表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/8

7.サイア

 カフェ・リディはランチの時間が一番混んでいる。理由はマスターが作るパスタが評判になっているからだ。何種類ものハーブを使い、香りがよく味も絶品なので、12時過ぎには店の外に行列ができるほどだった。

 しかし、午後2時を回ると客が減り、この時間からは近所の主婦たちが午後の休憩にやってくる。

「あら、なかなかイケメンの坊やね」

「お姉さんたちと遊ばない?」

 主婦たちのちょっかいに、ジャン・ルイは、

「ありがとうございます。機会があればぜひ」

 と愛想よく対応していた。

 イザベラはふくれっ面で、ジャン君にあなたたちは不釣り合いよと言いたげだった。


 午後3時を過ぎるとさらに客が減り、店が暇になると、ジャン・ルイはもってきたパソコンで、昨晩の事件の報道を検索した。やはり捜査に進展はないようだ。

 午後7時になりジャン・ルイはマスターに言われて、カフェ・リディの看板を閉店へ変えた。

 食器を洗い終わって、マスターに挨拶をして店を出た。イザベルは友達と夕食を食べる約束をしていたので、午後5時過ぎには店を出ていた。

 サイアは散歩をしてついさっき戻ってきた。マスターはサイアに何かしら一生懸命話しかけていたが、猫の言葉がわかるのだろうか。


 ジャン・ルイはサイアに、

「さて、そろそろ帰ろうか。晩御飯は何を食べたい?」

 と話しかけた。

「缶詰じゃなければなんでもいいわ」

「じゃあ、ステーキにしよう。大丈夫かい?」

「ええ、美味しければね」

 ジャン・ルイが大型スクーターを出してくると、サイアは後部座席に飛び乗った。

「じゃあ途中、肉屋に寄って帰るぞ。振り落とされないように気を付けるんだよ」


 ジャン・ルイは大型スクーターをスタートさせ、近所の肉屋でステーキ用の肉を1キロ購入した。

 港近くの赤レンガ倉庫に戻ると、大型スクーターのエンジンを止め、2階へあがった。

「1キロのお肉なんて、誰が食べるのよ」

 サイアはジャン・ルイの後ろで軽快に階段を上がりながら呆れたように尋ねた。

「もちろんオレだよ。今朝は格闘したし、腹が減ってるんだ」


 ジャン・ルイは着ていた服を脱ぎ捨てると、ラフな麻の服に着替え、そのまま肉を持って台所へ向かった。まず、サイアのために浅い皿にミルクを入れて出した。

 それから肉を取り出すと筋を切って、塩コショウをまぶし、ニンニクをスライスして本格的に焼き始めた。肉が焼ける香ばしい匂いがした。

「オレはミディアムレアくらいが好きなんだけど、サイアは?」

「私もなるべくレアのほうが好き」

「了解!」


 焼きあがると、サイア用に細かく切って皿に盛り付けた。自分の分はバターをたっぷり乗せて、テーブルに置いた。それから冷蔵庫から缶ビールを取り出しグラスについで晩御飯が出来上がった。

「いただきます」

 ジャン・ルイはサイアが目を丸くするくらい、いい食べっぷりだった。

「オレは一日一回、肉を食べればそれで満足なんだ」

 ジャン・ルイは1キロの肉をアッという間に平らげて、本当に満足そうな顔をした。それから食器を洗い、きれいに片づけた。


「さてと、今朝の誘拐犯でも調べますか?」

 ジャン・ルイは、コンピュータを起動させ、携帯で撮った三人の写真をパソコンに取り込み、警察のデータベースにアクセスした。このパソコンは警察や金融機関、役所などのネットワークにアクセスできるようになっている。このハッキングのプログラムの作成はマスターであるクロードから伝授してもらった。


