ある日の壮絶な遊び:増え鬼編 裏話
うっかり思いつきました。短いです。
そこは大きな部屋だった。
奥の窓際には上質な木材を用いて作られた重厚な机が置かれており。
壁に備え付けられた長大な本棚に詰め込まれている高価な本の数々が背表紙を見せている。
床には大小様々な魔術具が理路整然と並べられ、中には宙に浮いている物すらあった。
そしてそれらを扱うに相応しい風格と威厳を兼ね備えた白髭の老人がその部屋には居た。
ただ普段であればその威厳を発揮しているだろうその表情も今は好々爺と言っていい程に緩んでいる様を他の者が見れば誰だあれはと叫んでいるだろう。
その理由はその部屋にもう一人少年が居るからだ。
少年の名はセン・フォン・ラインボルト。
「学院長」
「ほっほ、そう急かすな。機が逃げるぞ?」
表面上は何故自分がここに、と言った感情を見せている少年をからかうように右手に持った酒瓶を軽く振ればため息が聞こえて来るのを楽しみながらも老人は軽口を叩く。
「それを言うなら気が抜けるでは?要件があるなら早めにお願いしたいのですが」
「何、この酒を本棚の隠し蔵に隠せば……。ヌシも飲むか?」
ワザとだろう、キツイ口調で急いて来る彼に誘いをかけてみればしばしの沈黙。
「味は?」
「果実系かの」
「頂きます」
「素直で結構。ほれ」
何かを考えていたようだったが結局は受け取る事にしたらしい。
そこでピンと来た事があったので数本見繕って渡してみれば嫌そうな顔をされた。
考えを見透かされたのが気に食わなかったらしいがそれを隠せない内はまだまだ子供じゃの。
「……何故複数渡すのでしょうか」
「どうせオヌシは飲まんじゃろ。先払いじゃ」
「気遣い、ありがとうございます」
「ほっほ、なに、これから頼む事に比べればのう」
「既に嫌な予感がしますが?」
おおかた家の者への贈り物にでもするだろう。
メイドも多いゆえに果実を望んだのかも知れんがあの家は、のう?
「それで今回は何の用件で?」
「明日ちょっとした催しをやるんじゃがの。その中でこなして欲しい事がある」
「ちょっとした……」
ちょっとした、の部分で更に嫌そうな顔になったのではて、今まで無理難題は言ってなかった筈じゃがのうと考えながらも机に戻り引き出しから必要な紙束を取り出す。
「今度は平穏無事に終わる依頼でしょうか」
「うむ。ちょっと学院中の厄介な魔法陣を破壊して欲しいだけなんじゃが」
「……一応聞いておきますが、数は?」
『絶対面倒臭い』と思っている顔じゃな。とは言えわざわざ頼まねばならん理由もある。
知ってしまえば確実に断れんじゃろう。
「三桁と言った所かの。学生諸君の物も多いのでワシ達が手を出しにくい」
「それで、何故自分が?」
「場所を記した地図を渡すが分布がオヌシ達の行動範囲に集中していての……」
「は?」
理由がさっぱりわからない、と言った顔をしているがこればかりは事実を知ってもらうしか無いので場所が多彩過ぎて束になってしまった校内地図を渡す。
お互い無言のまましばらく紙をめくる音が続き、やがて目の前の少年が顔を上げた時には盛大な溜息を堪えているのが見え見えだった。
自分では目立っていないと思っていたのだろうがそれはそれ、不自然な点が多く、そしてあの方に気に入られていると皆が知っていれば自然と注目も増える。
今回もそう言ったものが積み重なった結果であり、彼流に言うならば有名税かの?
「……」
「ほっほ、わかったかの?」
「はぁ……、わかりました」
『ちょっとした催し』の内容をこちらに聞く事も忘れたように眉間を揉み解す目の前の少年はまだまだ伸びるだろう。本人は平穏な生活を望んでいるらしいが彼女達はこのお人好しとも呼べる者を放置するような者達ではないしの。
そんな事を考えながら楽しそうに学院長は頼み事を告げた。
「では、頼んだぞ?」
「ええ、張り切らせて頂きます……」
楽しそうに笑う学院長とは対照的にその顔はただただ嫌そうであった。




