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28 焼き鳥でおもてなし

 

 なんだかんだで、こちらへきてもうすぐ一年。

 突然部屋の壁に現れた窓を通しての交流から始まり、災害に巻き込まれて気づいたら車ごとこっちに来ていて、なんだかよくわからないままに異世界生活がスタート。しかも一緒にこっちへ来てしまった車は、夜明けとともに積んであった荷物が復活するというオプション付き。

 まあ、おかげで何があっても飲食の心配だけはしなくて済みそうなので有難いと言えば有難いんだけど、本当に意味不明。有難いけど。

 こんな訳のわからない状態で転がり込んだにもかかわらず、現在進行形で面倒を見てくれている兄とその家族にはもちろんものすごく感謝しているけど、それ以外にも色々と支えてくれた皆さんにも本当に感謝している。


 特に、クリスさん。


 初期のころから護衛してくれて気にかけてくれて、それでもってこ……婚約者に、なって、くれてっ。

 これからも自分が守りますって、そう言ってくれて。

 思い出しただけでも、顔が熱くなる。この人とこれからもずっと一緒にいられるんだって、そう思ったら嬉しくて、優しい人たちに囲まれて生活できていることも嬉しくて、本当に感謝しかなくて。

 だから、改めて何かお礼したいなって思ったんだ。



「というわけで、お世話になってる皆さんに何かお礼したいんだけど、何がいいかな?」

「…………まずはそこに思い至った経緯を説明しろ」

 思い立ってすぐに兄の執務室へ押しかけて相談してみたら、呆れ顔でそう返された。そう言えば、脳内会議してただけで何も説明していなかったわ。

 これはいかんと、さっきまで脳内会議していた内容を兄に説明。

 兄、なぜか頭を抱えてます。

「マキさんがこちらへ来た事で我々もかなりの恩恵を受けていますからねぇ。お礼したいのはこちらも同じなのですが」

 呆れた感じでザックさんに言われました。


 そんなバカな。


「本当ですよ? そもそも、マキさんの車から支給される品物はどれもこちらでは手に入りにくい、または今の技術では再現不可能に近い物が多いのです。それだけでも価値は計り知れません。まあ、その貴重な品を当たり前のように消費している旦那はどうかと思いますが」

 じろりと見られた兄、そっぽ向いている。うん、兄の机の上には車に積んであったお菓子が常備されています。本当に、いつ来ても置いてあるんだよね、あれ。まあ、兄が大好物だったお菓子だから、わからんでもないんだけどさ。

 そう言えば最初に荷物を下ろした時、兄がこっそりアレを独り占めする勢いで抱えてたなぁと、ふと思い出した。

「でも、衣食住は完全に面倒見てもらってるし、なんだかよくわからないうちに高額な魔道具たくさんもらってるし、対価としてはかなり釣り合わないと思うんですけど」

 だって、私がもらった道具類の中で恐らく一番高額だろう異空間バックなんか、値段聞いたら一般的な年収以上だったからね? そんな高額なものを、取り敢えず使っとけって投げてよこしたんだよ、ミサキさん。有難く使わせてもらってるけどさ。しかもその後、ルナちゃんのご飯専用の鞄までもらってるからね、私。後になってクリスさんから大体の値段聞いて驚いて、慌てて支払いの事聞いたらカレーで帳消しとか言うんだよ、あの人! オカシイでしょ!

「言いたい事はわかるが、あいつら自力で素材やらを調達することが大半だから、値段はあってないようなもんだぞ? まあ、あいつらが作る魔道具は付加価値がものすごい事になるから、出回ればさらに高額にはなるけどマジで気にしてないし」

「そこは気にするように言おうよ!」

 兄の暴露に、思わず突っ込む。

「言ったところで無駄だ。あいつらは作りたいモノを作るだけで、基本的に儲ける事を考えてるわけじゃないから。ミサキなんか聖女様が言い聞かせてなかったら、魔道具の価格崩壊誘発してたかもしれねーしな」

「ナニソレ、どういう事?」

 思わず聞き返したら、教えれくれました。

 ミサキさん、十六歳で聖女様の元から独立して今お店を構えている国で魔道具店を始めたらしいんだけど、お店を出すときに聖女様とその旦那様から魔道具の価格に関してかなり厳しく設定方法を叩き込まれたらしい。というのも、ミサキさんは素材等は自力でも調達できるようになっていたから、材料費はかなり抑えられていたんだそうです。で、作った魔道具は適当に見て回った他店の値段を参考にして、そこから自力で集めた分の材料費を差っ引いた値段で売ろうとしてたんだって。

