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23.事件の真相

「ナナーシュ、来てくれてありがとう」

「カイ、ダイは起きているの?」

「今、寝ているけど、君の声を聞いたらきっと飛び起きる」

 ナナーシュがダイの見舞いに訪れた。医師であるナックルも中で様子を見守ってくれるらしい。医院の玄関から彼女を護衛してきたルークとヒースレッドは病室の外で待っている。

「……ダイ」

 しっかりした足取りで寝台へ近づいたナナーシュは、優しく名を呼びながら用意しておいた椅子に腰かけた。予想通りダイはぱっちり目を開ける。ナナーシュは痩せ細ったダイを見て、泣き笑いのような表情になった。

「ナナーシュ、来て、くれたんだ」

 掠れた声で囁きながら起き上がろうとするダイを、ナックルが反対側へ回って支える。弱り切ったダイに感極まったナナーシュの瞳から雫が一つ零れ落ちた。

「ああ、ナナーシュ、泣かないで」

 彼女に向かっておずおず伸ばされた弟の両手は、秀でた額に押し当てられた。

「良かった、本当に……ダイ」

「うん、心配かけて、ごめん」

「本当よ、私がシオリだったら、平手をお見舞いしているところよ」

 ナナーシュのおどけた台詞に、カイが爽やかな笑い声を上げた。

「ハハハ、そうだね、シオリだったらやりそうだ」

「え、俺、マドセン先輩に叩かれるの、嫌だなあ」

 安心と嬉しさと入り混じった小さな笑い声が響いて消える。ナナーシュは背筋を伸ばして、ダイを見据えた。

「これからは、何かする前に、私に相談をして欲しい」

「わかった」

 ナナーシュからの頼まれごとや指示が嬉しいらしく、ダイの頬が赤みを帯びる。大きなため息を吐く弟の肩を、医師であるナックルがそっと寝台へ押し戻した。

「一昨日聴取を受けたばかりだ。今日はこれぐらいでやめておけ」

 ナナーシュは横たわったダイの頭をそっと撫でてから立ち上がる。

「じゃあね、ダイ。学園で待っているわ」

「うん」

 カイが先に立って扉を開け、ナナーシュは病室を出た。ナックルも後に続く。

「また帰りに様子を見よう」

 ナックルの言葉にカイが頷いて、三人は病室を出た。そのまま、待っていたルークとヒースレッドに促され貴賓室へ移動した。


 ルークとヒースレッドは再び護衛として、貴賓室の扉外に残った。

「お越しいただきありがとうございます。お二人には単刀直入に全ての事情をお話しするよう、議長より命じられております」

 カウチに腰を落ち着けて早々に、ランスロットが口火を切った。

「端的にお話いたします。ダイ殿をクロスボウで襲撃したのは、デビット・スローリーです。動機はナナーシュ殿への執着だと考えています」

 ダイへの事情聴取後に覚えた違和感から、可能性の一つとして考えていた。カイは眉間に深い皺を刻むナナーシュの背にそっと手を添える。

「ダイ殿はスローリーにそそのかされて、一人で学園中の門の施錠を確認して回ったそうです」

「それで、聖樹の小径に……」

「はい、身を隠しやすい場所を選んで、待ち伏せしたのでしょう。彼がダイ殿を発見した時、ボルトを抜こうとしたのを止めましたね?」

「……はい」

 カイは唸るよう答えた。

「それも出血多量を狙った故意だと思われます。彼には応急手当の知識があった」

 一度口を閉ざしたランスロットに、ナナーシュが問いかける。

「賊の犯行だという話は……」

「確かに賊はいました。ですが捜査の結果、賊は誰も傷つけていません。スローリーは賊の噂を利用して罪をなすりつけようとしました」

 ナナーシュは強く握り過ぎて白くなった手をそっと開いて深く息を吐いた。

「彼はダイ殿襲撃だけでなく、一月のポトス・スネークと五月のザック・フィールドの殺害も疑われています」

 カイは強い憤りに荒ぶる呼気を鎮めようと深呼吸する。

「ダイ殿襲撃に使われたクロスボウは骨董品で、学園に寄付されたものだと記録を見つけました。凶器はまだ学園内に隠されていると睨んで、一斉捜索を予定しています」

 聞いた情報を頭の中で整理しながら、ナナーシュは表情を消す。

「デビット先生は……慎重な方です。一斉捜索で凶器が発見できたとして、犯行を認めようとはしないでしょう」

 彼女は信頼していたデビットを切り捨てたのだと理解できる、冷たい響きを帯びた声で懸念を表明した。

「ナックルせんせいが検証した飛散の形が、スローリー先生の上着に残っている可能性は高いんですか」

 カイも声音は落ち着いていたが、マグマのような怒りが腹の奥で煮えている。先日ランスロットが醸し出したそれよりも強い殺気を放っている自覚はあった。

「クロスボウ射出時の上着を処分していなければ、痕跡は残っているだろう」

 医局は科学捜査も手掛けけているらしい。ナックルの意見を聞いたナナーシュは、彼の隣まで移動して膝に自分の手を重ねる。

「デビット先生はいつも紺の上下を着てらっしゃいます。ノルディア産の絹が織り込まれた高価な生地で、特注で仕立てた、とお聞きしました」

 ナナーシュの言葉を聞いたナックルは、ランスロットの方を向いた。

「ランスロット、押収できるか」

「ああ、凶器の捜索の時に、提出させる方向で考える」

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