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29 焼き鳥、再び

 焼き鳥パーティー、本日二回目の開催でございます。

 前回と全く同じだと面白くないよなぁと思い、なにかちょっと変化をつけられないかと思って思いついたのが、枝豆。

 そこで、エルさんに枝豆手に入らないか聞いてみたら大量にストック持ってるって言うから、少し分けてもらいました。何をするかって? 今日、兄の同僚の方々が来るらしいので、その時に茹でてお出しするのですよ。

 いや、ほら、ちょっと前に庭で焼き鳥パーティーやったじゃない。その時に都合が悪くてこれなかった人たちが、参加した人から色々と聞かされたようで、質問攻めにされたんだそうです。兄が。で、あまりにもうざ……えーと、何度も聞かれるので、兄もいい加減面倒になったらしい。で、一度食わせれば納得するだろうからと、再現をお願いされたわけです。

 私もそのつもりだったし、多少人数が増えたところで別に問題はないので、了承したわけですよ。兄の同僚な近衛騎士さんたちには、私も何かとお世話になってるし。それに、お酒飲む人で枝豆きらいって人、聞いたことなかったから丁度いいかなと。

 例のごとく兄宅の料理人さんたちにも手伝ってもらい、枝豆はあらかじめ塩ゆでして剥かずに皿に盛っておいたので、それを出しておいた。焼きあがるまではキンキンに冷えたエールと枝豆でも召し上がっていてくださいと言って。


 そう言ってから、例のコンロで焼き鳥を焼き始めたんですが。

 

「……マキさん」

「わかってます」

「ペースが異常です」

「わかってますっ」

 手伝ってくれてるクリスさんが、こそこそ報告してくる。

 ええ、言われなくてもわかってます。兄が枝豆はこうやって食べるんだって実食して見せたんだけど、大皿に盛ってあった枝豆が早くもなくなりそうです。兄は呆れ顔でチマチマ食べてるだけだけど、ついでというか急遽参加した人たちはともかく、お招きした四名が特にヤバイ。無言で爆食してる。

「と、取り敢えず、焼きあがったのから届けてきますね」

「私が持っていきますよ」

 焼きあがったのを、無言で爆食しているおじ様たちの元へクリスさんが持って行ってくれた。

 クリスさんが声を掛けてからテーブルに置き、部位の説明してくれている。申し訳ないですクリスさん、でもありがとう! 流石にそこには近づきたくないよ!

 案の定、取っ捕まったクリスさんが戻ってこれずにいると、なぜが入れ替わりで兄がこっちに来た。なんだいにーちゃん、枝豆なら今大急ぎで茹でてもらってるよ。

「お前、枝豆なんてどこから手に入れたんだ?」


 あ、そこか。


「エルさんに聞いたら、いっぱい持ってるって言うから分けてもらった」

「ああ、エルか」

 うん、エルさんです。私の中では、食材関係はエルさんに聞けば間違いないので。

 そもそも、味噌や醤油があるんだから大豆はあるはずじゃない。だったら、大豆になる前の状態である枝豆だってあるはずでしょ。食材として扱っているかどうかは別として。

 そう思って聞いたら、ビンゴだったわけですよ。エルさんもね、大豆を見つけた時に枝豆が頭をよぎったらしく、試しに手に入れたのを塩ゆでして旦那さんと同僚の皆さんに食べさせてみたんだそうです。

 結果、全員が見事に嵌ったらしい。

 以来、栽培農家と契約して一定量を毎年確保しているんだそうです。さすがエルさん!

