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一学期の終わりごろ。彼と小山暁代と僕で古手川の家に遊びに行ったことがある。というか、彼についていっただけなんだけど。
古手川の家には、父親がドラムを叩くようで、ドラムセットが置いてあった。それを見た彼がいきなりドラムを叩き出した。
このときになって、初めて彼がドラムを叩けることを知った。
一段高い場所から、彼は僕を見下ろすようにドラムを叩いていた。「どうだ、大野」とでも言いたげな顔だ。
小山暁代はびっくり目を上げた。輝くばかりの笑みを浮かべ、彼に視線を注いでいる。その光景を前に、僕はただじっと彼を見ながら、畜生、と思っていたっけ。けれど実際には、小山暁代が僕の隣にいるという事実が、どうしても信じられなくて、胸の中は驚くほど何もなかった。同時に彼女にそんな目で自分を見つめてもらいたい気もした。
そのうち、四人でお菓子を買いに出かけた。戻ってきて階段を上がっていたときのことだ。彼の前を上がっていた小山暁代が、突然お腹を押さえて「痛っ!」と言った。
えっ、どうしたの? そんな思いが胸をかすめた。
すると、彼は肩越しに後ろの僕に目をやり、向きを変えて僕の肩に腕をまわすと、小山暁代をからかうように「今日、小山は生理だ」なんて耳打ちしてきた。
その声に、小山暁代は声をあげて笑い、古手川はちらっと後ろをうかがいながら、声を殺して笑った。
僕は一瞬、わが耳を疑った。えっ……。なんのことかわからないって顔を装うしかなかった。なんか恥ずかしいし、自分が自分じゃないみたいだった。
僕の顔つきを見て、彼が二人に向かって「大野に言ってもわからないか。まだ子供だから」なんて言ったものだから、僕は危うく、上がっていた階段を踏み外しそうになった。
「生理ぐらい知っとるわ!」
思わずそう言い返しそうになった。
けど、あのとき、いっそ『蒲田行進曲』の階段落ちみたいにド派手に転げ落ちていればよかったのかもしれない。そうすれば、小山暁代の記憶のどこかに、消そうとしても消えない何かを一つくらい、刻みつけられたのかもしれない。夜中にふと目が覚めたとき、理由もなく思い出してしまうようなやつをさ。




