いよいよ対決
ルビナスが言ったとおり、満月の夜に動きがあった。
事前に準備は出来ていたけど、気持ちとしては複雑だ。
だって、実の父と敵対するのだから……
城の外にある開けきった広場には、レオ様やお兄様、騎士達の姿がある。
それぞれこらからの戦いに備え、いろいろ準備中だ。
――お父様もやっぱり来ているんだよね?
私は竜を撫でているレオ様を見ながら思った。
レオ様は偵察に行ってきた竜と話をしているんだけど、早く結果が知りたい。
「――そう。やっぱりニヒル、ベラノ、エリセの三方向から攻めるつもりなんだね。ありがとう」
レオ様が竜を撫でながら言えば、竜が目を細めて小さく「キィ」と鳴いた。
その光景を見て、私は肩を落とす。
あぁ、やっぱり来るのか。
自分と関わりのない人との戦いならまだしも、実の父との戦い。
ほとんど関わりがなかったけど、やっぱりちょっと複雑だ。
お父様は操られているのだろうか?
それとも自分の意志で?
疑問がつきないため、私は深いため息が漏れてしまう。
「ルナ、大丈夫か?」
背にお兄様の声が届いたので振り返れば、不安そうな表情をしているお兄様の姿があった。
「お兄様……」
「あの男のことを考えているのか」
「はい。一応、父ですから」
私が発した迷いを含んだ声を聞き、お兄様が私の頭を撫でた。
「ルナは優しいな。全員、俺が倒すから安心してここで待っていろ」
「いいえ。お兄様だけで戦うのは負担になってしまいます。当初の予定とおり、エリセ、ニヒル、お父様のそれぞれと戦うべきですわ。それに、エリセの正体が聖女なら私が戦わなければなりません。私も戦いますわ」
ルビナスの予想では、お父様達は三つに別れて襲撃するだろうと……
そのため、私達も三つに別れて騎士団を動かすことになっていた。
「――ルナの言うとおりですよ」
レオ様の声が聞こえたので、私とお兄様は一斉に振り返れば、穏やかな笑みを浮かべたレオ様が立っていた。
彼は私へ手を伸ばすと、優しく肩に触れながら言う。
「さすがにお兄さんだけを戦わせるわけにはいきませんよ。それに、ニヒルは僕が倒します。僕のルナに手を出すつもりならそれなりの報いを受けてもらいますので」
「何度言ったらわかる? 俺はお前のお兄さんではないし、ルナはお前のではない」
お兄様は腕を組んで苦々しい表情で言えば、レオ様が肩をすくめた。
「あいかわらずですね。お兄さんは。どうか、気をつけて下さいね」
「お前に言われるまでもない」
「お兄さんには僕とルナの結婚式に参加して貰わなきゃならないので」
「はぁ?」
お兄様がレオ様を睨んだ時だった。
フレッド様の「ジル!」と遠くからお兄様を呼ぶ声が届いたのは。
どうやらそろそろ出発の時間のようね……
「お兄様。お気を付けて」
「あぁ、ルナも」
お兄様は私にそう言うとフレッド様の方へ足を踏み出しかけたが、ぴたりと止まってしまう。
どうしたのかな? 忘れもの? と首を傾げれば、お兄様はレオ様の方を見た。
「おまえも気を付けろよ」
その発言に私とレオ様が大きく目を見開く。
「気にかけてくれるんですね」
「……ただの気まぐれだ」
お兄様はそう言うと今度は振り返らずに進んだので、私とレオ様は顔を見合わせて微笑んだ。
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その後。私はレオ様とも別れ、ルビナス達を率いてエリセがいる西の森へと進んだ。
夜の森はとても不気味でランプと月明かりだけでは心許ない。
左右を木々に挟まれた一本道を通っているんだけど、葉同士のこすれる音や私達の足音だけが聞こえてくるのみ。
だから、余計に気味が悪い。
「……なにかしら?」
とかすかに感じた闇の魔力。
そのため、私は足を止めて辺りを見回す。
すると、木の陰に人の姿を見つけた。
しかも、一人ではなく数人だ。
――エリセが仕掛けて来たのかも。
最大限に警戒すれば、ルビナスが「でてこい」と声を荒げる。
すると、ガサガサと音を立てて黒い影が飛び出してきたんだけど、それを見て私は目を大きく見開いてしまう。
「に、人形……?」
それは等身大の人形だった。
しかも、人形は手に鉈やナイフを持っている。
人形達が一斉に攻めて来たため、騎士達が応戦し始めた。
私も剣を抜き一緒に戦おうと思ったんだけど、なぜか一向に私には向って来ない。
まるで私を避けているかのように……
「もしかして、一人で来いって言っているの?」
私の傍には人形が近寄らず、普通にまっすぐ進めるようになっている。
「ルビナス、ごめんなさい。先に行くわ」
「聖女様!?」
戦闘中のルビナス達が顔をこちらに向けたので、私は前方を指でさした。
「呼ばれているみたいなの。だから、ここは任せるわ。ここから先は私に任せて」
私はそう言って微笑むと駆けだす。
ルビナス達をわざわざ足止めするくらいだから、ターゲットは私なのだろう。
やがて間もなく目的地に到着した。
結構走ったつもりだったんだけれども、ルビナス達が戦っている気配を感じるので、遠い距離ではなかったのかも。
開けきった場所に彼女が立っていた。
いつもは綺麗なドレスに身を包んでいたけど、今は体のラインが出る黒いワンピースを着ている。
最後に彼女の姿を見てから数年の歳月が経過しているのに、あの頃と同じ美しさ。
まるで時間が止まっているかのようだった。




