お父様達
あの黒い杭の浄化を無事終え、フランを見に丘にやって来た。
開けきったところに赤と白のフランの花が辺り一面に広がり、観光客が見ている。
その周辺には出店もあり賑やかだ。
「聖女様。アイス売っていますよ」
「あっ、本当ですね!」
フレッド様の視線を追えば、立ち並んでいる屋台の中にアイスと書かれた屋台を発見。
水色と白のボーダーの屋根が取り付けられた台車には、冷たいアイス販売中という看板が立てかけられている。
――アイス、すごく美味しそうだわ。今日、ちょっと蒸し暑いから余計そう感じるのかも。食べたいなぁ。お兄様におねだりしようかな?
そんなことを思っていると「ルナ」と呼ばれたため、私はゆっくりと隣に立つお兄様の方を見た。
すると、お兄様がじっと私の顔を見る。
「もしかして、アイス食べたいのか?」
じっと見過ぎていたせいか、お兄様にバレてしまったみたい。
食べたかったので大きく首を縦に動かせば、お兄様が喉で笑う。
「わかった。アイス、食べよう」
お兄様は私の頭を撫でながら言うと、フレッド様の方に顔を向けた。
「フレッド。ルナにアイスを買っ――」
お兄様が微笑みながらフレッド様へとかけた言葉は途中で消えてしまった。
時間が止まってしまったかのようにお兄様が固まっている。
ついさっきまでに穏やかな雰囲気だったのに、どうしたのかな?
お兄様はとある箇所を見つめていたため何を見ているみたい。
お兄様の視線を追えば、そこには目を疑う光景があった。
えっ!? まさかこんなところにいるなんて――
そこにいたのはお父様だった。
お父様は私と同じ年くらいの男の子と手を繋いでいる。
男の子の片方の手は綺麗な女性がしっかりと握っていた。
もしかしたら、お父様の寵愛を受けているエリセとその子供・ニヒルなのかも。
名前は知っているけど、今まで見たことがなかったんだよね……
一度見てみたいと思っていたけど、まさかここで出会うなんて。
三人横一列になりながら花を見て談笑している。
彼らの素性を知らない者が見たら、どこからどう見ても仲の良い家族で微笑ましく思うだろう。
さすがに皇帝の顔を知らない者は王都にいないので、周辺の人々は遠巻きにざわついている。
――あっ。
じっと見過ぎたのかお父様がこちらに気づいたらしく、私達を見て目を見開いた。
和気あいあいとした状況になんてならない。
だって、お父様は私達よりもあちらを取ったのだから……
これからの流れが不安すぎて私はぎゅっと自分の手を握りしめた。
妙な緊張感に包まれつつ、お父様の動きを見守っていたけど、お父様は何事もなかったかのように私から視線を逸らすと穏やかな表情でニヒルを見た。
えっ、あんな表情できるの?
初めてみるお父様の笑顔に対して、私は戸惑ってしまう。
なんとも言えない空気が私達に流れ、誰も動けない。
そんな中、こちらの空気を感じていないのか、ニヒルが「わぁ!」と顔を輝かせながらこちらに駆け寄ってきた。
私の前に立つとキラキラとした目で私を映しだす。
――えっ、なに? 私、特に珍しいものなんて持っていないよね。
一応、ざっと自分の格好を眺めるが特に変ったものは身につけていない。
いつもの神殿で着ている普通の白いワンピースだ。
そんなに目を輝かせるものなんてないはず。
「かわいい! お人形さんみたいだね。ねぇ、お名前なんていうの?」
いや、そんなに興味を持たれても……
私は貴方が隣にいる男性の娘ですよ!? と、声を大にして言いたかった。
「ねぇ、一緒にお花見ようよ。綺麗だよ?」
「えっと……」
戸惑っていると、ニヒルがこちらに手を伸ばしたので体がビクッとしてしまう。
それをお兄様が見ていたらしく、私を背後に隠してくれた。
「俺の妹に気安く話しかけるな。触ろうとするな」
「どうして邪魔するの?」
ニヒルが頬を膨らませながらお兄様を見たが、お兄様はスルーして私と手を繋ぐ。
「ルナ、行くぞ」
「はい」
この場をさっさと離れた方がいいだろう。
お兄様、ブチキレそうだし。
それに、なんかニヒルが怖い。ぐいぐい来られているという理由だけじゃなく、なんか違和感を感じるんだよね。
なんでだろう?
それに……――
私はちらりとお父様の傍にいる女性・エリセの方を見た。
彼女から妙な気配を感じる。
お父様、この二人の傍にいて大丈夫なのだろうか。
私が心配するようなことじゃないかもしれないけど。
「ルナちゃん、バイバイ」
ニヒルが手を高く上げながら左右に振りつつ言ったので、私は軽く会釈をして前に進んだ。




