つかの間の日常
私とレオ様が婚約してから4年が経過。
この間、私は16歳の誕生日をお兄様達に盛大にお祝いして貰ったばかり。
本来ならば15歳で大聖堂に居を移さなければならなかったけど、レオ様と婚約したのであのまま城で暮らしている。
お兄様は相変わらず執務に忙しくバタバタしているけど、それでも私との時間を作ってくれていた。
聖女の執務をしながらお兄様とお茶をしたり、訪ねてくるレオ様とお茶をしたり……幸せな時間を過ごせている。
でも、気がかりなのが一つだけ。
それはお父様のこと。
すぐに見つかると思っていたけど、なかなか見つからず未だに捜索中だ。
――お父様達、一体どこに隠れているのかしら?
ぼんやりと思っていると「ルナ」と呼ばれ、私は顔を上げた。
目の前にはお兄様やフレッド様、それから騎士達の姿がある。
彼らの傍には馬車も止まっていて、見送りの侍女達がずらりと並んでいる。
――あぁ、そうだったわ。お兄様の見送り中だった。
お兄様は同盟国の建国パーティーに呼ばれていて、これから出発する予定。
馬車で日帰りでは戻ってこられないので、一泊してくるみたい。
「どうした?」
お兄様が首を傾げながら言ったため、私は首を左右に振って微笑む。
「なんでもありませんわ」
「なら、いい。俺がいつも気がかりなのはルナのことだ」
お兄様が頬を撫でながら言ったので、私はクスクスと笑いが零れる。
もう16なのにお兄様の前では私は小さな妹なんだなぁ……
「お兄様も道中気をつけて下さいね」
「ルナも気をつけるんだぞ。特にあの男に」
お兄様がいまにも舌打ちをしそうなくらいに顔を顰めながら言う。
あぁ……きっとレオ様のことね。
いつもお兄様とレオ様は会えば必ず見えない火花を散らすんだけど、それには私を含め周りの人々も慣れてしまった。
「――心配しなくても大丈夫ですよ。お兄さん。僕がルナの傍にずっといますので」
「え?」
突然、肩を触られたかと思えば、そんな声が聞こえてくる。
横を見れば、そこにはレオ様の姿が。
いつの間に? まったく気配なんてなかったよね。
「また来たのか、ガキ」
お兄様が腕を組みながら言えば、レオ様がにっこり微笑む。
「ガキじゃありませんよ、お兄さん。確かに初めてお会いした時は子供でしたが。それより、そろそろルナとの結婚を認めてくれませんか。早く一緒に暮らしたので」
「俺より弱い奴は認めないと言っただろ」
「でしたら、問題ありません。僕は強いので。試してみますか? お兄さん」
「いいだろ、試してやる」
二人が剣を抜きはじめてしまったので、私は慌てて止めに入る。
「もう! お兄様もレオ様もやめて下さい! これ以上揉めるなら二人と口をききませんよ」
子供の喧嘩かな? と自分でも思う止め方だったけど、ここで戦われても周りに迷惑をかけてしまうので仕方がない。
この二人は仲があまりよくないんだよね……
「それは困る」
「僕もそれは厳しい……」
レオ様とお兄様はそれぞれ剣をしまってくれたので、ひとまず安心。
「ジル。そろそろ、出発しないと間に合わない。後のことは俺に任せろ」
フレッド様の言葉にお兄様がしぶしぶ頷いた。
お兄様は私の護衛騎士達に低い声で「ちゃんと見張っておけよ」と釘をさすと今度は私を軽く抱きしめ「いってくる」とひと言残して馬車に乗る。
馬車の窓からお兄様はレオ様を見ると口を開く。
「いいか、ルナに手を出すなよ」
「節度あるお付き合いを約束します。ここでは騎士達の目がありますので。お兄さん、お気をつけて」
「お前に言わずとも」
お兄様の合図により馬車がゆっくりと動き出していった。
「あっ、そうだった。お兄さん! 僕、今夜ここに泊まらせて貰いますので!」
レオ様が手を振りながら大声で言えば、馬車の窓からお兄様が身を乗り出して「おいっ!」と叫んだ。
けれども、馬車はもう動き出しているので止まることなく進んでいく。
「竜王様。このタイミングで……?」
「一応、お兄さんにも伝えておかないとね」
レオ様は喉で笑いながらフレッド様に言った。
「では、お兄さんを見送ったので僕とルナはデートに行ってもいいかな?」
「構いませんよ。でも、竜に乗るのは禁止です。竜で騎士達をまこうと考えていると思いますが」
「……」
どうやら当たりだったらしく、レオ様が真顔になってしまう。
「わかったよ。じゃあ、城の庭園にする。ルナ、庭園でゆっくりおしゃべりをしよう」
「はい」
私が頷けば、レオ様が私の背に触れて進むように促してくれた。




