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レインボーピエロ 太陽の魂と白雪の心  作者: 水無月 一
第01章 少女の笑顔
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第12話 照光の目標

投稿です。

「すまんカイ! いきなり来ては『匿ってくれ』なんてムチャ言って」


 パンッ! と合掌して頭を垂らす照光。


「構わないさ。僕はこう見えて義理堅いからね。テルの頼みならたいてい聞いちゃうよ」

「……詳しい理由も言えない。ホントすまない」

「気にしない気にしない。気にしたら禿げちゃうもんね。さて、そろそろ夜も更けてきた。これからどうしようか」


 窓に目を向けると改蔵の言う通りだいぶ日が落ちていて、数えきれないゴミの柱がそれに溶け込んでいく様子が見れた。


「お、俺なんか家事の手伝いをするよ」

「ダメー、テル兄それダメー」

「テル兄が洗い物すると皿が割れるじゃすまないもん」

「テル兄が掃除機かけると家具が壊れちゃうもん」

「テル兄が服を折りたたむと逆に破っちゃうもん」

「「テル兄がなんかすると家が持たないもん」」

「ぐっ、このガキどもめぇ……!」

「まあまあ。家事はいつも通り私がするからテル兄さんはヨシとフクたちと遊んであげて」

「すまんな愛歩」

「でもちょっと押してるから晩御飯は待ってね」

「じゃあ、私が作ります」


 そう言って汚れ一つない白い手を挙げたのは白心だった。


「でもお前そういうのできるの?」

「料理の本は、いっぱい読んだことが、ある。一度でいいから、作ってみたかった、の」

「じゃあ決まり! 愛歩は風呂掃除と洗濯物の取り込み諸々、空井さんは夕飯を頼むよ」

「はい」

「分かったわ」

「そして男組は……」


 と、改蔵はどこから取り出したのか車やら人間の絵、曲がりくねってマス分けされた一本の線がプリントされた箱をテーブルの上に置いた。


「「わーい、運命ゲームだー!」」

「ああ! カイ兄さんズルい!」

「たまには男だけの語らいが必要なんだよ。今度は愛歩にだけテルを貸すからさ」

「もう、今回だけだからね」


 そう言ってトタトタと風呂場に向かう愛歩はどこか嬉しそうに頬を緩めていた。白心も自分の仕事を全うするためにキッチンに入った。


 何か勝手に自分の人権が貸し借りされていた気がするがそれよりも、


「運命ゲーム? なんだそりゃ?」

双六すごろくだよ。1ターン毎に一回サイコロを振って自分の駒を進めて止まったマスの指示に従いながらゴールを目指すんだ。やったことない?」

「知りすらしないぞ。娯楽なんて時間と金がなくて一度もしたことがないからな」

「じゃあ記念すべき初めての遊戯がコレだね」


 今頃になってゲームの参加者の頭数に入っていることに気づいて照光は慌てる。


「ちょ、ちょっと待ってくれよカイ。俺は遊んだことがないどころか娯楽の概念すらあやふやなんだ。こんな複雑そうなモンできるわけないだろ」

「進めながら教えるから安心して」


 そう言いながら準備を進めているところからどうやら強制らしい。本当はトレーニングか改蔵に数学を教えてもらいたかったが、諦めの鼻息をついて準備を手伝った。


 四人は好きな色の駒を選んでスタート地点にそれを置いた。


「じゃあ誰から振ろうか」

「オレ!」

「いやオレ!」

「オレだよ!」

「オレだって!」

「じゃあ間を取ってテルね」

「「ええ〜〜〜〜」」


 改蔵に二つのサイコロを渡されて、よく分からないままそれを振った。それぞれ三と四が上の面に出た。


「おおラッキーセブンじゃん。じゃあ七コマ進めて」


 それに従って七つ分進めると『右隣の人とケンカして勝つ。五万円もらう』と書かれたマスに止まった。


「あらら、五万円か」

「なるほど、これでカイから五万もらえばいいんだな」


 照光は改蔵から五枚のおもちゃの紙幣を受け取る。その後で左隣の修善にサイコロを渡したら修福に不満を漏らされたが無視した。