 これに、聖女様とその旦那さんが待ったを掛けたそうです。

 この時すでに、ミサキさんが作り出す魔道具って付加価値がものすごい事になっていたらしい。他の追随を許さないほどの高性能揃いな上に見た目も拘るので、完成度がとんでもなかったんだって。そんなモノを普通の魔道具以下の値段なんかで売ったら他の職人に喧嘩売ってるも同然、向こうでこれより性能がいい魔道具がこんな値段で売られているのに、何でこれはこんなに高いんだと言われかねない。

 その辺りを聖女様ご夫婦が滾々と説明し、値段の付け方に関しては一定の法則を考えてそれを元に付けるように言い聞かせたそうです。結果、それでも一般的な魔道具よりはかなり高額設定にはなったものの、性能その他を考えたら破格の値段らしいです。

「ええ、ミサキさん……」

「仕方ないっすよ。あの当時だとミサキさん、まだこっちの常識には馴染んでなかったでしょうし」

「ああ、そうか。十六歳ですもんね」

 ザックさんの意見に、頷く。

 転移なんてしなければ高校生くらいの年齢なんだから、ザックさんが仕方ないと言うのもわかる気はする。ただ、それで万が一にも実行されていたら廃業に追い込まれた職人さんもいただろうし、それを考えると阻止してくれた聖女様たちがファインプレーなのは間違いないだろう。

「エルさんも大公妃様が囲い込んでなかったら似たようなもんだったんじゃないっすか?」

「可能性はあるな」

 何やら二人で納得している。

 でもエルさんって、国のお抱え職人みたいな扱いなんだよね?

 疑問に思ったので、聞いてみた。

「エルは最初っからグラフィアスの王弟夫妻がガッツリ囲い込んでコントロールしていたから問題ないんだが、あいつも価格とかにはマジで無頓着なんだよ」

「はい?」

「お前に魔道具をポンポン渡してる時点で察しはつくだろ」

「あっ」

 言われてみれば、そうだった。でも兄、気になる事も言ってたよね。


 王弟夫妻が囲い込んでる???


 意味が分からなくて兄の顔を見たら、これも説明してくれました。

 エルさんが王族の護衛騎士をやってるのは聞いていたけど、大公の称号を持つ王弟の奥さんである大公妃様の専属護衛なんだそうです。そして、この大公妃様がエルさんの大恩人らしく、エルさんは大公妃様にのみ忠誠を誓っているんだとか。その為、大公様が個人的にエルさんと契約を交わして大公妃様の専属護衛として雇う形で、国からの干渉を受けないようにしているそうです。

「加えて、現存する唯一の召喚士としても有名になっちまったからな。なんとか手に入れたいと考えている連中は腐るほどいる。完全中立を謳っている魔法大国グラフィアス、その軍部のトップである王弟が囲い込んでいるからこそ、色々な面で守られてる感じだ。エルもそれは理解しているから魔道具開発に関しては協力を惜しまないんだよ」

 エルさん、思っていた以上に複雑な立場の人でした。

「え、でも、侯爵夫人なんだよね? それだと、国から命令が出たら従わないといけないんじゃないの?」

「大公殿下が軍部を掌握している限りは問題ないと思うぞ」

 軍部を掌握とか聞くと、嫌な言葉が頭に浮かんでくる。簒奪とか、そんな感じの。

「それは別の意味で大丈夫なの?」

「兄弟仲はものすごく良いから問題ない。というか、陛下が弟可愛くて仕方ない人だから」

 いらない心配だったようです。どうやら王様、普段から大公様を構い倒しているそうですよ。で、構いすぎて弟に叱られるらしいけど。

 国王様がそんな感じなので、エルさんに関しては国としては一切口を出さない事で合意済みなんだとか。臣下からは色々と言われたみたいだけど、そこは王様が笑顔で押し通したそうです。……それ、笑顔だけど笑顔じゃないヤツだよね? 意見した人たち、大丈夫だったのかな? 少なくとも胃が痛くなるような思いはしたんじゃないだろうか。

「なんでまあ、ミサキに関しては適正な値段をつけるようになったので問題ないし、エルはそもそも自分では売らないから問題ない」

「なんか、意外」

 だって、兄と一緒に商会を立ち上げて共同経営しているんだよ? 一応、兄が代表という事にはなっているようだけどさ。

「そんな連中だから、俺がやらざるを得なかったの」

「うん、理由聞いた今は納得」

 ふてくされた感じで兄に言われて、思わず頷いた。

 わかったけど、エルさんはともかく、ミサキさん、それでよくお店経営出来てるよね?

