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ルビナスの正体

 ――眠れないなぁ。


 私は寝台の上でごろごろと寝返りをうっていた。

 あまり夜中に目を覚ますことはないんだけど、今日に限って目が覚えて眠れない。


 かれこれ三十分くらいこんな風に過ごしているんだけど、まったく眠気がないんだよね……


 いっそのこと起きて本でも読んでいた方が生産性あがるかも。

 何かのみものでも持って来ようかな。


 侍女から飲み物を入れて貰おうと私は立ち上がった。


「しかし、なんで今日に限って眠れないのかなぁ。いつもすぐに夢の世界にいけるんだけど。それに――」

 私は胸を手で押えた。


 さっきから胸がざわめく。

 原因はわからないけど、あまり良い感じではないことだけは断言できる。


「何も起らないといいんだけど……」

 扉の方に向かいながら言った瞬間だった。

 庭からカサッという葉同士のこすれる音が聞こえたのは。


 なに? と、眉を顰めながらゆっくりと振り返った。


 分厚いカーテンで窓が覆われているからまったく庭先が見えないんだけど、それが余計に恐怖を煽る。

 庭の周りは塀でぐるりと囲まれ、その外側には警備兵が警護してくれているはず。

 だから、外からの侵入者がいたとすれば、とっくに騒ぎになっていると思う。


 庭は静かだから大丈夫だと思うんだけど……


 私はざわつきを無視しようと思ったけど、どうしても気になってしまった。

 確認するだけしよう! と、ゆっくりとカーテンに手を伸ばし、カーテンの隙間から外を覗く。

 真っ暗だけど幸いなことに月明かりの光によって庭の様子が見えた。


 ――特に変った様子はないかな?


 見慣れた庭のままだ。

 特に異常もなさそうだとほっと息を吐き出した瞬間だった。

 木の陰から人の姿を認識できたのは。


 しかも、複数だわ……でも、外の護衛は?


 私がいる部屋とはまだ距離は十分にある。


 とにかく他の人に知らせなければならない。

 廊下にも護衛兵はいるから、すぐに対処してくれるだろう。


 私は物音をたてないようにして扉を開けて廊下へ出たんだけど、そこには目を疑う光景が広がっていた。

 いつも警備をしてくれている兵たちが床に倒れていたのだ。


「えっ、なんで!?」

 慌ててかがみ込んで脈をとったりして安否を確認しようとしたんだけど、すやすやと寝息だけが聞こえてきたので、「ん?」という声が漏れてしまう。


 ね、寝ているの?