「いま追加で茹でてもらってるから、もうちょっとで出せるよ」

「ああ……すまん、助かる」

 おじ様たちの方を見つつ、兄。若干、顔が引きつってるような気がしないでもない。だっておじ様たち、焼き鳥にも大喜びしてるけど枝豆に伸びる手は止まってないもん。焼き鳥が出て来たから、ちょっと勢い落ちてるだけっていうね。……あっ、追加の枝豆が茹で上がったらしい。そのまま持って行ってくれた。

 そして、待ってましたとばかりにおじ様たちの手が伸びる。……止まらないね。周辺でその光景を恐々と見ているのは、兄の後輩を中心とした、比較的若いにーちゃんたち。君たち、怖がってないで食べないと、オジサマたちに全部食われるぞ。

 しかし、それにしてもだよ。

「にーちゃん」

「なんだ」

「これ枝豆の需要、すごいことにならない?」

「なる」


 うん、そんな気はしてた。


 そうなると重要なのは、枝豆がどのくらい確保できるかなんだけど。さすがにエルさんから回してもらうにも限度があるし。

「この国って、大豆育ててるところないの?」

「聞いたことがないな……」


 聞いたことないのか。


「エルさんの所から輸入するのは現実的ではないよね?」

「大豆の状態ならともかく、枝豆は無理だな」

 転移門以外の方法だと、船で一月だそうです。エルさんのいる大陸までは。

 さすがに一か月は無理でしょ。枝豆、腐るよ。

「となると、やっぱり国内で栽培してるところを探すのか、栽培可能な場所を確保するのが手っ取り早いんじゃないかな」

 露店とかで大豆が売ってるのは見た事あるから、多分どこかで栽培はしているんじゃないかと思うんだ。……輸入物な可能性もあるけどさ。

「探すか」

「探さないと、にーちゃんが絡まれるだけだと思う」

「不吉な事を言うな」

 しかめっ面してるけど、絶対にそうなるからね? ここに来れば食べれる可能性があるってのは今日で知られてしまったわけだし。今日来てるおじ様たちが枝豆の話を周囲にしたら、絶対に食いつきそうじゃない。

「あ、パトリック君もさっき味見してたけど、美味しいって喜んでたよ」

 私が普段と違う事をすると、どこからともなく嗅ぎ付けて来るパトリック君。枝豆茹でてたら来たんだよ。

 なので、味見お願いねと言って食べさせてみたら、目を輝かせてた。まあ、あの子の場合は味も気に入ったんだろうけど、鞘からぷちって出しながら食べるのが楽しかったんだと思う。

「パットも好きなのか」

「エレーヌさんも美味しいって言ってた」

「奥さんも? 明日にでも王宮の農産物部門に問い合わせる」

 エレーヌさんの名前出した途端に、兄がやる気を出した。わかってた。

 取り敢えず、兄に焼きあがった焼き鳥持って行けと大皿ごと渡して、兄は宴席に戻りました。若干、あそこに行きたくないみたいな顔してたけど、あのオジサマたちをお招きしたのはにーちゃんだろ。

 兄が戻った事で解放されたクリスさん、若干ヨレってなってる気が。あのおじ様たちに捕まってたんだから、そうなるよね。

 お疲れ様でしたの意味を込めてレモン果汁にはちみつを入れて炭酸水でわったのを渡してみた。

 ありがとうございますと受け取って、ちょっと口をつけて目を丸くしてる。なんか、可愛い。

「ああ、これはいいですね」

 お気に召したらしい。よかった。炭酸水って、思ってた以上に手に入りにくいのは前回の事でよくわかったからね。エルさんに枝豆のついでに送ってもらったんだけど、私が確保している分はジュース用です。お子様たち、果汁を炭酸水で割ったのが気に入ったようだったので。

 こうなると、炭酸水も定期的に手に入れておきたいんだよね。じゃなかったら、ちょっとまとめて購入しておきたい。ただ、大陸では炭酸水は手に入らいないらしいので、そうなるとエルさんにお願いするか、直接グラフィアスまで買いに行くかしかないんだよねぇ。


 取り敢えず、これが終わったら兄に相談してみようかな。兄がいつになったら解放されるか、ちょっとわからないけど。本日お越しの皆さん、明日も休み的なことを言っていたので、簡単には帰らなそうな気がする。