 お二人の意外な一面を知ってしまった気がするわ。

 で、それはともかく!

「でね、皆さんに何かお礼したいんだけど」

「強引に話を戻したな」


 そうしないと、話が脱線したままじゃん!


「お礼っつったってなぁ」

 兄が腕を組んで考え込んでます。今ふと思ったんだけど、こっちに来てから私が一番お世話になってるのってどう考えても兄なんだよね。その兄に聞くのってどうなんだろう。今更だけど。

「旦那、まだこっちで再現してない料理とかないんですか?」

「料理? 色々あると思うぞ」

 うん、いくらでもある。再現できるかどうかは別として。

「だったら、それを皆さんにふるまっては? 要は、感謝の気持ちを伝えられればいいわけですし」

「あ~……まあ、それも有りか」

 それが無難だろうという事で、再現できてない料理を振舞うで決定しました。

 で、色々とヒアリングした結果、やっぱり和食系だよねって事になって、そう言えば年末におせち作った時にはみんな喜んでくれたよなぁと思い出した。うん、みんなでワイワイ食べれる系の料理がいい気がする。

「あっ」

「ん?」

「焼き鳥パーティーしよう!」

 車に、割り箸なんかと一緒に竹串あったし、お茶のパック抜くついでに竹串も抜けば当日までにはそこそこ数は確保できるだろうし。

 食材も、鶏肉は問題ないし炭は普通に売ってる、長ネギっぽい野菜もあるしタレは醤油とかあるから作れる。出来れば長細いコンロが欲しい所だけど、なければ何かで代用を考えないと。

「焼き鳥か……焼き鳥、いいな。ザック、このくらいの幅でこのくらいの深さの金属台を探してくれ」

「了解っす。金属台って、中に火を入れる感じで?」

「炭を入れるから……あ、いや、ちょっと待て。そもそも竹串あるのか?」

「割り箸なんかと一緒に積んであった」

「あれか。となると、紙皿も使えるな」

 兄が乗り気なので、話がサクサク進みます。兄も焼き鳥食べたいらしい。そして、ザックさんも興味津々な様子。なので、お酒好きな人なら焼き鳥とエールの組み合わせは最強らしいですよと教えてあげた。手配するそうです。

 そうと決まれば、材料確保。

 各方面への連絡と日程の調整とかは兄がやってくれると言うのでお任せすることに。……一番、感謝しなければいけない人を一番こき使ってる気がしないでもないけど、ここは頼らざるを得ないので頼らせてもらう。にーちゃん、頼んだ!

 私はキッチンへお邪魔して料理長なおじいちゃんたちに相談。作りたい料理の説明をしつつ食材の確保に協力してもらう。ついでなのてこっち風にアレンジしたモノも作ってみようかと本番までに色々と試作してみる事に。

 取り敢えず、焼き鳥とはどんなものなのかを説明するために、お試しで焼いてみる事にした。さっそく車から竹串を取って来て、部位ごとに分けてあったお肉を適当な大きさに切って竹串で刺していく。そして、何とも都合がいい事にキッチンには七輪みたいな道具と炭が常備されていたので、これでお試しに焼いてみた。タレは取り敢えずなので、それっぽくなるように醬油をベースに色々と混ぜて、こんなもんかなって感じに仕上げてみた。

 程よく焼きあがった串をタレに浸してから再び火にかける。うん、匂いはとても焼き鳥っぽいね。

 手分けしてタレと塩を焼き上げて、みんなで試食。

「あ、これは確かにエールですね」

「皮! パリパリに焼くとこんなに美味いなんて!」

「タレ、美味しい……っ」

 好みはそれぞれだけど、概ね好評なようです。良かった。

 その後は、各部位ごとに焼き加減を確認したり他にも炭火で焙ったら美味しそうな食材を試してみたりと試行錯誤して、どうにか当日のメニューが決定。結局は、タレと塩だけになりました。色々とこっちに合わせたものを試作してみたんだけど、なんかちょっと違うというか。イマイチこう、刺さるものがなかったんだよね。

