18
二学期が始まってから数日が経っていたが、校内にはまだ夏休みの延長のような浮ついた空気が漂っていた。開け放たれた窓からは残暑を含んだ風が吹き込み、廊下では生徒たちの声が飛び交っていた。
その中を、開襟シャツ姿の彼が歩いてきた。日焼けした首元がシャツの襟から覗いている。その手には、場違いなほど白い一通の手紙が握られていた。
僕の前で足を止めると、彼は言った。
「大野、高木奈緒美って知ってる?」
そう言って、手にした手紙に視線を落とした。
……坂の下の小学校出身だ。
彼は照れくさそうな顔をしながらも、どこか得意げに言った。
「ラブレター、もらっちゃった」
その言葉を聞いた途端、頭の中が真っ白になった。彼が何かを話しているのはわかるのに、その意味をうまく理解できない。胸を締めつけられるような感覚とともに、頭の中が空っぽになっていった。
「え……?」
僕の口から出たのは、それだけだった。
彼はもう僕のことなど見ていなかった。
僕の反応など初めから気にしていなかったかのように視線を外し、手にした手紙に目を落としている。すぐ目の前にいるのに、彼だけが僕の知らない世界に行ってしまったようだった。僕は何も言えず、その場に立ち尽くしていた。
周囲の喧騒が遠くなり、廊下の景色までぼやけていく。何かを考えようとしても、頭の中はうまく働かなかった。ただ、彼が手にしている一通の手紙だけが、妙にはっきりと目に入っていた。