 兄には申し訳ないが、私は巻き込まれなくないので近づきません。

 せめて本日中に終わるように、こっそり祈っておきます。



 **********



 枝豆の件でエルさんに連絡を取ったときにもちょっと話していたんだけど、最近になって気になりだした事がある。

 それは、あちらの記憶を持っている人がどのくらいいるのか、という事。

 私の身近だけでも、記憶持ちは兄やエルヴィラさんって存在がいるわけですよ。そう考えると、結構な人数がいるんじゃないかなーと。

 私みたいな転移者は、確認できているだけで私含めて三人。聖女様姉妹は、完全にこちらの世界の人間によるやらかしの被害者だし、私に至っては完全な事故。こちらへ来る前、家の壁に沸いたあの不可思議な窓を通しての交流で、兄がネックレスを渡してくれてなかったら絶対に死んでた。

 そう考えると、兄は私の命の恩人でもあるわけだ。ありがとう、にーちゃん!

 話が逸れたけど、気になってるのは記憶持ちの人。前にちらっと聞いた話から恐らく例のぶっ飛びヒロインも記憶持ちだったんだろうし、そうなるとすでに三人いるわけです。


 これって、かなりの確率じゃない?


 そんな疑問を兄にぶつけてみたわけですよ。

「……何を唐突に言い出すのかと思えば」

 仕事中の兄の所へ押しかけた私の第一声が、【記憶持ちってどのくらいいるの!?】だったのは、自分でも酷いなと思った。でも、気になったんだよ!

 兄、でっかい溜息ついてから手に持っていた書類を机に置いたよ。相手をしてくれるらしい。

「まあ……俺が把握してるのはグラフィアスに三人。エル以外でな」

「おお、やっぱりいるんだ!」

「いるな。しかも一人はお前が嵌ってたゲームのユーザーだったらしいぞ」

「え、なにそれ話してみたいんだけど」


 お仲間? もしかして、お仲間かな?


「後の二人は、魔道具関係の事業で成功している伯爵家の双子だ。エルが和食繋がりで見つけたらしい」


 和食、偉大だな!


 詳しく聞いたら、どうやらエルさんが試行錯誤の末に再現させた味噌で釣れた存在らしい。なんでも実際に会う前から存在は知っていたらしいんだけど、これといった接点がなかったので確認できなかったんだって。それが、ある事件で関わる事になって、その時にいくつかの食材を口にしたらモノの見事に釣れたらしい。

「ウチでは普通に食卓に出て来るけど、タケノコもレンコンもこの世界では食材として認識されてないからな? しかもこの国では採れない食材だし」

「え、そうなの?」


 ここのご飯、普通に筑前煮みたいなのが出て来るから、一般的なんだと思い込んでた!


「なんでも、双子が辺境伯領を探索して見つけたんだそうだ。あちらではすでに食材として定着していはいるんだが、さすがにグラフィアス産の食材がこっちで定着する事はない。遠すぎる」


 うん、まあ、大陸が違うもんね。


 この世界、異空間バッグなんて便利なものがあるので食材を劣化させないで運ぶことは可能だけど、往復にかかる日数やら経費やらを考えたら無理でしょ。転移門が誰にでも気軽に使える移動手段だったらまだ可能性もあっただろうけど、使用許可を取るのも結構大変みたいだし、管理維持には手間もお金も必要だから、庶民でも気軽に使えるようにって言うのは難しいんだそうです。

「転移門って、やっぱり使うと劣化していくもんなの?」

 どういう仕組みになっているのか全く分からないので、その辺りもどうなってるのか想像がつかない。

「術式が劣化する事はないんだが、維持する為には高魔力を含有している魔石が必要になる。術式の発動はこの魔石からの魔力が供給されている事で可能となるんだよ。転移門は一度の発動で消費される魔力はかなり多いから、魔石への定期的な魔力の補充は必須だし、魔石自体も劣化する。で、この魔石がめちゃくちゃ高い」

「どのくらい?」

「地方なら小さめの家が買えるくらいだな」

 イマイチよくわからない。

「現代風に言うと?」

「新車でお前の車が二、三台買える」

「たかっ!!」


 わかりやすいけど、高い!!