「サイア、出てきたよ。三人とも悪党だね。あの大男はボクサー崩れで傷害事件を2回起こしてる。あとの二人も殺人と強盗だね。やっぱり前科者か」

 それから誘拐されそうになった女子学生のミレーヌについても調べた。

「へぇー、彼女は貿易商のギャスパルの娘だ。親父は悪党なのに、ずいぶん可愛いお嬢様だな」

「ギャスパル?」

 サイアは考え込むような仕草した。


「モンテベルノで一番大きな貿易商だ。もっとも密貿易もやっているらしい。ガニェールの事務所の極秘文書にあった」

「ギャスパルって私を飼っていた人よ」

「どういうこと?」

「ギャスパルの屋敷にいるところを誘拐されて、ガニェールの事務所に連れて行かれたのよ」

「じゃあ、あのお嬢さん知っているのかい?」

「いいえ、私がギャスパルの屋敷にいるときには、あの娘には会ったことはないわ」

「ふうん、でもギャスパルとガニェールは密貿易でお互いに取引をしている仲間同士じゃないのか。よくわからないな」


 ジャン・ルイはコンピュータの電源を切ると、サイアがいるソファのところへやってきた。

「きみはどこでこの三人の男たちを見たの?」

「それが思い出せない」

「まあ、いいか」

 そういうとジャン・ルイは服を脱ぎ裸になった。

「どうしたの?レディの前で失礼よ」

「ハハハ、失礼。風呂に入るんだよ」


 キッチンの横についたてがあり、その向こうにバスタブがあった。蛇口をひねると勢いよく湯が噴出した。

「サイア、いっしょにはいるかい?洗ってあげるよ」

「結構よ。あとで自分ではいるわ」


 ジャン・ルイは鼻歌を歌いながら風呂から上がると、バスタオルを腰に巻き、盥に湯を張ってやった。

「サイア、きみのお風呂だ。あがったら拭いてあげるよ」

「いえ、バスタオルをその辺に置いておいてちょうだい。自分で拭けるわ。

 覗かないでね」

 子猫のくせにそんなに恥ずかしがることないだろうに。


 ジャン・ルイは、サイアの好きにさせた。髪を乾かしながら、テレビをつけてソファに腰を下ろした。その時、

「きゃあ!」

 という声が聞こえた。

「サイア、大丈夫?」

 ジャン・ルイは立ち上がり、風呂へ近づこうとした。

「来ないで!」

 そうは言われても、おぼれているかもしれないと思うとつい、ついたての向こうのバスタブを覗いた。

 そこには…綺麗な女の子が裸でバスタブに入っていて手で胸を隠していた。瞳はサイアと同じ碧い色をしていた。


「きみは誰だ!」

 と言いながら、ジャン・ルイはきれいな裸体に目が釘付けになってしまった。

「来ないでって言ったでしょ!見ないで!」

 ジャン・ルイは、頭からバシャっとお湯をかけられた。

「サ、サイア?」

「早く出て行って」

「ごめん…」

 ジャン・ルイは、かけられたお湯をタオルで拭きながらソファに戻った。


 バスタブから女性が上がる音がした。そして、衝立の端からシャム猫の姿になったサイアが現れた。

「もう!私、男の人に裸を見られたのは初めてよ」

「きみは本当にいまの美人なのか」

「ええ、そうよ」

「ということは獣人?」

「そうよ。血統書付のね。私ね、お風呂でゆっくりしたいときは人間の姿になるのよ」

「だから、人間の言葉がわかるのか…驚いたよ。これからお嬢様として丁重に扱うよ」


 サイアは、ジャン・ルイの顔をじっと見つめた。

「あなたも獣人でしょ?猫のときに私の言葉がわかるのは獣人だけよ」

「えっ?オレは獣人じゃないよ。変態したことないし・・・」

「あなたは私と同じネコ科の匂いがする」

「まさか!両親はどちらも人間だったはずだよ」

「そう?じゃあ特異体質の人間ね」

 サイアはそんなことはどっちでもいいという顔で、気持ちよさそうにソファに寝転がった。

 へ?獣人?オレが?ジャン・ルイはそんなことを考えたこともなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