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ある日の壮絶な遊び:増え鬼編

ひたすら読んでいたら妄想する事すら忘れかけていました。

ガルツ王国中央学院はその日、全域に爆音が響き渡っていた。

正確に言えば何かを追うかのようにその音達は動き続けている。

その音が発生する先には走り続ける一組の男女がおり、走り続けながらも時折後ろを振り返っては飛んでくる攻撃を迎撃し続け、時折現れる罠に対しては片側が気付けばもう片方に伝え、先回りした者達は風が薙いだだけの様に蹴散らされていく。

追いかける者達は表が赤、裏が青の生地を使った布を青い面を上にして体の何処かしらにつけており、逃げる二人は赤い面を表にして着けていた。


「前方交差路に4名!足元にトラップ!拘束系!」

「後ろの妨害で無理!任せた!」

「数が多いな!それと10秒後に追加で来るぞ!」

「誰か他は残って無いの!?」

「隠れるのが上手い奴ならあり得るだろうな!」


少年の名はセン・フォン・ラインボルト。

少女の名はフラロンス・フォン・リッケルトと言う。


「ああもう!なんでこんな事になってるのよ!」

「あの後輩が言うには『簡単なレクリエーション』らしいぞ!」

「アンタが決めたルールでしょうが!」

「まさか追加報酬があんなモノだとは思わん!」


増え鬼。

まず最初に鬼を一人決め、追いかけ役となる。

残りは子となり鬼から逃げるのが目的である。

増え鬼の場合は子が鬼に捕まった場合に子も鬼に転じて子の追いかけ役となる。

最終的に全員が鬼になれば終了。

ただし今回は『最後の一人を捕まえた人には特別報酬』と言う追加ルールがあった。

その内容も自由に決めて良く、捕まえられた当人と捕まえた者同士で出来る範囲でと言う縛りもあったが基本的に最後まで残る様な者は有能な者が多く、また捕まえる側も技術が要求される為に概ね成績が高い人格者の内の誰かが捕まえるだろうと言う上の判断もあったのだが……。


「ラインボルト先輩!わ、私が勝ったらデートを!」

「雷撃縛りなのはそう言う事か!済まないが今はまだお断りさせて頂く!」

「リッケルトさん!お、おれ、俺とお付き合いををを!」

「強引な男は嫌われるわよっ!」


学内でも有名な二人に言い寄ろうとする者は後を絶たない。

純粋に惹かれた者、当人に惚れた者、家に取り入ろうとする者。

それらを悉く跳ね除けていたツケと言うべきものが今日解放されていた。

大体は平和な報酬内容を望む者が多いがやってくる事は流動的な魔法戦である。

一度に相手する人数は通路と言う関係上限られているが波の如く押し寄せて来る人波をどうにか捌き続けられているのは成績上位者の意地であり同時に自分が捕まりたくないと言う考えからだろう。

おまけに先程には追加ルールとして二人を同時に捕まえたなら二人に頼み事が出来るようになったらしく、ますます攻撃の手は苛烈になっている。


「少々生き残り過ぎたか」

「早めに諦めてれば被害は少なかったかしらね」

「片方が捕まって即座に終わらせればそれで良かったやもしれん」

「……さっさと思いつきなさいよっ!」


二人が会話を続ける最中にもまた一人、生徒が宙を舞い後ろに流されて行く。そして空いた隙間に別の生徒が入ればまた攻撃が継続されて行く。どうやら一度KOされた者は挑戦権を失うらしく先程から二度同じ顔を見る事は無くなっている。そして純然たる魔法使いも少ない為あの手この手で勧誘や仕掛けを行使する者も多い。だがその悉くを退けていく二人に対し賞賛と畏怖が高まっていく事に対し逃げる二人は気付かずに雑談を交わしながら駆けて行く。


「何を言う、フラロンス嬢とて忘れていたではないか」

「今ばかりはその口調にイラっと来てるから変えなさい」

「わかったわかった。それで、何が疑問だ?」

「誤射の理由は何かしら」


また一つ魔法が迎撃されるのを横目で見ながらも少女の目はしっかりと誤射と見せかけつつ遠くに見える天井に着弾した一発がそれまで見えていなかった魔法陣を砕くのを見た。正確な種類までは判別出来ないものの割とシビアな状況の中で横を走る少年が『わざわざ』壊していれば理由を問いたくもなる。

