の心  作者: 水無月 一
第01章 少女の笑顔
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第13話 自己犠牲な二人

投稿です。

『さあ今年もやってまいりました高雅天上ヶ原柔道無差別級王者決定トーナメント決勝のお時間です。今審判が開始の合図を出して両者組み合いました。白の柔道着の中尾は『技の柔道』のジーニアスでありこれまでの試合の七割を剃刀の如き鋭さの背負い投げによる一本で勝利を掴んできました。対する青の柔道着、郷田はなんとすべての試合を、おおっとここで郷田が仕掛けたぁ! 相撲の寄り切りのように、体を密着させ、ムリヤリ押し倒し、なんとそのまま押さえ込んだあああああ! 『超重量』のジーニアスである彼に押さえ込めぬものなしッ! そうなんです、彼はその巨体を生かした押さえ込みを得意としており、その肉食系女子の如き強引さで全戦全勝を誇る無敵不沈艦なのです! 中尾もあらゆる技を使って懸命に抜け出そうとしますが潰れる肺で呼吸するのが精一杯で、その努力、まさに泡沫である! そして今、残酷にも、無慈悲にも! 二十五秒のリミットが訪れるうううううう! 試合終了! 郷田、これで五年連続優勝です! まるで「柔道は体重だ」と言わんばかりの鬼畜の所業! 皆さんも勝ちたければ是非高天原の高カロリー栄養食を食べてくださいね! それではまた来年、郷田の優勝を見届けましょう。以上、高雅天上ヶ原柔道無差別級王者決定トーナメント決勝をお送りしました』

「柔道の『柔』って何なんだろうね」

「それを聞くのは野暮ってもんだろ」

「できました。みんな席に、着いてください」

「「おおーーーー美味そーーーー!!」」

「すごく美味しそうだわ」

「これは見事だね」

「もう腹減りすぎて死んじまうよ」


 テレビを消してリビングテーブルの上を片付け、席に着くと誰もが食卓テーブルに並んだ和洋中に美しく彩られた料理に嘆息した。特に燃費が悪い上にここ数日ろくに食事を摂らなかった照光からはヨダレが滴り落ちんばかりで目はもはや正気のそれではなかった。


「では、召し上がれ」


 その声を聞いた途端に照光は鎖から解き放たれた餓狼のように貪りついた。


「ッ〜〜〜〜〜〜うんッッッッッッッッッッッッめぇーーーーーーーーーーーー!」

「僕らも食べようか」

「「うん!」」


 早くも一皿目を完食して次の皿に手を伸ばしたところで、


 バフォア!! と城ヶ崎兄弟が何かを吹き出した。


「ご……が……」


 改蔵はすんでのところで踏みとどまったようだが弟妹たちはそれぞれ箸を上下する動きを繰り返したり白目剥いて泡吹いたり怪しい笑い声を上げ始めたりと散々な状態である。


(「お、おい、どしたの?」)

(「テル、君はこれを食べてどうもないのかい!?」)

(「何言ってんだよ。どう考えても野草とかイナゴとか泥水より美味いだろ」)

(「むしろ僕は君の食生活が心配になってきたよ! じゃなくてすごい味だよこれ! なんでエビチリなのに砂糖より甘いのさ!」)

(「俺の食ったカレーはコーヒー豆とドリアンと布を足して百かけた感じでいい塩梅だが」)

(「最後のは食材ですらない!?」)

