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14.剣技大会②

 シェードは天幕へ戻る途中でシオリに気づいて、踵を返して駆け去ってしまった。慌てて追いかけようとしたシオリは、強く肩を掴まれて立ち止まる。

「痛っ、何……」

「君の婚約者、無様だったね。今からでも考え直した方がいいんじゃないか?」

 ジェミルだった。人混みに紛れて身を寄せてくる。

「放し、て」

 力任せに肩を引き寄せて抱きかかえるように腕を回され、シオリは鳥肌が立った。

「ああ、どんな顔をしていても綺麗だ……楽器なんて弾けなければ僕のものに」

 どこかうっとりした表情でシオリの手首を掴んだ相手が、力いっぱい手首を握り込んで来た。

「やめ、て」

 シオリが悲鳴染みた声を上げた途端、彼は背後から羽交い絞めにされる。

「あ、ぐ……な、なんだおまえ、え」

「だ、ダイ?」

「シオリ、大丈夫?」

 ナナーシュが駆け寄ってきて、シオリをジェミルから引き離した。掴まれていたシオリの手首には、赤い指の痕が浮き上がっている。シオリの手首を見たダイは、回していた腕に更に力を込めた。

「ゲホゲホッ、グエ」

「ダイ、もう放せ」

 咳き込んで背を丸めるジェミルを、いつの間にかやって来ていたカイが背を擦ってやりながら支えて、立たせる。

「ダイ、デビット先生を呼んできて」

「わかった」

 ナナーシュに命じられて駆け去るダイの背を、シオリは茫然と見送る。ナナーシュがシオリの手首をそっと擦った。

「痛い? 絡まれているのにすぐに気づけなくてごめんなさい」

「ナナーシュ……」

 泣き出しそうに顔を歪めたシオリを自分の胸に抱きしめて、ナナーシュは下がり眉の眉尻を吊り上げて、カイに支えられた官吏科生徒を睨んだ。

「私、ナナーシュ・リーは、貴殿の行為を以下二つの法に照らして厳重に抗議致します。アルセリア王国法第八条、身体保全及び安寧維持法、シオリの手首を痣が浮くほど握り壊そうとしました。第二十五条、国家資産及び国益保全法、国家の財産たる将来有望な音楽家を個人の感情で害しました」

 リー家は記録を尊ぶ一族なのだとナナーシュから聞かされたことを思い出し、シオリはゆるゆると顔を上げた。

「僕は、ただ、彼女が……君が」

 縋るような眼差しをシオリへ向けてくるジェミルの頭を掴んで、カイが小声で囁く。

「ねえ、もうやめましょう。あなたの今後の言動次第では、ご両親や領民全てが、路頭に迷うことになりますよ」

 ビクリと肩を上げたジェミルは、よろめきながらカイから距離を取った。シオリは掴まれた自分の手首にそっと触れてから、ゆっくり動かし大きく息を吐き出す。

「痣になっているだけだわ、良かった」

 シオリの小さな声が届いたようで、カイも小さく息を吐いて僅かに口角を上げた。ダイが連れてきたデビットがジェミルを連れて行くのを、皆で静かに見送った。

「災難だったね、マドセン先輩」

「……うん……ダイ、お礼を言っておくわ」

「ええ、先輩、お礼言えたんですか?」

「ダイ、失礼よ」

「あ、つい……すみません、マドセン先輩」

 ナナーシュに窘められて、ダイは素直に謝罪する。

「あ、カイ様、こちらにいたんですね。優勝おめでとうございます。もうすぐ閉会式が始まりますよ、主役がいなくてどうするんですか」

「ああ、探してくれてありがとう、ミーヤ」

 ミーヤが息を切らせてやってきて、カイの腕を引いた。

「カイ様?」

 腕を引かれたままカイは心配も露わな表情でシオリの名を呼んだ。

「シオリ……」

「私は平気……ナナーシュもいるし。おめでとうは言わないわ。負かされた方の婚約者だから」

「そうだね、ごめんね、シオリ。シェードは強いよ。俺が本気出すくらい」

「わあ、兄上、それってなんか、上から目線じゃないか」

「ハハハ、そうかな? 閉会式ならダイも出席だろう。行くぞ」

「おう、じゃあね、ナナーシュ、マドセン先輩」

 カイとダイはミーヤに先導されて去って行く。ナナーシュはシオリを気遣い背に手を添えている。彼女の手に背を預けながら、シオリは去り行く彼らをぼんやりと見送った。

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