25
中学一年の三学期の初め頃、僕はまた彼の家に泊まりに行った。
今回は谷口とではなく、うすらでかい森下(坂の下の小学校出身)と一緒だった。森下が「彼の家に泊まりに行きたい」と言ったので、僕は彼のマネージャーでもなんでもないけれど、そのことをお願いしに行った。
「なんだ、そんなこと?」と彼は言った。「いいよ」
それを森下に伝えると、嬉しそうにした。なんだコイツ、気持ち悪いなあ。まあ、僕も嬉しかったけれど、心中穏やかではなかった。
もし彼と森下が仲良くなったら、僕は隅に追いやられるのではないか。そんな不安があった。谷口が青森から来た青年とばかりつるむようになってから、僕をかまってくれなくなったことも影響していた。
おーい、谷口く〜ん。
心の中でそう呼びかけてみたが、もちろん返事があるはずもなかった。
だから、彼の家に泊まりに行き、マンションの屋上で三人でタバコを吸っているときに――。
「もう大野は帰ればいいよ。森下がいれば十分だから。じゃあな、バイバイ」
彼がそう言った途端、僕は堪えきれずに泣いてしまった。涙を拭きながら、つよがってみせた。
つまり、帰ろうとした。
すると彼は「嘘だから、帰るなよ」と言いながら、タバコの吸い殻をポイと捨て、僕を引き止めた。
僕は、こら! そんなところに捨てちゃダメだよ。なにやってんだ、お前はまったく。人のチンコの写真は撮るしさ、と言いながら吸い殻を拾った。
……わけないじゃんか。
僕は部屋に戻って荷物をまとめ、玄関から飛び出した。けど、自分でもわかっていた。本当はそんなことをするつもりはなく、マンションの外の路地の隅で、彼が追いかけてくるのを待っていた。電信柱の影から、じっとマンションの出入り口を見ていた。
すると案の定、彼が追いかけてきた。
「嘘だよ、大野、ごめん」と言いながら。
だから僕は言った。
「やだ、もう帰る! 森下と二人でヨロシクやればいいじゃないか」
まあ、これもつよがりなんだけど。
彼は困った顔で「ごめん、大野。冗談だから、帰るなよ」と言って、僕の手を掴んで連れ戻した。
ほっとした。まったく、何が「帰れば」だよ。そう言いたいところをぐっとこらえ、彼に連れられて屋上に戻った。
だが、その後、どうやって態度を元に戻せばいいのかわからず、ずっと下を向いてむっつり黙りこくっていた。すると彼は、「さっきのは冗談だよ。森下とも話してたんだ。冗談なのに、大野、本気にしちゃって」と言い、タバコに火をつけた。僕をなだめるような口ぶりだったので、僕は弱々しく頷いた。
そのとき、彼の顔にふっとやさしい微笑が浮かんだ。火のついたタバコの先が赤く光り、彼は僕の足もとに視線を落とした。
「大野、そのコンバース、いいじゃん」
「これ? そうかな?」
でも――あ? せっかく新しいのを下ろして履いてきたのに、いま? いまごろ気づいたの? もっと早くに気づいてほしかったよ。
それじゃ、そこにいる、ただのうすらでかい森下と同じじゃないかよ。もう、間抜けなんだから。
僕ときたら、まるで浮気でもされそうな女みたいだった。
だってさ、よりによって森下とだよ。森下と同じだよ。考えられないよ。
あー、やだやだ。
谷口は、田舎モンに夢中だしさぁ。
こわくて死にそうだわ。




