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下校のひととき、下駄箱の前で靴に履き替えていたら、突然、爽やかな風が僕の頬をかすめて吹き抜けていった。思わずのけぞって、その場に立ち尽くしてしまう。
「今の、誰?」
目を丸くして隣の本橋に訊ねると、「C組に転校してきた白石だよ」と、何でもないことのように答えた。本橋は男子バスケ部に所属していたから、彼女が最近女子バスケ部に入ったことも知っていたらしい。白石の背中は、色づきはじめた校庭の向こうへと遠ざかっていった。僕はその姿を目で追いながら、本橋の話を聞いていた。
その日から、僕の胸に微かな疼きが生まれたような気がした。それはどこか、小山暁代への想いに似ていた。A組の仲間たちと好きな女の子の話をしていると、胸がキュンと締め付けられるような気持ちになった。僕や本橋を含む数人は、放課後になるといつも恋愛話に夢中になっていた。
毎晩のように誰かの家に集まって、遅くまでしゃべって過ごした。そんな何でもない毎日が、あの頃は妙に輝いて見えていたんだろうな。特別なことがあったわけじゃないんだけどね。それでも、ふとしたときに、あの頃のことを思い出す。もう三十五年も前のことなのにね。