 なので、あとは食材の調達をどうするか。

 その話をしていて、衝撃の事実が発覚。

 この世界、食肉用に飼育されている家畜って、本当に少ないらしい。代表的なのは牛だけど、これはミルク目当てなので生まれてきた子牛が雄だった場合はある程度まで育てて、という感じだそうです。

 あとは、ニワトリもどき。私の知ってる白いでっかいニワトリよりも縦も横も三倍くらいでかいという、個人的にはサイズがだいぶおかしいんじゃないかと思うニワトリさんです。この世界ではこのサイズが一般的らしいんだけど、初めて見た時は本当に驚いたよ。しかもこのニワトリ、繁殖も容易で餌も雑食に近いらしく、農家などが商品にならない野菜なんかを使って兼業で飼育している事が多いそうです。兄宅でも裏手の林の奥の方に小屋があって、そこで飼育しているとの事。知らなかった。

 じゃあその他の肉はどうやって確保しているんだと言えば、大半は冒険者ギルド。大体は肉屋が欲しい肉をギルドへ依頼、冒険者が狩ってきて納品、という流れが一般的だそうです。

 冒険者の中には食材調達を専門にしている人もいるそうで、そう言った人たちの活躍で日々のお肉は確保されているらしい。ていうか、この方法で日々の需要を賄えるんだからすごいよね。

「それなりの規模の国でその国の中心となる街なら数百万単位の人口がいるだろうが、地方だと大きくても数万単位なんて珍しくもない。さらに外れた地域へ行けば百人足らずの集落なんざ当たり前だし、パトリック坊ちゃんくらいの年齢ならウサギくらい単独で狩る子も多いぞ」


 この世界の子供、逞しすぎる。


「地方では自給自足が基本だからなぁ。田畑の周辺には害獣対策で罠を仕掛けてる事が多いし、罠にかかった獲物は解体して食料にしたり、皮などは纏めておいて行商に売ったりすることも多いんだよ」

 料理長なおじいちゃんから捕捉入りました。

 地方の小さな集落でも、定期的に回っている行商はいるものなのだそうです。地方の小さな集落だからこそ手に入るような品物は少なくないんだって。

「ある程度、標高がないと生育しない薬草とかもあるからな」

 と、ミサキさん。ちょっと前に、ふらっといきなりやってきました。私が厨房にいると兄から聞いて、こっちへ来たそうです。

 そしてミサキさん、自身も冒険者として活動しているからか、こういった事を本当に良く知っている。

「そういった集落まで行けば、希少な植物が普通に生えていたりしますしな。子供にとっても良い小遣い稼ぎになっとるようですよ」

 おじいちゃんも、ここ厨房にこもってることが多い割には、地方の事情にまで詳しい様で。まあ、私があまりにも知らなさすぎるってのもあるんだけどさ。

「ほしいもんあったら自分で稼ぐしかねーし」

「そうですなぁ」

 そうか、それが普通なんだね、この世界では。

「いや、本当に……逞しいなぁ」

 ぽつりと呟いたら、聞こえていたらしい皆さんに笑われた。

 のほほんと平和な世界で生まれ育った私からしたら、みんな本当に逞しい。……ミサキさんは同郷なはずだけど、完全にこっちに馴染んじゃってるから、逞しいなんて言葉じゃ足りないくらいになってるし。

「お前もその平和ボケな思考回路がもう少しマシになれば、一人で行動しても大丈夫なんだがな」

 呆れ口調で言われました。こっちに来てそろそろ一年経つというのに、いまだにこれだよ。

 ミサキさんを始め周囲の人たちに言わせると、私はいまだに警戒心の欠片も持ち合わせていないように見えるそうです。世間知らずの貴族令嬢でもそこまで酷くないとか言われてますよ、兄には。

「クリスがいなかったら軟禁生活待ったなしだぞ」

「そこまでっ!?」


 え、さすがにちょっとそれなどうなの!?

 いやいや、いくら兄でもそこまではっ。


「軟禁とまではいかずとも、旦那様が心配して監視は厳しくなるでしょうな」

「うそっ!?」


 おじいちゃんにも肯定されたよ!