 まったく想像もできなかったため頭の中が真っ白に。

 呆然と廊下に立っていると部屋から物音がしたので我にかえり、追っ手が来ないうちに廊下を駆けて居住エリアから抜けることにした。


 狙いは確実に私だろう。

 でも、狙われる理由がまったくわからない。


「もしかして、侵入者を捕まえた方が早いかな?」

 能力も自由にコントロールできるようになったし。

 私が足を止めれば、前方から足音が聞こえてきたので警戒心を強くした。

 近づいてくる足音と共にその姿がだんだんと見えてくる。


「ルビナス!?」

「聖女様!?」

 お互い目を大きく見開いてびっくりしている。

 それもそうだろう。まさか、彼が来るなんて思っていなかったから。

 あっちもこんな夜中に廊下にいるなんて思ってもいないだろう。


「ルビナス、部屋に侵入者がいるの。廊下の警備兵はなぜか眠っているし……」

「やはりですか。見覚えのない顔の神官がいたので気になったんです。この神殿内の人達の顔と名前は全部覚えていますので」

 すごい記憶力だねという言葉を飲み込み、私は口を開く。


「私が捕まえてくるからここで待っていて」

「聖女様がですか?」

「うん。能力のコントロールもできるし。それくらいできるよ」

「申し訳ありませんが、そのようなことを聖女様にさせられません。私が捕らえましょう」

「ルビナスが?」

 彼は武器のようなものを持っていない。

 それにどちらかといえば、お兄様のように先陣をきって戦うタイプというよりは本部で作戦練っているタイプ。

 そのため、心配だった。


「ご安心下さい」

「えっ?」

 ルビナスが落ち着いたトーンで言えば、後方から複数の足音が聞こえてきた。


「聖女様。私の後方へお下がり下さい」

「えっ、あの……」

 大丈夫なのだろうかと戸惑っているとルビナスに強制的に彼の背に庇われるような形をとらされてしまう。

 彼の大きな背に隠れて追っ手の姿が見えないけど、足音がぴたりと私達の傍で止まった。


 どうやら追いつかれたらしいと思った瞬間、ルビナスが俊敏に動きやや間をおきながら男達のうめき声が届く。

 えっ? という声を漏らす時間すら与えず、ルビナスが男達を制圧してしまったのだ。


 私がやっと認識できるようになった時には、地面に伏せている三人の男達の姿が……


「ルビナス、武術得意だったの!?」

「いえ、武術はあまり。剣の方が得意です」

「いや、でもすごいよ!」

 私が感嘆の声を漏らせば、ルビナスが照れた。







 +

 +

 +



 ルビナスの手により侵入者が取り押さえられた後、状況確認のために聖女の居住エリアは封鎖され使用不可になっている。

 そのため、私は神殿の応接の間にいた。

 部屋には私の他に、知らせを受けて駆けつけたお兄様の姿も……


「お兄様。私は大丈夫ですので」

 ソファに座っている私をがっしりとお兄様が抱きしめている。

 近づいたら容赦しないという黒いオーラを纏っているせいか、城から派遣された応援の騎士達の顔色が悪い。


「ルビナスが尋問しているそうだな。あいつで大丈夫なのか? 俺が尋問をする」

 お兄様がちらりとお茶を入れているマーガレットの方を見て言えば、彼女は手を止めこちらをみた。

 真っ直ぐな瞳をお兄様へ向け、ゆっくりと唇を開く。


「いえ、陛下。ルビナスで問題ありません。彼以外の適任者はいないと思います」

 きっぱりと断言すれば、お兄様が訝しげな表情を浮かべる。


「なぜそんなにはっきり断言できるんだ?」

「彼は――」

 マーガレットが言いかけると、扉をノックする音が届き私達は一斉にそちらに意識と顔を向けた。

 返事をすれば、扉が開きルビナスの姿が窺えたんだけど、彼はいつもと違って雰囲気が殺伐としている。

 白い神官服には、ところどころに赤いシミのようなものが付着していた。


「ルビナス、もしかして怪我したの!?」

 私は立ち上がると彼の傍に駆けつけ、頭から足先までさっと様子を確認したんだけど、出血箇所がわからなかった。


「怪我したところ教えて。治癒魔法で治すから」

「ご心配にはおよびません。私の血ではありませんので」

「ルビナスの血じゃない?」

 それじゃあ、誰の血? と一瞬固まってしまったが、もしかしたら尋問中に――


「犯人の目的はわかったのか?」

 お兄様はルビナスの格好を気にせず尋ねた。


「えぇ。目的は聖女様の誘拐。依頼主はニヒルです」

「えっ」

 私は言葉を失った。


「おい!今すぐ離宮に騎士団を派遣しろ。逃がすな。生死は問わない」

 お兄様が騎士達に命を出せば、ルビナスがお兄様に声をかける。


「今、私の部下が離宮に向っています」

「お前は何者なんだ? ただの神官じゃないだろ」

「私は聖女様を守るために設立された秘密騎士団・聖白百合騎士団の団長です。私どもの騎士団は代々の聖女を陰ながらお守りしている組織。ですが……」

 ルビナスは私の傍に来ると跪き、私の手を両手で包み込んだ。


「聖女様。あなたも記憶があるんですよね? ループ前の貴女が辿った世界と違いますから。陛下をやたらと気にしていましたし」

「もしかして、ルビナスもループの記憶があるの?」

「えぇ。あの時、お守りできず申し訳ありませんでした」

 あの時……

 まさか、ルビナスだったの? 私の最後を見届けてくれた騎士って。


「もしかして、それでわざわざ傍で守ってくれていたの? ルビナスって神官は前にいなかったから」

「えぇ。今度こそは貴女をお守りできるように……」

 ルビナスが微笑みながら言えば、不機嫌そうなお兄様の声が飛んできた。


「いつまで人の妹にベタベタ触っているんだ」

「安心しますね。闇落ちしていない陛下は」

 ルビナスが喉で笑えば、お兄様は訝しげな表情を浮かべる。

 何を言っているんだ? という顔をしているが、お兄様はルビナスと私がループしたことを知らないから当然だ。


「聖女様。あとのことは私達に任せてお休みになって下さい。陛下、聖女様をお願いします」

「当然だ。ルナ。行くぞ」

「えっ!?」

 突然お兄様に抱っこされ、私は戸惑ってしまう。

 お兄様にとって私はいつまでも子供のままなんだなぁと思ったけど、もう十二歳なので結構重いんだけど大丈夫なのだろうか。

 そんな不安が過ぎる。


「ねぇ、お兄様。どちらに?」

「王宮だ。こんなところにルナを置いておけるか」

「でも、私は外にはいけないはず……」

 という台詞を口にしたが、お兄様ならなんとかしそうとも同時に思った。








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