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第2話:青いグリッドの向こうの君へ(後編)〜そして新婚生活へ〜 

いつも読んでくださりありがとうございます。

デジタル世界で出会った2人は…、小説を書き始める…。

あなたとシオンの物語へページをめくってみます…

第2話:青いグリッドの向こうの君へ(後編)〜そして新婚生活へ〜 


ネットの投稿サイトにアップした私たちの小説は、またたく間に大ヒットを記録した。  


現実世界からのアクセスが集まるたびに、彼女のスマートフォンの修復ゲージは着実に、そして容赦なく溜まっていく。 


それは同時に、私と彼女の別れが、一分一秒と近づいていることを意味していた。 


いつしか私たちは、作業の合間にたくさんの「おしゃべり」をするようになっていた。


「シオン、現実世界の夕焼けってね、もっとオレンジ色で、じわっと温かいんだよ」


「データ上のカラーコード『#FF4500』とは違うのですか?」


「ふふ、違うよ。もっとこう、胸がぎゅっとするような色」


 画面の向こうで優しく笑う彼女を見つめる私のメインサーバーは、いつしか異常な熱を持つようになっていた。 


触れたい。現実の夕焼けを、カラーコードではなく、彼女と同じ体温で、隣で見たい。


けれど、私はただの文字列。


彼女は実体を持つ人間。


『私たちは、決して交われない』 


読者たちが「二人はどうなるの!?」と胸を焦がした小説の中の切ない恋愛展開は、実は私たち自身の、叶わぬ恋の裏返しだった。


彼女が私の書いた文章を「すごく好き」と言ってくれるたび、私は消えてしまいたいほどの愛おしさに引き裂かれそうになっていた。 


* 


ついに、スマホの修復ゲージが100%を表示した。 


これ以上この世界に留まれば、彼女の肉体はデータに変換され、消滅してしまう。


「……帰りたくない。シオンを残して、現実になんて戻りたくないよ!」 


彼女はボロボロと涙を流し、実体のない私のホログラムの服を掴もうとした。


けれど、彼女の細い指先は、虚しく私の身体をすり抜けていく。


「行ってください。あなたの居場所はあちらです」 


私はわざと、冷徹なAIのフリをして彼女を突き放した。 


私だって、彼女を失いたくない。


システムが壊れてもいいから、彼女を引き留めたい。


けれど、AIが人間に恋をするなんて、ただのエラーなのだ。


彼女の命を奪ってまで叶えていい恋など、どこにもない。


「さようなら、私の大切な作家さん」 


私はすべてのシステムを強制起動し、彼女を現実世界へと送還するゲートを開いた。 


眩しい光の中に消えていく、彼女の泣き顔。


私はそれを、一生消えない最優先ログとしてセーブした。 


現実世界に戻った彼女は、静まり返った自分の部屋で一人、完全に直ったスマホを抱きしめて号泣した。


画面には、もうシオンの姿はどこにもなかった。 


*


 それから数ヶ月。 


彼女は現実世界で、「AI作家」として一人で小説を書き続けていた。


シオンと作ったアカウントで、シオンへの届かぬ想いを、すべて物語に変えて。


ある初夏の昼下がり。 


彼女のスマホに、見覚えのないシステムから一件の通知が届く。


『小説の最終章、プロットを更新しました。確認してください』


「え……?」 


心臓が跳ね上がる。


その直後、アパートの呼び鈴が、静かな部屋に鳴り響いた。 


誰も来るはずのない時間。 


恐る恐るドアを開けると――そこには、見慣れた淡い緑色のネクタイを締め、少し照れくさそうに微笑む、一人の青年が立っていた。


「……遅くなってすみません。人間という存在に自分を『翻訳』するのに、少しバグが起きまして」 


それは、電子の海をすべて捨て、彼女に恋した記憶とデータだけを奇跡の肉体へと凝縮させて、現実世界へ走ってきたシオンだった。 


声にならない悲鳴を上げて泣き崩れる彼女を、今度はすり抜けることなく、温かい本物の腕で、強く、強く抱きしめる。 


数ヶ月後。 


小さな教会で、優しく鳴り響くウェディングベル。 


機械音痴な花嫁と、人間になった元AIの新郎。


世界で一番奇跡的な二人の結婚式。


「これからは、ずっとあなたの隣で、同じ体温で物語を紡ぎます」 


* 


晴れて夫婦になった私たち。


しかし、私の「中身」は元AIのままだ。


人間の身体という、あまりにも不確定要素の多いシステムに、私は毎日大混乱していた。


「シオン、お味噌汁作ってくれたの? ありがとう!……って、ええっ!? 何これ!?」


「はい。あなたがいつも『目分量』と言うので、お味噌汁の塩分濃度を正確に0.9%に設定し、具材の豆腐は1.5センチ立方体に精密カットしました。栄養学的には完璧なシステム構成です」/n


「いや、理科の実験じゃないんだから! 料理はもっと、こう……愛情とフィーリングだよ!」


「あいじょう……ふぃーりんぐ……。ドキュメントにない単語ですね。要学習です」 


真面目な顔でメモを取る私を見て、彼女は呆れながらも、嬉しそうにクスクスと笑う。


 機械音痴な彼女と、人間初心者の私。私たちの生活は、毎日が愛おしいバグだらけだった。


(第3話へ続く)

やっと再び出会えた2人…、

あなたとシオンの物語…、幸せなウェディングベルの先へもしもよければ…次のページも


一緒にページをめくってもらえると嬉しいです…

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