 えええ、いくら何でもちょっとアレじゃないかね、にーちゃん。


「ルナとクリスがいりゃ護衛としては申し分ないが、如何せんお前の能天気具合がどうしたってネックだ」

「そこまで言います?」

「自覚しろ、マジで。この前ギルドに行った時もお前を狙ったスリに何回荷物盗られそうになったと思ってんだ」

「は?」


 ナニソレ。


 きょとんとしたら、ミサキさんに深々と溜息つかれました。

「クリスが未然に防いでるからいいものの、もう少し警戒しろ」

「え、え? いや、だって、え?」


 いつ、そんな事になってたの?


 思わすミサキさんを凝視したら、またもや溜息つかれた。その反応で、ミサキさんが言ってる事が事実だと察してしまった。全然気づかなかった……

 まあ、そんな事はともかくとして、取り敢えずは焼き鳥の味付けはタレと塩のみということで決定。

 開催は兄にお願いしてお招きしたい人たちのようてを聞いてもらっているので、それがはっきりしてからにはなるけれど。一応、今月中を予定して、本日から色々と準備を開始することになった。


 取り敢えず、車からせっせと回収した竹串約千本! 車に積んであった復活する箱に入ってたのが五十本入りだったんで、これまでに下ろしていたのも含めて一週間で集まりました。

 で、今はこの竹串にですね、兄宅の料理人さんたち総出でお手伝いして貰いながら、焼き鳥用に鶏肉を串に刺しているところです。……料理人さんたち以外にも制服着たガタイの良いおじさまたちがちらほら混じってるんだけど、多分きっと気のせいだ。竹串じゃなくて材質のよくわからない串に刺してるアレは、何のお肉だろうか?

「ロックリザードですよ」

 隣で器用にお肉を竹串に刺しつつ教えてくれたのは、クリスさん。今回の件をなんとなくお伝えしたらですね、お手伝いしてくれることになりました。……私が感謝したい人に含まれているんですが、この方。お手伝いとかしてくれなくていいのに。

「食用可能な魔獣の中では、一番鶏肉に近いので」


 なるほど、確かにあれは鶏肉だよなとは思ったけど、それがなんで一緒に作業することになるのだろうか?


 疑問はクリスさんが教えてくれましたよ。

 要は今回の事を知った騎士さんたちに、クリスさんが言ったんだそうです。焼き方は教えてもらったから兄たちへの対応で忙しいだろう私の代わりに焼いてやる、その代わり自分達が食べる分は自分たちで確保して来いと。食欲旺盛な皆さん、速攻で狩りに行って来たそうです。

 ちょっと前、試作で焼き鳥を焼いてた時に窓から覗いてた護衛さんたち数人にも味見してもらったんだけど、大好評だったんだよねぇ。その時に騎士の中でも古参な人がいて、その人にザックさんがエールとの組み合わせが最高だって話をしてて……ああ、あの時、周りに若い騎士さんもいたな。

 そんな感じで、仕込みは順調に進み、予定よりもかなり早く終了しました。

あとは、当日を待つのみ! がんばるぞ!



 **********



 準備万端で迎えた、焼き鳥パーティー当日。

 本日は朝から快晴! おあつらえ向きにポカポカ陽気です、よかった。

 会場は当然ですがお庭がメインですよ。だって、炭使うし煙いし。まあ、そう言った集まり様に使用するだだっ広い部屋の扉を全面開放して、自由に行き来できるようにしてある。日が傾いてくるとまだ冷えるから、開催はちょっと早めの三時からに設定しました。庭には照明とか空調みたいな魔道具を設置するので、そこまで気にしなくてもいいとは言われましたが。

 うん、三時からですって、ちゃんと案内出したんだよ、私。エレーヌさんにも確認してもらったし、最終的には兄からもOKもらったし、時間まちがえて記載してなかったはずなんだ。


 にも、関わらず。


 ただいまお昼をちょっと過ぎたくらいです。お庭に設置した席には、大勢のお客様が寛いでいらっしゃいます。

 ご招待させていただいた関係者の皆様、なぜにもう集まっているのでしょうか?

 

「フライングにもほどがある」

 兄が完全に呆れています。なんでも、楽しみすぎて待ちきれなかったんだとか。……子供か。

 というかまあ、大半のお客様がすでに到着しているし、残りの方々ももうすぐ到着するらしいので、炭に火を入れて焼く準備を開始。


 さあ、始めるぞ!


