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運動会では、僕が彼と谷口、それに川崎の上に乗り、騎馬戦ではなかったものの、それによく似た競技に出ることになっていた。
一年男子全員が参加するその種目の開始を、少し緊張しながらグラウンドの端に腰を下ろして待っていた。そのときだった。
彼が、いきなり小指で僕の頬をピシュッとやった。
頬に薄い傷ができ、ヒリッとした痛みが走る。
どうやらまた、小指の爪を細工したらしい。
彼は、いつもこれをやるんだ。
僕は反射的に身を引き、彼に言った。
「痛いからやめて」
その様子を見ていた谷口が笑うと、彼は今度は谷口の顔にも小指をピシュッと走らせた。
「痛い、痛い! 本当に痛いよ、それ」
谷口は顔をしかめながら叫んだ。
それを見ていた川崎は、必死に笑いをこらえ、知らん顔を装っていた。ところが、彼は川崎にも小指を向けた。
川崎はとっさにかわし、引きつった笑いを浮かべながら言った。
「マジ、もうダメだって。俺たちの顔、傷だらけじゃん」
そんな抗議も聞こえていないふりをしながら、実際にはしっかり聞いているのだろう。彼は反省する様子などまったく見せず、ただ口元に笑みを浮かべていた。
やがて、最後の走者がゴール直前で転んだ二年生のリレーが終わり、いよいよ僕たちの出番がきた。
もうどうにでもなれと開き直り、騎馬戦のような種目へ裸足のまま駆け出そうとした。すると、彼がはっきりと言った。
「大野、俺たちにまかせとけ」
その一言で、不思議なくらい気持ちが軽くなった。僕は彼にすべてを委ね、前へ飛び出した。何か得体の知れない力に包まれたようで、怖いものなんて何もない気がしていたんだけど、ひとつ気がかりだったのが、彼の参謀役を務める谷口君が、どうにも頼りなく見えてさ。
ていうか、嘘でもいいから、精悍な顔してくんねーかなあ。スカートめくりしに行くわけじゃねーんだから、こういうときくらい、その生まれつきのいやらしい顔、引っ込めてくれよ。
川崎なんて根がヤクザなもんで、昼の弁当のおかずのことしか頭にねぇんだから。
まったくよ。なんで俺がこんな面倒なことをやんなきゃなんねーんだよ。
僕はそこで、大きく息を吐いた。
やっぱりダメか。
そうだよな。生まれつきのその顔は、どうにもならねーのか。
だって、大人になったって、セックスのときまで、その顔なんだからな。
もういい、もういい。仕方ないから大目に見てやることにした。
そして、胸の中で祈った。
神様、仏様、小山暁代様。
どうか僕をお守りください。