「あの」


 ガタガタッ、と椅子を揺らして白心に向き直る二人。


「もしかして、お口に合わなかった……?」

「そんなことないよ! むしろ美味しすぎて一瞬で満腹になっちゃったよ! じゃあ僕はこの子たちを部屋に運ぶねはははっ!」


 狂気じみた笑い声を上げてフェードアウトする改蔵たちを見送りながら、料理を口に掻き込んでいく。うん、やはり美味い。


「美味しい?」

「メチャクチャな。お前も食えば?」


 ニシシ、と笑顔を見せて勧めてあげる。一緒に食事を摂ることは楽しいということを教えれば笑顔に近づくかもと裏で算段していると、笑顔も自然なものとなれたが、


「私は、食べなくても大丈夫な、体だからいいわ」


 一転。ビギッ、とこめかみで何かを引き裂くような音がした。


「……お前いい加減にしろよ」


 先ほどまでの笑顔を全部消して皿とスプーンを置き、キョトンとする白心の目を睨む。


「お前は自分の運命を狂わせた『聖母の愛マリアズギフト』が憎いんじゃないのか? なんで中途半端にそれにすがろうとするんだよ」

「違うの、そうじゃないの。別に使いたいから使っている、わけじゃないの」


 かつてない真剣な眼差しに白心の目に若干の怯えの色が浮かぶ。


「この前だってそうだ。能力で俺の怪我を治そうとして自分をないがしろにする。中途半端に聖人気取りやがって。本当の聖人は自分を含めたすべてを大事にするもんだ」


 吸い込まれるようなあの瞳を逸らされるが構わず続ける。


「あれか、使うのは便利だからか? 優越感に浸れるからか? それとも単に開き直ってるだけか?」

「そんなことは……」

「だったら二度と使うな。過去の自分と決別するためにも、新しく生まれ変わるためにもな」


 再び皿を持ち上げて掻き込み始める。


 ——ちょっと言いすぎたかな?


 食べながら様子を窺うと、花瓶を割って怒られた子供のようにしゅんとした白心がそこにいた(相変わらず無表情ではあるが)。


 自分には人にあれこれ説教する資格はない。それもそのはず、照光は何もできない無能であり、そんな輩が教えられることなど一つもないからだ。


 でも、そうだと分かっていたとしても、言わずにいられるわけがなかった。


 他でもない、自分のために。そして、彼女のために。


「……あなたは、優しい人」

「んぐ?」


 思いがけない言葉に照光のスプーンを動かす手が止まる。


「『天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず』。あと、『才能はひとりでに培われ、性格は世の荒波にもまれてつくられる』、と言ったところ、かしら」

「? つまり、何が言いたいんだ?」

「偉人の名言でも、あなたを推し量れない、ということよ」

「???」

「おかしな人よね。人と同等と呼ぶには、あなたはあまりにも、無能。それに、環境が性格を作る、はずなのに、あなたは自分で、作り上げている。あなたはこんな、『力こそ正義! いい時代になったものだ』、の世界で、無能でありながら、人を助けようとする、優しい人なのよ」

「…………」

「あなたは優しい。ある兄弟のためなら、たとえ走るトラックでも、生身で止めようとするし、私のために、怒ってくれて正しい道へと、導いてもくれる。もっとも、自分を一番ないがしろに、している人なのだとも、思うけどね」

「……何を吹き込まれた」

「さあ。なんの話、かしら」

「ったく、どいつもこいつのシラ切りやがって。冷めないうちにさっさとメシ食えお前も」


 どうやら例外もいるみたいだ、と照光は皿の角度をさらに大きくつけて一気に口に流し込んだ。


 白心はじぃーっ、としばらく照光のその様子を見つめてから料理をすくい取り、口に運んだ。


 案の定えずいた。お前もか。


「……これが美味しいの?」

「クソうめえ。また作ってほしいくらいだ」


 七皿目を手に取り掻き込み始める。


「だったら、もっと上手になって、あなたの家で、作ってあげる」


 今度は照光がえずいた。


「お、お前何言ってんだよ! 女が男の部屋に入るってのはなあ、その、なんだ、ヤバいんだぞ!」

「?」


 中途半端な性の知識と度が過ぎる純情さで変な妄想をし、たらりと鼻血が垂れる。


「チッ、俺も腹いっぱいだ。じゃあな」


 そして逃げるようにしてリビングを後にした。当然腹は全然満たされていないが鼻血なんて情けないものを見せないためにも致し方がなかった。

戦闘シーンはもうちょっと先になります。これからも照光と白心の交流が中心です。

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