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33.衝突

 拘束を解かれた騎士科生徒は、殺気を放つカイに慄いて背を丸めている。荒い息を吐いて鋭い眼光を隠しもしないカイから、シオリも距離を取っていた。

「さて、さっきも言ったけれど、証拠の手紙は僕が握っているから、これ以上動かない方がいい。校長は評判を守る意味での隠蔽は、もうしないおつもりだ……」

「た、退学になるのだけは……」

 掠れた声で懇願する騎士科生徒は、カイとシオリに向かって深く腰を折る。

「この通りだ……もう、手出しはしない」

 カイが進み出て自分より大きい生徒の襟ぐりを掴んで引き上げた。

「ぐうっ、ぐえ」

「その言葉、違えるなよ」

 解放されて咳き込みながら、生徒は去って行く。

「脅しとしては十分だろう……。証拠の手紙は、このまま僕が持っておく」

「……シオリに害が及ばないなら、それでいい……」

 低く答えたカイにデンジは大きく頷いて苦笑した。

「ところで部屋の鍵を預けていくから、その殺気立った気を鎮めてから戻ってくれ……騒ぎにしたくないんでね」

 身体を強張らせていたシオリの肩をデンジが軽く叩く。

「君が無事で良かった」

「……どうも」

 気の抜けた返事をするシオリをじっと見つめて、デンジはポケットの鍵を机の上に置いてから出て行った。黙って生徒会長を見送ったシオリは、鍵を取りに机に向かう。一度バイオリンケースを置いて、鍵を上着のポケットへ放り込んだ。カイは拳を強く握りしめ、シオリの行動を眺めている。

「カイ……」

 シオリが名を呼んだ途端、彼は弾かれたように床を蹴って、シオリに肉薄した。無言のまま正面から彼女をきつく抱きしめる。

「んん、か、カイ……苦し……」

「はあ……ごめん……」

「……会長のお陰で何もなかった。大丈夫」

 なだめるようカイの腕を叩いたが、力は緩まない。身体ごと押し潰すかのごとく抱き込まれ、息苦しい。

「どうしようかと……俺……」

 低く呟いたカイは、シオリの髪に鼻先を埋めて深く吸い込んだ。彼女は身を捩って逃れようとする。カイは華奢な肩を掴んで顔をのぞき込んだ。

「大丈夫、だから……んんっ」

 言葉の途中で口を塞がれる。

「カイ、あ、ん」

 乾いた唇が艶のある唇を、執拗に啄んだ。身体が熱くなり呼気が荒ぶる。男の体重が圧し掛かってきて、びくともしない。

「好きだ……」

 骨ばった両手が手触りの良い栗色の髪に差し込まれ、頭蓋を固定する。

「う、うん」

「好きなんだ、君が……ん……」

 カイは何度もシオリの口を塞いだ。彼の膝が彼女の膝を割る。腕を突っ張って遠ざけようとするが叶わない。シオリの耳朶に荒い息がかかった。

「抵抗、しないで」

 掠れた低い声で命じられ、シオリの背筋が甘く痺れる。黄色いタイが解かれ襟元が押し広げられた。まめのある掌が首から鎖骨をなぞる。捕らわれて生を諦めた草食動物のように、腰から力が抜けた。

「乗って」

 彼女を机の上に座らせたカイは、一度身を退いて獲物の全身を舐めるよう視線を這わせる。

「すげえ綺麗……誰にも見せたくない」

 ため息交じりに呟いて、カイの手がスカートに触れる。裾から侵入してきた手を掴んで止める。

「だ、ダメ……やめて」

「大丈夫」

 腿の横を彼の指がうごめく感覚に、耳が熱くなる。足をばたつかせる。カイはシオリの首筋に頭を埋めて、身体ごと押し付けた。

「逃げない、で。頼むから」

 熱に浮かされた懇願に絡めとられる。かさついた唇が肌を吸う音と、切れ切れの喘ぎ声が重なる。制服の上着を脱がされる。カイも上着を脱ぎ捨てて、二人を隔てる布は互いに一枚ずつになった。

「は……、カイ」

「シオリ……いい?」

 痺れる身体を机に付いた後ろ手だけで支える。反らした胸もとに柔らかな彼の髪が触れる感触で、シオリは大きく身を震わせた。

「は、あ……だ、ダメ」

 色めいて零れた抵抗は届かない。気づけば机の上に背を付けていた。すかさず圧し掛かられる。

「ねえ、……こんなに、なった」

 耳朶をくわえつつ押し付けられた腰が熱い。シオリは息を飲んだ。

「あ、ま、待って……」

 掠れた声が煽りと化す。厚みのある掌が肌を撫でていった。

「や、やめ、て……」

 下腹部に燻って発熱した何かがある。未知の感覚に震え出す。湿った腿の内側に口を寄せた時、ようやくカイはシオリの震えに気づいて我に返った。

「あ……シオリ?」

 彼の動きが止まったことに気づいて、シオリはのろのろと起き上がる。

「……どいて」

 力の入らない手でカイを押しのけたシオリは、涙目で彼を睨んだ。頬に伸びてきたカイの手を振り払い、低く叫んだ。

「やめてって、は、く……言った!」

 抗議の途中で呼吸が止まる。

「ごめん」

 彼女は、机から下りてぎこちなく床に足を付ける。傍らにあったバイオリンケースを抱えようとして取り落とす。カイが慌てて彼女を引き留める。

「待って、待って……悪かった。俺が、先に出るから……身なり、整えて」

 床に転がった上着を羽織ったカイは、自分の頭に手を突っ込んでかき回す。シオリは、動かしにくい指で無理矢理ブラウスのボタンを留め、上着に袖を通した。彼は眉をハの字に歪めて、身支度を整える彼女を見守った。


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