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辿り着くもの


 泣き付かれて夕食も忘れて眠っていたティオが起きたのは翌日の朝だった。

「おう、おはよーさん。朝食出来てるぜ」

「あ……お、おはよう」

 ふんわりと温かそうな匂いが鼻をかすめる。

「まぁ、まだお隣さんは寝てるけどな」

 隣を見るとリラが安らかな表情で寝ている。ふと、自分の頭があった場所を見ると、ルシェが小さく丸まっていた。

「ルシェの奴、昨日お前の分まで夕飯を平らげた後、満足したように寝てたぞー。……寄り添って寝てると、本当にただの子竜なんだな」

 しみじみとエルバはルシェの寝顔を見ながら言う。

「うん」

 昨日と今日では、やはり心の持ちようが変わったのが分かる。少しだけ、軽くなった気がした。

「さて、今日はこの山を登りきって、向こう側まで着くのを目標に行くぞ」

 頭の中に地図が浮かんでいるのか、エルバは全く迷わずに山道をぐんぐん進んでいた。この先の道も、彼に任せておけば安全に行けるのだろう。

「ほら、リラ。起きて……。ご飯出来たってー」

 ティオは寝ているリラの肩を小さく揺らす。

「んー……あと五分……」

 寝言のようにリラは口をもぐもぐさせるが、目は開かない。

「ねぇ、リラー、起きてー」

 その様子を見ていたエルバは微笑ましそうにため息を吐いていた。



 毎日のように歩きながら、リラとエルバと自分の知らない事を話すのはティオにとっては新鮮で、新しい事の発見ばかりだった。

 こうやって、彼らと聖都を目指すために歩いて旅をすることは本当に楽しいと心から感じた。

 だが、同時に自分がこの時間を過ごす間に、大地の寿命は削れているのだ。それを胸に置きながら、ただ歩くしかなかった。

 そうやって、また一日が終わるのだ。明日こそ、明日こそ。そう思いながらティオは焦燥に駆られながら日々を過ごしていた。



 エルバが言っていた聖都に着くと言っていた三日目。ついに、ゴーザン山脈の最後の砦だと言っていた小さな丘を登る。これを超えれば、あとは聖都なのだ。

 ティオは真剣に、だが少々の焦りを心に秘めながら丘を歩く。目の前に居るエルバとリラが、丘の頂上で止まった。そして、笑顔でこちらへと振り返る。

「来いよ、ティオ!」

「ティオ、早く!」

 二人が差し出す手にティオは助けを求めるように縋りつき、そして、丘の向こうを見た。

 夕暮れに染まろうとしているその町並み。白い煉瓦が高い塀を作り、取り巻くようにその町を守っている。そして、町の奥に見えるのは、白くそびえ立つ城。

 それはまるで、絵に描かれたような美しさだった。例えるなら、ずっと、この景色を見えるものとして残しておきたいと思えるほどの、そんな光景だったのだ。

「っ……」

 この風景を見た時、どこか懐かしく感じられた。胸が締め付けられる程、心から美しいと思ったのは初めてだった。

「見て、ルシェ……。これが、君の大切な人達が守ってきた光景だよ」

 ルシェの瞳にはこの景色がどのように写っているだろうか。美しいと思ってくれるだろうか。

 思わず、涙が出そうな程、綺麗だった。腕の中に収まるルシェは真っ直ぐとその光景を見ていた。

「行こう、ティオ。まだ旅は終わってないぜ」

 手を繋いだままだった二人はそのまま、ティオの体を引く。

「……うんっ!」

 聖都に行って、洗礼を受けて、大地の竜として認められれば、あとはもう村に帰るだけだ。

 村を出て数日しか経ってないにも関わらず、もう遥か昔に村を出たような気分だった。


 ……もうすぐ、帰る事が出来るんだ。


 待っている人達が居るあの村へ。

 力尽きていたにも関わらず、いつのまにかティオの体は羽が生えたように軽かった。


  

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