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ヒラヒラと手を振って上がった熱を冷ましていると、咲夜さんと目が合った。
……あ。これ、咲夜さんにも聞かれてるやつ。
うわーっ! なし! さっきのホント無しで!
アラサーのちゃん付け呼びほど恥ずかしくなるものはないって!
でも、咲夜さんが気にかけたのはそこじゃなかったみたいだった。
「ここにいる間はもっと緊張感を持ってください」
「は、はい。その、ごめんなさい」
「それは何に対して謝ってるんです?」
「えっと……」
あ、あれ? 怒って、らっしゃいます?
眉は顰められ、いつもより少し早口になっている気がする。
何に対して謝っているか聞かれ、すぐに答えられず答えを出しあぐねていると、咲夜さんがハッとした顔つきになったかと思えば、そのまま横を向いてしまった。
「……すみません。貴女に八つ当たりしても仕方ないのに」
「いえ」
八つ当たりされてたのか、私。別にそれは構わないんだけど。暴力を受けたわけでもないし。
「でも、本当にこの家の人間には、特にさっきの樹には注意してください。必要最低限以外は誰とも話さない方がいいです。でないと、貴女にとって辛い場所になってしまう」
「それは……でも……」
「大丈夫です。話し相手が欲しいなら、私がいつでもお相手しますから」
「いや、さすがにそれは……ご迷惑だろうし」
「迷惑だなんてそんな。私が好きですることですから」
「……」
いやーいくら好きでするからとは言っても、私だってこの家の人達との交流っていうのも必要だと思うんだよね。だって、信頼関係築けてなきゃ、何かあった時に情報もらえなくて必要な判断出せないし。そりゃあ、出すような状況にならないことが一番なんだけど。
エヘヘと笑って誤魔化す私を咲夜さんもそれに負けず劣らずの笑みで返してくる。若干圧力がある気がするのは私の気のせいだと思いたい。
「そうだ。もう少しで夕食ができるみたいです。棟ごとに食事の時間が分かれているのですが、さすがにお一人で食べるのも味気ないでしょう? 私もこちらでご一緒してもいいですか?」
「えっ? それなら、私が垣内さん達と一緒にいただけないか聞いてみるので大丈夫ですよ」
「……実は。僕、たくさんの人達と一緒にとる食事というものがどうしても苦手で。だから、母屋でも一人で食事を摂ってるんです。圭さんがどなたかと一緒に食べられるというのであれば、残念ですが、今日も一人で食べますね。あ、でも、今日、苦手なものがあったから残すかも」
そういえば、東京の家でも人参やら椎茸やら端に避けて残そうとしてたっけ。垣内さんと私から言われて渋々食べてたけど。
この調子じゃ、また残しかねないなぁ。ただでさえ細いのに、これ以上食を細くしちゃダメだ。
なにより、せっかく作ってもらってるのに、最後まで全部食べないっていうのが作ってくれた人に対して申し訳ないって。
「……その、そういうことなら。一緒に食べましょう」
「本当ですか? ありがとうございます」
咲夜さんは名前の通り、花が咲いたような笑顔で喜びを示してきた。
まるで子供のようにはしゃぐ咲夜さんを見ていると、小児科で会った子供達を思い出すなぁ。
あの子達も自分の病気のことなんて全く気にもせず、病気ながらも元気に最近の出来事で自分が嬉しかったこと、楽しかったことを話してくる。それを聞くたびに、自分にできることならなんでもしてあげようと診察に力が入ったものだ。
その時と同じ感じが、目の前の咲夜さんに対して湧いてくる。
見た目が儚い感じがするから子供達みたいに庇護欲が湧くのかなぁ?
「じゃあ、僕はもう一つ仕事を片付けてきますね」
「あ、はい」
「また夕食の時になったらここに来ます。やっぱり皆と食事を摂ることにしたなんて言わないでくださいね?」
「そんなこと、言うわけないじゃないですか! ちゃんとここで頂きますから。その代わり、絶対に全部ちゃんと食べてくださいね!?」
「……ハハッ。はーい」
樹さんと話していた時の固い表情はもうすっかり和らいでいる。
気分も持ち直したのか、その証拠に軽快な足取りで母屋の方へ戻って行った。
……うーん。あの様子からして、私が家にいる時は必ず一緒にって誘ってきそうだな。
雇い主の家族と食事。……うーん。嫌なわけじゃないけど、なんだかなぁ。




