ペットのように
翌朝。
ようやくフェデリコの二日酔いは収まったが、カタリーナの姿は部屋にない。自分が眠りこけている間に、部屋に戻ったのではないか? そう思い、室内の様子を確認した。
カタリーナは綺麗好きなので、空の洋酒の瓶が転がっていれば、ゴミ箱に入れるはずだった。だが洋酒の瓶はフェデリコが転がしたままになっている。バスルームに散乱するタオル類も、そのままだ。カタリーナがいたら、用意されている籠にいれただろう。
カタリーナはホテルに戻らず、あの優男とよろしくやっているのか?
自分とベッドで過ごしている時のカタリーナを思い出し、その彼女があの優男に組み敷かれている姿を思い浮かべると、フェデリコは落ち着かない。そしてカタリーナとの余韻と、二日酔いの汗で汚れたベッドを見るのも辛い。
そこでベッドメイキングと客室の清掃を依頼し、ホテルのレストランへ向かった。ホテルのレストランは部屋番号のサインで利用できる。そこでフェデリコは朝食をとり、街へ出ることにした。
行くあてなどない。土地勘もなかった。
だがフロストピークは整然と区画整理された街。道に迷う方が難しい程だった。案内板に従い、標識を見て歩くと、街一番の大きな庭園に到着した。広々とした庭園には人工池があり、動物園もある。沢山の屋台も並んでいる。フェデリコはこの庭園で、丸一日を過ごすことになった。
大道芸を披露するエリアに行くと、幼い子供の頃を思い出す。屋台のエリアでは久々でコットンキャンディを口にした。それなりに楽しい時間を過ごせたが、カタリーナのことが恋しくなる。
あの柔肌に触れたい。彼女の甘い声を聞きたいと、切なくなる。
夕方、期待を込め、ホテルに戻るが……。
室内は初日の時のように綺麗になっている。シーツはピンと張り、リネン類からは石鹸のいい香りがしていた。キャビネットには新品の洋酒の瓶が並び、タオル類も新しいものが用意されている。ここにカタリーナがいてくれたら完璧なのに。
フェデリコは再び洋酒に手を伸ばす。寂しい気持ちはカタリーナの肌か酒で癒す――その方法しかフェデリコは思いつかなかった。
◇
「お前はまだ若い。それにこれからだ。一度の失敗くらいで悔やむ必要はない」
そう上司である捜査長は言ってくれた。
だが先輩ではあるが、身分的には下になってしまう捜査官たちは……。
「自身を餌にして釣れなかったなんて。堅物野郎で男としての魅力が足りなかったんだろう?」
「首席で王立アカデミーを卒業した容姿端麗な侯爵家のお坊ちゃん。お勉強はできても、女の扱いなんてまだまだなんだろう」
「もしかしてまだ童貞だったりしてな」
散々嘲笑の対象にされてしまった。ウンザリしたが、奴らの言い分には一理ある。
確かに自分自身を餌に釣り上げた取引だった。若く美しい男を収集品のように好む女であると聞いていた。実際、聖歌隊にいそうな金髪の少年を、ペットのように連れ歩いていたのだ。
わたしの容姿で釣れないはずはないと踏み、取引を持ち掛けた。そして確かにあの女は、わたしの体と引き換えで取引に応じたのだ。それなのに――。
夜道をひた走る汽車の窓から外を見る。そこにはツーブロック分けされたアイスブルーの前髪、細い眉に碧眼の瞳、シャープな輪郭に、人より少し高い鼻をした自分の横顔が映りこんでいる。髪色と同じ明るいアイスブルーのセットアップを着ているが、車内の薄明かりと、車窓の向こう側の濃紺と混ざり、紺色の上衣を着ているように見えた。
失われた帝国の消えた王朝の末裔。世が世ならその帝国の皇太子――わたしが作り上げた偽りの身分をあの女は信じた。
「皇族の末裔の子種なんて、それこそプライスレス。平民のあたしがそれを手に入れるなんて。子どもを授かるまで手放さないわよ。これはあたしの個人的な買い物。あたしは信心深くないし、秘蹟なんて信じない。だからいいわ。あなたとの取引、応じるわ」
そうあの女は確かに言っていたのに。
窓から視線を誰も座っていない対面の座席に向け、脚と腕を組み、考える。
男の魅力、女の扱い……。
男としての魅力がないとは思わない。先程いた食堂車でも、何度も周囲の席に座る令嬢やマダムから視線を感じている。声を掛けて欲しい、誘って欲しいと、媚びるような目線。
ただ、女の扱い。
中等部と高等部、そのどちらも寄宿制の男子校で過ごした。王立アカデミーに女生徒はいたが、数は少ない。そして所属した法学部に女学生はゼロ。それでも社交界デビューはしている。ダンスの腕も悪くない。レディの扱いは、ちゃんとマナー書を頭に叩き込んで……。
「リゲル坊ちゃん。女性は生き物です。人形ではありません。マナー書通りの反応が返って来るわけではないです。予想外の反応がざらですよ。そこで動揺してはまだまだです」
婆やが言っていた予想外の反応。取引の場に現れないなんて、予想外であり、想定外だ。
想定外の出来事から数時間後。
アイスブルーのセットアップに着替えたわたしは、秘密諜報部の本部があるレンガ造りの建物の中にいた。五階建ての最上階の一室に、わたしは呼び出されていたのだ。
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