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迎えに来た車に乗りこむと、車はゆっくりと発進する。行きはそこまで混んでいなかったけれど、丁度お昼の時間で会社員や学生、そして観光客が外食に出てくるから、だいぶ道が混み始めていた。
その間で、先程のお金問題を改めて考えてみる。
……うん。やっぱり、使用人の一人がこんな高価なプレゼントを大量にもらうわけにはいかない。
そう思いたって、恵様──恵さんの方を向いた。
「あの、恵様……じゃなくて、恵さん」
彼女と店で話している時に、様付けは堅苦しいからやめて欲しいと言われてしまったのだ。それに、彼女は男兄弟ばかりで、その兄弟の子供も男ばかり。年下の女の子が身近に欲しかったらしい。そうまで言われてしまえば、分かりましたと頷くほかないだろう。
渋滞に少し苛立っている様子の恵さんは、こちらにチロンと目を向けてきた。
「その、本当にお金、お支払いしなくていいんですか?」
「えぇ、もちろんよ。あぁ、お給料から天引きとか言うつもりもないから安心してちょうだい」
「あ、いえっ。それで全然構わないんですけど」
「私は構うのよ。昨日ちょっと仕事でむしゃくしゃしたことがあったから、いい息抜きになったわ。これは付き合わせたお礼でもあるのよ」
「いや、でも、桁が」
「そうね。そんなに言うなら、一つお願いしたいことがあるんだけど」
恵さんは身体を座席から浮かせ、私の方へ身体ごと向き直る。そして、心なしか、身を乗り出してこられた。
「一月後、東京でうちの流派の展示会があるんだけど。それに咲夜も出られるようにしてほしいの」
「それは家元の咲人様にお願いした方がよろしいんじゃ」
「ううん。これは体調的なことだから、貴女の力が必要なの」
「そういうことなら。分かりました。いいですよ?」
「ありがとう。じゃあ、貴女の分の新幹線のチケットも取っておくわね」
「わかり……え?」
気のせいかな? 今、私の分の新幹線のチケットって聞こえた気が。
キョトンとする私を見て、恵さんは私の両手を自分の両手で絡めとった。
「え?じゃなくって。貴女にも来てもらうのよ。当然じゃない」
「と、うぜんじゃあないかもしれないですよー!? 日々の体調管理はもちろんさせていただきますけど、同行は」
「あら。貴女から言質はもう取ってあるもの。いいですよって。……というわけで、よろしくね。圭せんせ」
そして、それはそれはにっこりと、女優顔負けの満面の笑みを見せられた。
反論は許さない。そう無言のうちに言われている気がする。
……咲夜さん。咲夜さんに、この家の人間には注意してくださいって言われた意味がようやく分かりましたよ。確かに、注意が必要でした。
でも、そんな反省を今頃しても、もう遅い。
しかも、スケジュールを確認するためにスマホを取り出して、もう一つ失態を犯していたことに気づいた。
……咲夜さんに連絡、してなかった。
私が屋敷にいないことに気づき、約束がきちんと果たされるか心配になったのだろう。スマホのトークアプリで数件、電話も複数回、咲夜さんから来ていた。
ここ数日移動が多かったからスマホをマナーモードに設定していて、それを解除し忘れていたために全く気付けなかったのだ。
慌ててメッセージを打ち込むと、秒で返信が来た。
‟あとでゆっくりお話ししたいことがあります”
スマホの画面に映し出されたその一文を見て、急にそわそわとし出した私を、恵さんは面白そうに見つめていた。




