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青森から来た青年が「そういうのは嫌いだから、実力でやる」と言い残して、ひとりで帰ったという噂を耳にした。
その話を聞いたとき、放課後の夕暮れ時に階段を上がっていた自分のことを思い出した。川崎と谷口が、二階の印刷室前の廊下にいたのを覚えている。姿は見えなかったが、彼もそこにいたのかもしれない。たしか午後四時半くらいで、校内は静まり返っていて、先生たちはもう帰っていた。
川崎が僕に気づき、横目でちらりと見ながら「大野は?」と尋ねた。
谷口は、少しだけ口の端を上げて首を振った。
僕はまばたきをして、そのまま一年F組のある五階へと階段を上っていった。おそらく彼らは、印刷室にあった何かしらのテストを盗んだのだろう。印刷室のドアの上部にはガラス窓があり、肩車をすれば中に入れたかもしれないし、あるいは単に鍵をかけ忘れてドアが開いていたのかもしれない。ちょうどテスト前日で、夕暮れの校舎にいたせいもあって、そんなふうに考えてしまった。
――えっ、お前は何をしていたんだって?
放送委員だった気がする。放送室は1階にあった。でも、正直なところ、もうはっきりとは思い出せない。
仮にそこにいたのだとしたら、それなりの理由があったはずだ。
そもそも、彼らがあんな時間に印刷室の前にいた理由だって、今となってはわからない。この一連の出来事は、結局のところ、僕の想像に過ぎないのかもしれない。
僕は彼らに何も聞かなかった。前の章でも書いたけど、当時の僕はテストなんてどうでもいいと思っていたからだ。小学校のころ、僕がカンニングしていたなんて言っていたやつもいたけど、テストの点なんて、0点だろうが20点だろうが50点だろうが70点だろうが、人生においてはたいして重要じゃない。
――井川さんには、見せてもらったけどね。
それでも確かに言えるのは、あのとき階段を上がりながら、妙な後味を感じていたということだ。




