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さて、と。私は荷ほどきでもしようかな。
箪笥とかすでにおいてあるけど、なんでも自由に使っていいってすみれさん言ってたし。とりあえずは使わせてもらって、徐々に足りないものを揃えていければいいや。
それから一時間。
すみれさんという癒しになんとか緊張をほぐしてもらえ、順調に荷ほどきを終えた私はポカポカと温かい日差しについ畳の上にそのまま横になってしまった。
畳の良い匂い。気持ちいいー。
んー……ちょっとだけ、目つぶって……休憩。
休憩なのだから、この時はたんに数分のつもりだったのだ。
でも、春先の陽気には逆らえなかったらしい。私はずるずると眠気の渦に巻き込まれていき、戻れないところまで飲み込まれてしまっていた。
「……無防備すぎやん」
すぐ側で畳を何かが擦る音と一緒にその声が微睡みの中にある私の耳に入ってきた。そして、僅かに髪を引かれる感触がある。
さすがにずっと目を閉じたままでいるわけにもいかず、目を開けた。
目の前に、どこかで見たことのある男の人の顔が飛び込んでくる。
ちょっ、誰!?
「目、覚めたんや」
「え、えっと。とりあえずどいてもらってもいいですか?」
「ん? あぁ、かんにんかんにん」
男の人が身体を退かすと、身体を起こしてきちんと座り直した。
「初めましてやなぁ。俺は小此木樹。よろしゅう」
「こちらこそ初めまして。佐倉圭です。よろしくお願いします」
咲夜さんと同じくらいかな? 確か、従兄弟だったはず。
でも、咲夜さんとは違って……なんだろう。笑顔が嘘くさいっていうか、顔は笑ってるけど、本心じゃなさそうっていうか。あんまり歓迎されてないのかもしれない。
まぁ、確かに、こんなひよっこが自分の家の専属医なんて心配だよね。うん、分かる。
「やけど、驚いたなぁ。お爺様、君を家に迎え入れることを許したなんて」
「え?」
樹さんは両手を畳に後ろでにつき、身体を支えながら部屋をぐるりと見渡した。
「見ての通り、客用の棟とはいえ、ほとんど使わせてへんやろ? お爺様は極度の人嫌いなんや」
「なるほど」
人嫌いなら、西森先生は私をここに薦めた時、本当になんて言ったんだろう?
さっき初めて会った時、めちゃくちゃ見られてたし。
部屋に通されてすみれさんも私につかせてくれたってことは、お眼鏡にかなったって思っていいのか分からないけど、とりあえず第一関門はクリア、なのかな?
「まぁ、アイツのお気に入りなら納得やな。お爺様はアイツにはなんやかんやいうて甘い」
「え? アイツ?」
「咲夜や。……なんや、知らへんの? アイツ」
樹さんが何か言いかけた時、障子が勢いよく開け放たれた。
びっくりしてそちらを見ると、息を切らした咲夜さんが立っている。
「……そこら辺にしてもらっていいですか?」
「なんや。もう来てもうたん」
「その人には手を出さないでください。そんなに欲求不満なら家から出たらどうですか?」
「おぉーおぉー。よう言うわ。誰かさんが人多いとこ行くとすぐ気分悪うなるせいで、大勢の前に出る行事は全て俺に回してくるくせして」
「それとこれとは話が別です。早くこの部屋から出て」
「別にもう少し話しててもええやろ?」
「駄目です。貴方と一緒にいると、彼女がどんな目に遭うか分かったものじゃないので」
「なんや、それ。フリか?」
「っ! いい加減にっ!」
冷ややかな嘲りともとれる笑みを浮かべている樹さんに、頰を僅かに赤く染めた咲夜さんがくってかかる。
これまで穏やかな咲夜さんしか見ていなかったから、これには本当に驚いた。
……って、呑気に驚いてる場合じゃなくて!
「お、お二人共っ! 喧嘩はやめてください!」
咲夜さんが樹さんの襟元に伸ばしている手を引っ張り、間に入った。やっぱり、咲夜さんも男の人だ。力強くて、なかなか引き離せない。こんな細い腕にどこにそんな力があるっていうんだか。
筋肉の付き具合からして、食べても筋肉というか脂肪がつきにくいから痩せてるっていうのは分かるけど、女としてその体型、ものすごく羨ましいっ!
……って、これも違う!
そんな私の乱れた心の声が読まれたのか、樹さんが億劫そうに乱れた前髪を整えた。
「なーんか興醒めしたわ。ほな、圭ちゃん。またな」
「圭ちゃん!?」
さ、さすがにこの歳でちゃん付けは恥ずかしすぎるっ!
是非ともやめてもらわなきゃ……って、もういない。今度会った時に同じように言われたらその時こそ言わなきゃ。他の人に聞かれたらもう、ほんと……あー恥ずかし。




