15
ある時、彼が教室の窓ガラスを割ってしまったことがあった。なんか遊んでいたら割っちゃったんだって。窓は上下二つに分かれていて、上のほうが大きく、下のほうが小さかった。彼が割ったのは、その小さいほうだった。
放課後だったから、教室には誰もいなかった。そこで彼の指示で、僕と川崎は一階まで降り、割れたガラスの破片を拾い集めて、五階の教室の窓の下に置くように言われた。本来なら、こういう後始末は川崎ひとりの仕事なんだけどさ。『ニキータ』の掃除人ヴィクトルみたいにね。
二人でガラスの破片を拾い終え、教室に戻った僕らは、まるで外から何かが飛んできて割れたかのように細工していた。ところが、町村先生に見つかり、二人そろって説明を求められた。
僕らはすぐに、どうしてこうなったのか、口実を考えはじめた。必死に言い訳を探したのは、彼が怖かったからなのか。それとも、彼の指示に従うしかなかったからなのか……。
先生も、僕らの様子を見て、何かおかしいとすぐに感じ取ったのだろう。
「なんだ、これは? どうした?」
町村先生は、当惑を押し殺しながら冷静に尋ねた。川崎が困った顔をしているのがわかった。何と答えればいいのかわからず、言い訳も見つからなかったのだろう。
次の瞬間、先生がいきなり怒鳴った。
「なんだ、これは。お前たちが割ったのか?」
僕はなぜか声さえうまく出てこなくて、「あ、いや、えーと……」と答えるのが精いっぱいだった。
続けて川崎が視線を落とし、「違います」と言った。
どうでもいいんだけど、先に口を開いたのは僕じゃなくて川崎だった。
「俺たちじゃないよな」
川崎は僕にそう言った。
僕は見てしまった。川崎は、わざと苦しそうな顔をしていた。なかなかの役者だった。つまり、なんとかして町村先生に、僕らが彼の指示で動いていたことを察してもらおうとしていたのだ。
まったく、こすっからい野郎だよ。曖昧な記憶によると、僕は表情も変えず、何も言わなかった。あくまでも曖昧な記憶によると、だが。
川崎の物悲しげな表情に、先生も何かを感じ取ったようだった。
「じゃあ、誰なんだ?」
先生は、何があったのか素直に話すよう促した。
川崎はわざとためらうふりをして、ぽつりと口を開いた。
「彼が……」
「彼?」
町村先生は顔を上げ、険しい表情で川崎を見た。
「彼がやったのか?」
川崎は仕方なさそうに、「はい」と答えた。
こうして、彼がガラスを割ったことがバレたのでした。
帰り際、川崎の顔に温かい微笑みが広がった。
「これでよかったんだよ。あんだけまわりくどく彼にやらされたことを言えば、先生だって俺たちがどんなだか分かるだろ」
僕は川崎の肩を軽く抱きながら、にやりと笑った。
「お前は天才だよ、川崎君」
「何言ってるんだよ、大野君」
僕らはお互いの肩を軽く抱きながら、階段を降りていった。
あいつ、今頃役者にでもなってたりしてな。
あ、それはないか。あの顔じゃ。
「川崎、俺のチンコの皮が剥けてないこと、誰にも言ってないよな?」
そう聞くと、
「あ、お前、俺を疑ってんのか? 心配するなよ」
と言ってくれた。
考えてみれば、川崎と気が合ったのは、この時くらいだったかもしれない。
――あ、いや、もう一つあったな。
むっつりスケベで有名だったサトちゃんの家で、エロ本を見せてもらった時だ。
紐で巻かれて束になった「お宝の山」が出てきて、僕はテンションが上がりすぎてしまった。川崎が根っからのヤクザだということもすっかり忘れ、つい口を滑らせた。
「アンタも好きね〜」
すると、奴さん、顔を真っ赤にして喜んでいた。




