13
次の日の日曜日。その日はとてもさわやかで、白いワンピース姿で現れた小山暁代を見て、僕は思わず息をのんだ。本当に素敵だった。彼女を意識していないふりをするのは至難の業で、僕はただ「彼女も僕を好きでいてくれたら」と願いながら、彼女を盗み見ていた。
彼女はなぜか、坂の下の小学校出身の古手川と斉藤という二人組の女子を連れていた。きっと彼が頼んだのだろう。惨めな僕たちのために気を利かせるあたり、彼なりの優しさだった。
だが僕なら、絶対に二人きりで来るのに。そして豊島園のメリーゴーランドに小山暁代と二人で乗り、光のなかでロマンチックにくるくる回るはずなのだ。
ところが、当時の僕は、谷口とふざけ合いながらメリーゴーランドに乗っていた。彼はそんな僕たちを外から見て笑っていた。このデート以外にも、三人で二回ほど豊島園に来たことがある。そのときも、彼の家に泊まった。
あまり考えたこともなかったけれど、今になって思うと、もったいないことをしたなあ。あのメリーゴーランドに、谷口なんかと乗って。
女子たちの後ろをトボトボとついて歩いていると、谷口が奇妙な行動を始めた。売店から勝手に持ってきたフランクフルト用のマスタード(当時はタダで取り放題だった)を、歩きながらペロペロと舐めているのだ。
理由を聞くと、谷口は「これ舐めると酔わないんだよ。ほら、酔い止め」とマスタードを差し出してきた。
こいつのことを知ってるから許せるものの、知らなければただの不審者じゃねーか。しかし僕も少し乗り物酔いを感じていたため、半信半疑でパックを破り、舐めてみた。
直後、鼻の奥を突き刺すような激痛が走り、息を吸うことすら苦しくなった。涙をこらえる僕を、谷口は「効くだろ?」と言いたげな顔で見つめていた。
中学に入ってから、僕はずっと「小山暁代が自分の彼女だったら」と妄想していた。そして今でも、時々そう思うことがある。
彼女がいたあの日は、夢のように眩しかった。一言も話せなかったけれど、何もかも忘れて彼女に見とれ、立ち尽くしていたあの情景は、今も鮮明に焼き付いている。
けれど、思い出すたびに谷口がいちいち割り込んでくるのだ。
ふざけやがって。俺の頭の中で、マスタードなんて舐めてんじゃねーよ! あー、小山暁代〜。
思わず言ってしまったが、お願いだから、思い出の中くらい、僕と彼女の二人だけにさせてほしい。
おかげで、谷口の顔でいってしまったことがあって、ゾッとしたよ。