 え、魔石ってそんなに高いの!?


「言っておくが、転移門に使う魔石は特別だからな。普通の魔道具に使う魔石は、まあ、ランクとか大きさとか性質でもかなり変わるが、値段はピンキリだ」

「そうなんだ」

 ちょっと、ほっとしました。だってこの家、キッチンとかに当たり前のように魔道具あるし、私も便利に使わせてもらってるからさ。そんな高価な魔石使ってる物だったら、怖くて使えなくなるところだったよ。

「魔石自体、そう安いものでもないが、キッチンとかに使ってる魔道具の魔石だったらそこまで高いもんじゃないぞ。あの手の魔道具は動力用の魔石が別についているから、交換可能なものも多いしな」

「動力用……」


 それは、要するに電池では?

 

 疑問に思って聞いたら、その考えで間違いないと言われました。魔道具を魔道具にする為の術式を刻む魔石は、また別なんだそうです。

「転移門は長期的に高魔力を必要とするので、魔石は交換前提で作り上げられている。そうじゃないと、魔石が劣化したらまた術式から組み上げなければならん。お前も床一面に広がる魔法陣を見ただろう? あの床は特殊な素材で作られていて、魔石と連動できるんだ。なので、あの魔法陣の要所要所に動力用の魔石を嵌め込むことで機能している」

 今、何が聞き捨てならない事を言った。

「魔石って、一個じゃないの?」

「核となる魔石は一つだ。動力用はいくつかは言えないが、一個じゃ動かんぞ」

「うそっ!?」


 え、だって、さっきの例えだと魔石一個で一千万近い値段なんだよね!? それを複数!?


 手間もお金もかかるって兄が言ってたの、納得した。そりゃ、定期的に高額な魔石の交換が必要になるような施設、無料開放できるわけがないわ。使用料が高くなるのも納得。

 ただ、国家間の取引となると別だそうで。

 例えばグラフィアスとの交易では、小麦の輸入なんかもしているそうです。この世界では小麦って主食となる食材のひとつだから、この国でも毎年余剰が出るくらいには作っているんだけど、グラフィアス産の小麦は味がよくて高級品って事で取引されてるらしいよ。使用する用途が違うから、こちらで作っている小麦の消費に影響が出る事はないんだって。ていうか、影響が出るほどの量は輸入していないそうです。

 逆にこちらからは果物なんかを主に輸出しているそうです。グラフィアスがある大陸って通年を通して気温が低めなんで、果物の種類がそんなに多くないんだって。

 兄の話をふんふん聞いていて、ふと思い出した。前にクルキスへ行くときにグラフィアスの転移門通り(勝手に命名)に行った事あるけど、行き先別の建物が十個くらいなかったか?

 思い出した事でその事実に思い当たって慄いていたら、兄が話を戻してきたよ。

「話が逸れたな。まあ、記憶持ちに関しては他にもいる可能性は高いが、見つけるのはほぼ不可能だろう」

「頭おかしいと思われるもんね」

「ああ。俺や俺の知り合いたちはその点、運が良かっただけだ」

 うん、そうでしょうとも。

 だって、ねぇ。いくらこことは違い世界の記憶があったとしても、自分は別世界で生きていたんですなんて迂闊に口にしようものなら、絶対に頭大丈夫かって疑われる。日本にいた時に、っ自分は異世界出身ですなんて人がいたら、関わらない。周囲だって、コイツ大丈夫かって目で見るのは確実だろう。下手すれば、そのまま隔離病棟行きじゃない?

「まあ、会ってみたいならエルに頼めば連絡は取れるぞ」

「え、マジで」


 それはちょっと話をしてみたいかも。


 そいうわけで、超個人的な好奇心からエルさんにお願いしたら、連絡を取ってもらえることになりました。ついでにエルさんの家に招待してもらえることになったので、楽しみです。


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