そして少年が数舜黙った事で少女は内心呆れながらも確信を突いたと知った。


***


「誤射の理由は何かしら」


咄嗟に反応出来なかった事を不覚と感じつつもセンは思考を回す。

自分が『この学院に通っている者達に害を成そうとする者が仕掛けた』魔法陣を破壊する為に乱戦の最中を狙い行動していたと言うのに気付かれたのは横の少女がやはり優秀だからだろう。こうして考えている間にも色とりどりの玉がこちらに飛んで来るのを相殺しているがそちらへの集中以上に今言われた事に対する言い訳を考える為に思考を回していく。

そもそも校内での魔法が許可されたのも『誤射によって破壊された』風を装う為に学院長から許可されていたからである。それと同時に事前に校内に仕掛けられていた物の一覧を覚え込まされていた為にこうして逃げながらも出来る限り撃ち込み破壊を続けていたがまさかバレるとは思っていなかった為に予想外に動揺を晒してしまった事が悔やまれる。


「実は自分が仕掛けた覗き用の陣だ……と言ったら信じるか?」

「今直ぐ行動不能になってみる?」

「チッ」


思わず舌打ちを一つ。それと同時に自分で言った事ではあるが逡巡もせずに信じなかった事に対する妙な安堵を感じた。とは言えこのままだと予定の数も破壊しきれない内にリタイアさせられるので正直に答えるしか無いだろう。


「生徒を守る為だと言ったら信じるか」

「やっぱり」


渋々答えれば隣の少女がはぁー、と声に出しつつため息を吐いているのを耳に捉えた。流石に視線を向けられる程余裕が有る訳では無いので最低限の情報のやり取りも交わしつつ会話を続ける。


「何故そこで呆れられる必要があるんだ」

「素直に言わないから」

「理不尽だ」

「この逃亡劇に巻き込まれた私に言う事は?」


そこを突かれると痛い、がこちらの隠蔽と誤魔化し方が下手だった為にバレた事も確かなので強く言い返せないのが隠していた側の心理だろう。この場の切り抜け方を幾通りも考えながら動いていると横の少女が声を出そうとする呼吸音がした。ただしその目線の先では今にも掴み掛からんとしていた男子生徒が驚愕の表情と共に少女が放つには重々しい打撃音によって吹き飛ばされていた。あの様子では意識も狩られているだろう。だが当人は気にした風も無く、続けて声を掛けて来る。


「それで、残りは幾つあるのよ」

「ん?」

「だから、壊さないといけないのは残り何箇所!?」


見惚れていたわけではないが気を取られていたらしく聞き逃し掛けたがどうやら心配してくれているらしい。頭の中で大雑把な数を計算してみれば自分の表情が渋面に変わりかけるのを感じる。


「まだ三桁は残っている」

「え」

「まあ、脅威度だけならば急ぎが残り30程か」

「一気に減ったわね。何を切ったの?」


一瞬隣の少女の迎撃の手が止まり飽和しかけた所を無理矢理範囲魔法で取り繕う。

それと合わせて急ぎで頼まれている破壊対象を脳裏で数えれば大分減った数字が出て来た。


「……」

「残りは?」


言ってよいものだろうかと悩みつつも解答しなければ後々更に厄介な事になるだろうと思えば今言うしか無いのだろう。重たい口を開きつついつ隣の少女が動きを止めても脱落しないように細心の注意を払いながら現実を述べる。


「残りの少数はイタズラ用の罠、それと若干の悪意ある物だ」

「それは確かに後回しね。……少数?」

「残りの大半は女性陣のロッカー周辺に仕掛けられた盗聴、盗撮の類だ」


言い切った所で真横から床が踏み抜かれる異音と共に周辺に走るヒビが見えた。

後ろから追いかけて来る者達が慌てて避ける最中俯き表情が見えない少女から地の底を這うかのような怒りの感情がヒシヒシと伝わって来る声音でもって言葉が発せられる。


「……男って、馬鹿なの?」

「……仕掛け人は少女が大半だそうだ」

「え?」


実際男共も仕掛けようとしていたらしいのだが悉く妨害された挙句に弱みを握られ放逐されただの、大半は疑問符を浮かべたまま走り続けている少女の周辺に仕掛けられているなんて情報は知らせない方が良いだろう。主な仕掛け人が彼女に何かしらの形で手助けをされた少女達だと言う事も。


「世界は広いな、フラロンス」

「何がよ!?」


困惑し続ける少女を放置しながらも的確に魔法陣を破壊し続ける。

今年もまた過激派との争いが始まるのだなと半ば確信しながら。


爆音は鳴り止まない。

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