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9.追悼会

 ザック・フィールドが翼廊から転落死した。手すりの老朽化による不幸な事故だと発表された。シオリがナナーシュと一緒に生徒会室を訪れたのは、事故から数日後のことだった。

「フィールド先輩の追悼会を開きたい?」

「はい、個人的にですが、先輩には大変お世話になったので。デビット先生の討論会に参加した方たちからも、要望が出ております」

 ナナーシュが授業の合間にデンジに話しかけようとしたら、放課後シオリと一緒に生徒会室を訪ねるよう指示されたらしい。

「ああ、あの、歴史研究討論会ね。スローリー先生のお気に入りを集めた……君は貴族なのによく参加できたな、留学生だからか」

 挨拶のような何気ない口調で嫌味を言うデンジの赤銅色の瞳を睨んで、シオリが一歩踏み込んだ。

「生徒会長って本当に嫌味な言い方するわよね」

「そうか? 事実と考察を述べたまでだが」

 苛立って抗議したが、彼は不敵な笑みを浮かべている。

「だいたいなんでわざわざ私まで同席させるの? 会長は留学生とはチューターがいなくちゃ話もできないって?」

「そうだ、僕は高貴な方とは縁遠い。粗相があってはいけないからな」

 ニヤニヤと嘲りを含んだ嫌らしい笑みを見て、シオリは眉間の皺を深くする。

「うわあ、まだ言うんだ、最悪」

 おろおろしながら二人のやり取りを見守っていたナナーシュが、申し訳なさそうに割り込んだ。

「あの、シオリ、私のせいで煩わせて、ごめんなさい」

「ナナーシュのせいじゃない、煩わしいのはこの、嫌味っぽい生徒会長だから」

 全力で苦言をぶつけているのに、デンジは肩を震わせて楽しそうな笑い声を上げた。

「クック、本当にシオリ君は面白いな。僕は君の美貌や才能よりその舌鋒が好ましいよ」

「私の何かをちょっとでも会長に好まれたくない!」

 猫なで声で囁かれて、シオリの背筋に悪寒が走る。

「ハハハ、シオリ君が面白いから、フィールド先輩の追悼会開催を許可するよ。講堂でいいのか? 人はどうやって集めるつもりだ」

 恐らく最初から許可をするつもりではあったのだろう。恩着せがましい生徒会長に、リー家の姫は丁寧に礼を示した。

「ありがとうございます。デビット先生に頼んで、フィールド先輩と親交があった方を集めてもらおうと思っています」

「うん、なるほどね、わかった。で、シオリ君も参加するんだよな?」

 ついでのように聞かれて、シオリは顔を顰めたまま頷いた。

「するわよ、アイツは気持ち悪かったけど、死者を悼む心くらいはあるから」

 安堵の表情を浮かべたナナーシュに続いて生徒会室を出たシオリの耳に、女性の声が届いた。

「……諦めるなんて……です。我が国の野良犬の躾は青い血を持つ……のような方が担う……思いませんか」

 途切れ途切れに聞こえた不穏な台詞と聞き覚えのある声に足が止まる。

「シオリ、どうしたの?」

 振り返ったナナーシュに静かに首を横に振って見せ、シオリは不穏な台詞を頭の隅に追いやった。

 ザック・フィールドの追悼会は、建国祭が近づいた日の放課後に準備の合間を縫って開かれた。

「追悼だって言うのに、こんなに冷めてるのは、僕たちだけじゃないか」

 列の最後尾に並んでいたデンジは、離れた場所で一人、悲しむ参加者の様子を眺めているシオリに近づいてきた。

「一緒にしないで」

 彼女は前を向いたままぶっきらぼうに答える。怯んだ様子もなく、彼は彼女の隣に並んだ。

「あの留学生と随分親しくなったな。君は孤高なのがいいのに」

「はあ?」

 ナナーシュはデビットが集めた生徒たちに囲まれている。死亡したザックも参加していた研究会の面々は、リー家の姫の関心を得ようと必死だった。追悼会というよりナナーシュを囲む口実のように見える。

「スローリー先生も君も、留学生にご執心みたいだが、東方に嫌悪感を持っている生徒もいるから、気をつけた方がいい」

 ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべていたデンジだったが、急に真面目な口調になる。シオリは驚いて生徒会長を見上げた。

「どうして」

「単純に排他的な考え方で嫌悪感を持っている者もいるし、リー家の姫もシェン家の兄弟も少々目立ち過ぎている。面白くないと感じる者もいるんだろう」

 生徒会長として学園内で争いが起こることを危惧しているのだろうか。嫌味たらしさのないデンジの言葉が、妙に印象に残った。

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