 味は、塩とタレの二種類。タレは何度も試作して、良い感じに仕上がりました。さっき、ちょっとだけ兄とエルさんに味見してもらってお墨付き貰えたんで、問題ないはず。

 内臓系は、こっちの人は慣れてないだろうからと今回はナシ。皮とつくねはあるよ。皮はパリパリでカリカリにしたのが好評だったので、今回は全部カリカリに焼きます!

 焼き台は何か所かに設置、そのうちのひとつは私が担当します! 目の前にはすでにお眼目をキラキラさせたお客様たちが見学中です。若干、視線が痛い。煙で目が痛くなったりするから、座って待ってなって言ったんだけど、ダメでした。

「いいにおい、するー」

「おいしそー」

「おいちーかなー」

 最前列に、パトリック君、ヴィクトル君、ジゼルちゃん。

 その後ろに、前に三人ほどではないにしろ、やっぱり目をキラキラさせている、ちょっと大きいお子様二人。

「ねーちゃん、あれもチキン?」

「うん、父さんがそう言ってたよ」

「もう、匂いだけでお腹鳴りそう」

「オショーユ、だっけ? あれの匂いだね」

 誰かをほうふつさせる、優しそうな雰囲気のお子様達。聞いたら、ザックさんのお子さんでした。やっぱりね。

 まあ、お子様たちがワクワクしている間に、取り敢えず焼きあがりましたよ。

 まずは、もも肉。タレです。

「串の、端を持って……そうそう」

 普通、良いトコのお坊ちゃんなパトリック君たちはこういった食べ方はしないんだろうけど、如何せんこの子には窓を通しての交流時に散々手づかみでおやつ食わせてる。なので、普通に串も手で持つ。

「坊ちゃん、こうやって食べるんですよ」

 ザックさんの息子、ロック君がお手本を見せている。こういった感じの料理は食べ慣れてるのかな、肉にかぶりついて上手に串から引き抜いた。

「……美味い。ねーちゃん、これヤバいよ!」

「どれ。……ああ、本当だ。これは美味しい!」

 年長者二人が食べたところで、三人も挑戦。パトリック君とヴィクトル君はロック君の真似をして上手に食べれたけど、ジゼルちゃんにはちょっと難しそうだったんで、予め串から一度抜いて、取れやすくしてから別の串に刺して渡しておいた。……いや、串から外してお皿においてフォークでって思ったんだよ? でもね、お兄ちゃんたちと同じ食べ方したいんだって。 

 ジゼルちゃん、串を受け取ると、パクっと。

「「おいしー!」」

 三人からも美味しい頂きました。

 おお、良かった。

 タイミングよく他の串も焼きあがったんで、それをお皿に乗せてお子様たちが座ってるはずだったテーブルへ。ここにはレティちゃんとエレーヌさんが待機中でした。しかもそろって、騎士さんたちの制服みたいなのを着てる! 野外活動する時のスタイルらしく、お二人とも素敵! 普段の淑女な姿を見慣れてるから、ズボン姿は新鮮です。

「お待たせしました。これがもも肉で、これが胸肉、こっちがミンチにしたのを丸めて焼いたもの。茶色がタレで白いのが塩味です」

「ふふ、美味しそうな匂い」

 レティちゃん、ニコニコしながら早速タレの方に手を伸ばしました。

 何の躊躇もなく、パクっと口にして。

「……あら、とても美味しいわ。これはみんながお酒が欲しいと言うのがわかるわね」

 お気に召したようで何よりです。

 エレーヌさんは塩から食べたな。

「あら、普通に焼いたものと、こうも違うのね。香りもっても良いわ」

「炭火で焼いてるからですよ。ああやって焼くと、お肉から落ちた油が炭にかかるじゃないですか。その油が燃えて蒸発する時に煙が出て、その煙で軽く燻製されたような状態になるんです」

「なるほど、それでこの香りなのね」

 お気に召して頂けたようで、パクパク召し上がってます。食べ方はお上品な感じではあるけど、淑女なお二人が手に串持って焼き鳥食べてる姿は違和感しか感じない。

 一方のお子様たちは食欲旺盛です。味はタレの方が好きなようで、そっちを集中的に召し上がっておられます。ジゼルちゃんは、やっぱりつくねが食べやすいかな。レティちゃんとエレーヌさんは、両方を交互に味わってる。