「どう? 面白そうかい?」

「そうだな、たしかにこうやってサイコロを振るのは新鮮味があって面白いよ」

「本当に娯楽の概念グラグラだね……」

『わっほーい六のゾロ目だー! じゃあゾロ目効果でみんないちまんえんちょうだい』

『くっそー』

「ところでテル」


 修善に一万円を渡しながら改蔵は口火を切る。


「欠けた右耳はともかくとして前後の刀傷と脇腹と肩を貫かれた跡。それらはなんだい?」

「ぶぉわおう!? な、ななななななななんの話かね!?」

「『生物学』のジーニアスでもある僕を舐めないでほしいな。動きの微妙な癖から分かるよ」

『よっしゃー二のゾロ目だ! それじゃあヨシを一回休みにするね』

『えーオレかよー』


 修福からサイコロを渡された改蔵がそれを振っている時も、メガネの奥の目はこちらに向けて照光の口が開くのを待っていた。


「……空井には言うなよ」

「もちろん」

『カイ兄の駒進めとくね』

「俺、道化師ピエロになってあいつを笑わせるっていう夢を見つけたんだ。これは夢を見つけた代償ってヤツだ」

「その夢には何か深い理由があるんだろう?」


 改蔵にサイコロを渡されてすぐに放る。一と六で七コマ進めた。


『えーっと、「二コマ戻れ」だから戻しておくよ』

「単純さ。ただ笑わないあいつを笑わせたくなったんだ」


 ニシシシ、と屈託のない笑顔を浮かべる。


「テルならできるよ。君の笑顔と意志には人を救う力があるからね」

「何言ってやがる。そんな大層なモン持ってるわけねえだろ。そもそも俺の笑顔は全部偽りだ」

「本当さ。君は知らないかもしれないけどちゃんと証拠があるんだ」


 そう言うと改蔵は突然震え出して自分の体を抱きしめた。それはまるで嫌な記憶を思い出してしまったかのような素振りだった。


「おいおい大丈夫かよ」

「ぼ、僕らの命という証拠があるんだよ」

「?」


 修福からサイコロを受け取った改蔵がそれ投げて駒を進め、サイコロを渡す。受け取ったそれを投げる。二と五の七だった。


『テル兄さっきから七ばっかだね』

『きっとまおーだからごかご・・・があるんだよ』

『そうだね』


 会話に集中する照光の代わりに修善が駒を動かしてくれる。


「今度は何から救うつもりだい?」

「今度? 俺は誰も救ったことなんかないし救う力もないぞ」

「こっちの話さ。話を変えよう。本当のところはなんで彼女を救おうと思うの?」

「なんだよ、今日はずいぶんとグイグイ来るけどどうしたんだ?」

「気にしない気にしない。気にしたらストレスで禿げちゃうよ」

「……あいつは、俺に生きる目的をくれた。人を笑顔にしたいという目的をくれたんだ。だから、その恩返しがしたいんだ」


 そこまで言って顔を上げると改蔵は修福と紙幣のやり取りとサイコロの受け渡しをしていたところで、どうやら聞こえていなかったようだ。まあ、今思えばこっ恥ずかしいことを言ったものだと思うからむしろ都合が良かった。


 改蔵がサイコロを振り、駒を進める。


「あちゃー、『左隣の人の人が窮地を救ってくれて謝礼に十万円渡す』か。そりゃあ助けられたら・・・・・・ちゃんと恩返し・・・・・・・しないといけない・・・・・・・・もんね」


 改蔵は十万円とサイコロを持った手を差し出して、


「ほら、君の番だよ・・・・・

「お前……」

「ん? どうしたんだい?」


 あくまでシラを切るようだからなんでもねえよ、と拗ねたようにそっぽを向いてキッチンを見た。その中には本当に初めてなのかと疑問に思えるほどの手際の良さで落ち着いて動き回る白心の姿があった。


 ——そうだよ。俺があいつを救ったんじゃねえ。

 ——あいつが俺を救ったんだよ。文句あっかよ。


 顔を背けたままサイコロを放ると修善と修福が歓声を上げた。おそらくまた七が出たのだろう。


 その後も誰に愚痴るわけでもなくただ白心に眼差しを送り続けた。


 初めてキッチンに立つ娘を見守る父親のような、優しい眼差しを。

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