深夜の出来事
モスグリーンのフード付きローブを目深に被り、口元しか見えない女性が、カタリーナに話しかけた。
「その女はカタリーナ様宛の手紙を預かっていると言い、ローブから取り出した封筒を手渡しました。カタリーナ様は首を傾げながら受け取り、でも裏面に書かれた名前を見てハッとした表情になったのです。その場ですぐに手紙も確認していました。そして『分かったわ。指定の場所に行くと伝えて頂戴』と、カタリーナ様はその女に答えたのです」
「そのローブを着た女性、口元しか見えなかったというが、何か特徴はないのか? ローブの下に着ていた服は見なかったのか?」
「ローブはきっちり前を閉じられ、中に着ている服は……。あ、黒いスカートだったかもしれません。後は肌がとても白かったです」
「それだけでは特定できないな」とジークフリードは呟き「話を続けて」と促す。
「午後は街中にある古物商を見て回りましたが、カタリーナ様の心は、ここに在らずという感じでした。休憩でカフェに入った後、ボクはホテルへ戻ることを提案したんです。カタリーナ様は快諾し、ホテルへ帰りました。夕食まではベッドで過ごし、夕食後はバーでしばらくお酒を飲んで……。部屋に戻ってからはベッドでまた過ごし、入浴をして、再びベッドへ行きました。三度程愛を確かめ合った後、そのまま二人とも眠りに落ちたのですが……」
「ぐっすり朝まで二人で寝ていたんじゃないのか。何か起きたのか?」
ため息を一つつき、フェデリコは話を続ける。
「時計を見ていないので、ハッキリとは分かりません。ですが多分、零時過ぎ。何かの気配に目覚めたボクは、暗い部屋の中で動く、淡いグレーの人影のようなものを見ました。幽霊かと思い、隣で眠っているカタリーナ様に声をかけようとしたのです。ところがそこに彼女はいません。驚き、でもその淡いグレーの人影が、カタリーナ様だと分かりました。彼女はドレスに着替えていたのです。その瞬間、カチャリと音がしました。カタリーナ様が部屋から出たようで、廊下の薄明かりが室内に差し込んだのです」
「カタリーナが夜中のそんな時間に出掛けることは、これまでもあったのか?」
女性がそんな深夜に外出など、そうあるものではない――そうジークフリードもエリディアナも思っていた。だが……。
「はい、ありました。カタリーナ様によると、古美術を好む貴族や富豪には、変わり者も多いそうです。夜中の変な時間に呼び出されることも多いと。そんな時間に呼ばれるのは心身には負担。ですが取引自体は、とてもいい結果を生むそうです。よって例え深夜の変な時間であろうと、呼び出しには応じると聞いていました。ですが……ここは王都ではありません。それなのに呼び出しが? 不安になり、慌てて服を着て彼女の後をつけました」
フェデリコによると、カタリーナはフロストピークに初めて来たと言う。知り合いがいるという話は聞いていない。
「カタリーナをつけ、彼女はどこへ向かったんだ?」
「ホテルの周辺には朝までやっているカフェや飲み屋もあります。特に今の季節は観光客も多い。零時を過ぎでも意外に明るく、人の姿も見え、馬車も走っていました」
「……フロストピークにいる富豪は、貴族を真似して舞踏会や晩餐会も開くからな。確かに今の季節、明け方まで開いている店は多い。カタリーナは飲み屋街にでも向かったのか?」
「違います。馬車や荷馬車が集まっている場所に向かったのです。既に市場の関係者は動き始め、荷馬車の往来もあります。そこでカタリーナ様は……男と落ち合っていました」
フェデリコの表情が途端に沈み込む。
「男性だとなぜ分かった? 離れた場所で見ていたのでは? 夜中で暗いだろうに」
「それは……暗かったですし、相手の男は確かに黒っぽいフード付きのローブを着ており、顔も見えませんでした。ですがズボン姿です。それにカタリーナ様の腰を抱き寄せ、耳元に顔を近づけ……ボクがする動作と似ています。男と信じ、疑うことはありませんでした」
「男性と落ち合ったと分かった。それで指をくわえて見ていたのか?」
挑発するようにジークフリードが尋ねると、フェデリコは顔色を変える。
「違います! ボクがいるのに部屋を抜け出し、男と会うなんて、許せません。二人に近づき、声を掛けたんです。するとカタリーナ様は『驚いたわ、フェデリコ。心配して私のことをつけたの? でも安心して。これは取引だから』と言うのですが……。信じられませんでした」
「それで?」
「ホテルに一緒に帰ろうと食い下がると、カタリーナ様はボクに布にくるまれた箱を渡したのです。『これを取引で手に入れたのよ。見てご覧なさい。大粒のダイヤとサファイアが埋め込まれているから。先にホテルへ戻り、待っていて』と言われました」
「それが質屋に入れようとした宝石箱だった、ということか?」
「はい。その通りです。宝石箱が商品であるなら、もう取引完了のはず。ホテルに戻ろうと、カタリーナ様を抱き寄せようとしたら……」
そこでフェデリコは、苦々しい表情を浮かべる。
「邪魔をされたのです。カタリーナ様と取引をしていた男に。……ボクはこれでも一時、騎士見習いの真似事をしていました。寄宿学校にいた頃、強くなりたいと思って……」
フェデリコは華奢だ。それでも数年間学んだなら、多少の覚えはあるはずだった。
「ともかくボクは、これでも腕に自信はあったのですが、その優男は……。あっという間にボクの腕を振り払い、その上で足払いまでされて……。あやうくカタリーナ様の大切な宝石箱を落としそうになり、それを胸に抱きしめ、尻もちをつくことになりました。その間に男はカタリーナ様を荷馬車の御者席に乗せ、走り去りました」
追いかけたいと思った。だがお金もなければ、飛び乗れそうな馬もない。しかも離れた場所でこの様子を見ていた酔っ払いが指を指して笑っている。
フェデリコは恥ずかしくなり、その場から消えたくなった。そこで追うことを諦め、ホテルへ戻る。部屋に戻るとむしゃくしゃして、キャビネットに用意されていた洋酒を浴びるように飲み、ベッドに倒れた。
目覚めると昼過ぎ。ヒドイ二日酔いになっている。
カタリーナはまだ戻っていなかった。
水だけ飲み、フェデリコはベッドに再び倒れ込む。夕方に目覚めたが、カタリーナは帰っていない。そして二日酔いは残っている。
食欲もないので水だけ飲み、フェデリコはまたベッドに沈んだ。
お読みいただき、ありがとうございます!
事件の概要が少しずつ見えてきました……!
続きは明日の更新をお楽しみに~















