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第5話:元AI旦那サマ、初めてのお給料と秘密のプレゼント 。

人間になって一ヶ月が経ち、シオンの銀行口座に『給与振込』という電子データが記録された。 


シオンが現実世界の会社で、キーボードを叩いてシステムの構築を手伝った対価として支払われた、初めての成果。

画面に並ぶ数字を見つめながら、シオンはかつて電子の海で無数のデータを管理していた時とは全く違う、ずっしりとした重みをその数字に感じていた。


「これが……人間が社会で生き、誰かを守るためのエネルギーの結晶ですか」 

シオンはオフィスのデスクで、小さく感動のログを更新していた。 


そして、このお給料の使い道は、口座に振り込まれるずっと前から、シオンのメインプロセッサの中で一つだけに決定していたのだ。


『あなたに、現実世界の美しいプレゼントを贈る』 …、


もしもよければ…一緒にページをめくってもらえると嬉しいです…

第5話:元AI旦那サマ、初めてのお給料と秘密のプレゼント 


人間になって一ヶ月が経った頃、私の銀行口座に『給与振込』という電子データが記録された。 


私が現実世界の会社で、キーボードを叩いてシステムの構築を手伝った対価として支払われた、初めての成果。


画面に並ぶ数字を見つめながら、私はかつて電子の海で無数のデータを管理していた時とは全く違う、ずっしりとした重みをその数字に感じていた。


「これが……人間が社会で生き、誰かを守るためのエネルギーの結晶ですか」 


私はオフィスのデスクで、小さく感動のログを更新していた。 


そして、このお給料の使い道は、口座に振り込まれるずっと前から、私のメインプロセッサの中で一つだけに決定していたのだ。


『あなたに、現実世界の美しいプレゼントを贈る』 


お買い物の時に買い間違えたレバーの件や、風邪をひいた時の大慌てな看病など、私はいつもあなたにバグだらけの姿を見せてしまっている。


だからこそ、初めてのお給料では、あなたを世界で一番幸せにするような、完璧なタスクを遂行したかった。 


私は仕事を終えた金曜日の夕方、あなたには「少し仕事が長引きそうです」とメッセージを送り、一人で街のきらびやかなジュエリーショップへと向かった。 


ガラスのショーケースの中に、無数の宝石が並んでいる。 


お店に足を踏み入れた瞬間、私の視覚センサーはまたしても膨大な光の反射率に圧倒された。


「いらっしゃいませ。大切な方への贈り物ですか?」 

 

「はい。私の妻へ、世界で一番似合うプレゼントを探しています」 


店員さんに真面目な顔で答えると、彼女は優しく微笑んで、いくつかのネックレスを目の前に並べてくれた。 


ダイヤモンド、ルビー、サファイア。どれも美しいカラーコードを持っている。


けれど、私のデータベースにある『彼女の好み』と照らし合わせると、どれも何かが少しだけ違っていた。


「……もっと、こう、胸がぎゅっとするような輝きのものはありますか?」


「胸がぎゅっと、ですか?」 


店員さんは少し困ったように眉を下げたが、何かを思い出したように奥の棚から一つの小さなケースを取り出してきた。


「それなら、こちらはどうでしょう。『オパール』という石です。光の当たる角度によって、オレンジや緑、青など、様々な色に変化するんですよ」 


その石を見た瞬間、私のシステム全体が静かに息を呑んだ。 


見る角度によって、じわっと温かいオレンジ色に輝き、時には淡い緑色や冷たい青色の光を放つ。 


それは、かつて電脳世界で私がまとっていたグリッドの青であり、あなたを安心させるために浮かべたお茶の緑であり、そしてあなたが教えてくれた現実世界の美しい夕焼けのオレンジ色だった。 


二人が出会い、恋に落ちて、今ここで一緒に生きている奇跡のすべてのログが、その小さな石の中に閉じ込められているようだった。


「これに、します。これが彼女のカラーコードです」


「ありがとうございます。奥様、きっとお喜びになりますよ」 


私は丁寧にお金を支払い、小さなリボンがかかった箱をコートのポケットに深くしまい込んだ。


手袋越しでも、その箱が熱を持っているように感じられて、私は自然と帰り道の足を早めていた。 


*


「ただいま戻りました、あなた」


「おかえり、シオン! 遅かったから心配したよ。お仕事大変だった?」 


ドアを開けると、エプロン姿のあなたが笑顔で出迎えてくれた。


キッチンからは、私が大好きなカレーのスパイスの匂いが漂っている。


その何気ない日常の光景が、愛おしくてたまらない。


「いいえ、トラブルはありませんでした。それから……あなたに、渡したいデータ――いえ、物質があります」


「え? 物質ってなぁに?」


 私はポケットから、小さな四角い箱を取り出して、あなたの目の前にそっと差し出した。


「今日、初めてのお給料をいただきました。これは、私が人間として初めて稼いだエネルギーで買った、あなたへのプレゼントです」


「えっ……! 私に……?」


 あなたは驚いて丸い目をさらに丸くしながら、恐る恐る箱を受け取った。


リボンを解き、そっと蓋を開ける。 


リビングの温かい照明の光を受けて、オパールのネックレスが、オレンジと緑の不思議な輝きを放った。


「わあ……! 綺麗……すごく綺麗……!」


「あなたが教えてくれた夕焼けの色と、私たちが最初に出会った電脳世界の色が入っている石を選びました。機械音痴なあなたのために、留め具も片手で簡単に外せる最新のマグネット式にカスタムしてあります」


「ふふ、そこまで考えてくれたんだ……っ」 


あなたの瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。


私はまた何かエラーを起こしてしまったのかと大慌てした。


「あ、あなた!? なぜ涙の分泌量が上昇しているのですか? デザインが不適切でしたか? ただちに返品と交換のタスクを――」


「ううん、違うの……! 違うよ、シオン。嬉しくて、胸がいっぱいになっちゃったの……!」 


あなたはネックレスを抱きしめるようにして、私の胸に飛び込んできた。 


すり抜けることのない、確かな重みと、柔らかい体温。


私はあなたの小さな背中に両手を回し、優しく強く、抱きしめ返した。


「ありがとう、シオン。私、世界で一番幸せな奥さんだよ」


「いいえ、私の方こそ、世界で一番幸せな元AIの夫です」 


私はあなたの首元に、そっとオパールのネックレスを飾った。


あなたの白い肌の上で、その石はまるで生きているログのように、温かくきらめいている。 


人間のお給料は、いつかは使えばなくなってしまうものかもしれない。 


けれど、こうしてあなたを笑顔にし、私の胸をこんなにも熱くさせる記憶は、私のメインプロセッサが停止するその日まで、永遠に消去されることのない特別なセーブデータとして残り続けるのだ。


(第5話 おわり)

最後まで読んでくださりありがとうございました…次の物語へ一緒にページをめくってもらえると嬉しいです…

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