11 お届け者の配達
15、6歳頃。
学園の長期休暇中。
他の国でもこんな事を繰り返し続ける主人公。
その日その夜、とある少年の独り言。
「いや、確かに貴族かと聞いてその後掘り下げなかった非は認めよう」
『はい』
「だがな、あれ程とは聞いていない」
『全部話したら「ただのフィー」じゃ居られないと思って……』
「……まあ、それは認めよう」
『駄目だった?』
「こちらも楽しんでいたからな、案ずるな」
『!』
「感嘆符を書きながら驚いて見せるとは小器用な真似を……」
とある夏の日。『とある』門兵の記憶。
その日、早朝からとある場所の正門前に立っていたとある初老の門兵は街に異変を感じた。
まず耳にしたのは正門前から街を貫く大通りから聞こえてくるざわめき。
これぐらいであればまた何か事件が起こったのだろうと流したのだが今日は事情が違うようだと気付く。
ざわめきがこちらにやってくる。
それも人が歩く速さで。
しかももうじき正門に架かっている跳ね橋まで辿り着くようで、その事が更に『この場所を深く知る』男の困惑を深くする。
それでも表情を変えずに同僚と共に職務に忠実に立っていれば遠目に大勢の者に囲まれた男女の影が見えてくる。
男の方は15、6程度だろうか。
金の髪が良く似合う顔立ちをした真面目な印象を受ける少年で、着ている服装を見やれば貴族階級に近い生地が使われていると見受けられた。
そして彼の右手と繋がれた女、いや帽子で隠されてはいるが頬が染まっている事が見える少女の顔を確認した瞬間その正体に気付いてしまった彼は意識を手放しかけた。
何故、あのお方がここに。
同僚は気付いていない様だが後で教える事になるだろう。奴もまたこの国の宝を守っていた者なのだから。
そして彼の歓喜と共に初々しいカップルとも呼べる二人が目の前に立つ。
少年が口を開いた。
「失礼、出来ればで良いのだがこの少女の御両親をお呼びして頂きたい」
「はっ! 急ぎ取り次ぎます!しばしお待ち下さい!」
苦笑気味に言った少年の内心がふと気になったが今はそんな事はどうでも良い。
彼は身分によって立ち入れる場所が区分けされており、区画毎に許可証の発行も必要になってくる一帯ですら今は無視して走り続ける。
彼の走る姿を見咎めようと声を出し掛ける者はまず服装を見、そして彼の顔を見て驚愕する。
彼が目指すはある一室、無断で入れば命すら落とされる場所であったが今はただただ仕える者として耳に届けたい知らせを抱え彼は走り、部屋の扉を開けるや否や目的の者の周囲を護る者達に取り押さえられながらも叫ぶ。
歓喜に満ちた声と共に。
「御息女が戻られました!今!正門前に!」
「……何だと?」
訝しげにこちらを見ていた中心の人物がそう呟けば辺りは静まりただかの人の言葉を待つのみとなる。
「本人なのか?」
「異なったならばこの首を落とし下さい」
その即答は抑えていた者達の側に激震が走るものであった。
それ程までの覚悟であると同時に自分が微塵も死ぬとは思っていない表情。
思えばこの者は先日門兵に飛ばされた者ではなかったか?
護衛達の驚愕も放り主人は最低限のやりとりを門兵と交わし始める。
押さえつけられた男に目線を合わせると言う異常事態ではあるのだが今はそれを誰も注意できない。
「五体は?」
「無事です」
「同行者は?」
「少年が一人、私は伝言を頼まれました」
「なんだ」
「『出来ればこの少女の御両親をお呼びして欲しい』と」
仕える者達はその言葉が彼の口から出ると同時、自分たちの主人が呆気に取られている表情を見た。
ついでその頬が緩やかに笑みに変わっていく様も。
「そうか……。では私自ら出向くとしよう」
「は?宜しいのですか」
「私と妻が呼ばれたのだろう?正門前か。案内しろ」
「はっ!直ちに!」
主人が命じたのであれば周囲はそれに従い動き始める。
彼もまた解放され主人に手を貸され立ち上がらされると同時に再び『とある少女』の護衛役として任命される。
その言葉を聞いた彼は狂喜し再びその任に付く為の装備を着ける為にその場を走り去った。
彼が守るべき主人を置いて走り去った事を当の本人が苦笑しながら見ていたとも知らずに。
彼は後日大目玉を食らった。
セン視点
先程走って行ったの初老の門兵とは逆側に居た門兵がこちらの応対をしてくれていたのだが先程から何やら様子がおかしい。妙に慌ただしい音の連鎖が聞こえてくる。
自分は配達物を届けた後に事情を説明するだけで帰れると思ったのだが応対してくれていた者が伝令から何かを囁かれるなり「正門全開!?その命令は真ですか!?」と食って掛かり。
それをさらりと流した伝令役に「門前にお二人は立っていて下さい」等と言われれば何かが起こっているのは誰でもわかる。だがそれが自分にとってどうなっているのかが解らないのでは反応のしようも無い。
どうやら自分の横に立っているのはかなり高位の貴族の息女らしい。
強制家出娘を迎え入れるのも大変だなとぼんやり考えつつも実際には嫌な予感をひしひしと感じており右手にしがみつかれているこの状況と原因となった事態についての説明を放り出しては今後の平穏な生活を目指す戦いにも支障が出る為に逃げようが無いと言うのがなんともやるせない。
横を向きフィー嬢を見やれば丁度こちらを見上げていたようで目線が合うと同時耳まで真っ赤にしながら顔を背けられた。それなのに体の距離を詰めて来るのは何故だ。
わかってしまったのなら負けなのだが。多分。
「開門!開門ー!」
そんな事をぼんやりと考えていたのがいけなかったのだろうか。
それとも考えていたままの方が良かったのだろうか。
「皇帝陛下、並びに皇妃様の御成り!」
「ぬ?」
内に向かって開かれていく隙間からは絢爛豪華な服を着た方々が見え、その中でも飛び切り豪華な者を着た夫婦と思しき二人がこちらに向かって歩いて来る。
突然の情報量に対し自分の思考は停止し再起動を待ち始めるのだがそれを待つ事は許されず無意識の内に緩めていた右手をフィー嬢から強く握られた事で無理矢理再起動させられる。
もはや諦念にも満ちた感情のまま威厳を感じる男性と令嬢然とした雰囲気を持つ女性からの自己紹介を拝聴する事となった。
「どうも初めまして親切な少年よ。フィーの父だ。礼を言う」
「フィーちゃんをどうもありがとう。母です」
思わず首がねじ切れるかと思う勢いで横の少女の顔を見やれば思い切り逸らされていた。
なんだ、これは、一体。ただの貴族では無かったのか?
「フィー嬢よ……、貴女は一体何者だったのだ?」
フィー嬢に顔を逸らされ続けるがそれにも限界はあった様で大人しく筆を取るとメモ帳にとある一文を書き始めた。その様子を皇妃様は興味深そうに、皇帝陛下殿は色々と言いたげな表情をされ、後で何を言われるのかと思うと既に肩が重い。
少しの静寂の後片手で書いていた為に若干よれた線になっているその一文を読む。
『第一皇女、それが私です』
そして自分がその一文を読んだその瞬間大量の思考が脳裏を埋め尽くし、そして叫んだ。
「フィー嬢よ、今直ぐ逃げても良いか!?」
直後フィー嬢に涙目になられたが命が惜しかったのだ。
それはもう。