 まあ、本日はお肉だけじゃなくてお野菜とかも用意してあります。こっちは網焼きね、お肉だけはバランス悪い。野菜もお食べ、お子様達よ。

 食の進み具合を見つつ、追加でどんどん焼いていく。ちょっと残念なのは、皮だけはほとんど向こうの酒飲みチームに取られた事だろうか。試作の時にカリッカリに焼いたのをいたく気に入ったザックさんの策略です。つまみに丁度良いと、気づいた時には大半が持っていかれた後だったよ。そんなに気に入りましたか。

「まきちゃん、これなーに?」

 パトリック君、カリカリに焼けつつある皮に目をつけたようです。

 焼き台の近くだと煙いだろうからと、態々少し距離とってたのに、結局は焼き台の周辺に集合するんだよ、この子たち。なので、いつの間にかテーブルごとこっちに移動してきてた。

「これはねー、パトリック君が嫌っていてた、ぶよぶよした部分です」

 そうなんだよ、この子、皮の部分はあまり好きじゃないみたいなんだ。食感がダメみたい。前に、普通に鶏肉のソテーが出て来た時に、皮だけ剥がして残してあったもん。表面がかりッとしてても、内側はそうじゃないからだと思う。

「ぶよぶよしてないよ?」

「ぶよぶよしないように、焼いたからだよ」

 興味津々な様子なので、丁度いい感じに焼きあがったのを少しだけ串から外して、お口に放り込んでみた。

 皮は薄くのばして徹底的に油を落としつつカリカリに焼き上げたので、食感は大丈夫なハズ。味は軽く塩を振っただけだけど、どうかな?

 あ、お眼目がキラキラしてるね。

「おいしー!」

 気に入ったようです。良かった。

 その横ではヴィクトル君とジゼルちゃんも口を開けていたので、小さなお口に小さい欠片を放り込んでみたよ。二人とも大丈夫らしい。ザックさんのお子さん二人には串のまま渡したら、こちらも気に入ったみたい。


 お子様たちとキレイどころが固まったこちらが和気あいあいとしている一方。

 兄たちの方は、ちょっと近寄りがたい感じになってます。……なんで、ちょっと目を離しただけであんなになってるんだろうか。

「あれはエルの差し入れもでかいな」

 呆れた顔で言ったのは、ミサキさん。

 エルさんの差し入れ、それは炭酸水。

 どうやらグラフィアスの山岳地帯にある街の近くに、一か所だけ沸いている場所があるらしい。一応、地元の人以外は利用できないようになってるらしく、エルさん、態々行って買ってきてくれたそうです。

 朝一で炭酸水を届けてもらった事でテンション爆上がりとなった兄、急遽、知り合いから大量にウィスキーを仕入れてきました。炭酸水=ハイボールになったらしい。

 で、兄の知り合いの皆様を中心に人生初だろうハイボールが振舞われたわけですよ。

「……近づきたくねーな、あそこ」

 ミサキさんがぼそっと呟いた。

 視線の先には、ガタイの良い男性陣。兄の知り合いだもん、近衛騎士の知り合いが中心になるよね。まあ、皆さんそれなりの地位も立場もあるだろうから大騒ぎしてるわけじゃないんだけど、見るからに皆さん上機嫌。食べるのも飲むのもスピードがハンパない。


 焼き鳥とハイボール、これ教えたらダメな組み合わせだったかも。


 エールよりハイボールが圧倒的に人気です、あちらの集団。そして、もれなく巻き込まれてる兄が絡まれまくって逃げ出せずにいますね……これ、唐揚げとか枝豆とか教えたらもっとダメになりそうな気が。

 あ、お子様たちは程よくお腹が膨れたところで室内へ移動させましたよ。今は室内でミサキさんお手製のデザート食べてニコニコしてます。ついでにジュースに炭酸を少し入れたのをお試しで出してあげたら、お口の中がぱちぱちすると目を丸くしてました。すぐにお代わりを要求されたけどね。気に入ったようで何よりです。

「ハイボールって、こっちだとなかったんですかね?」


「炭酸水が手に入らんからな。人工的に作り出す技術はこの世界にはないし、天然の炭酸水が湧き出る場所なんざ、片手で数えるほどだ」

「なるほど……」

 それじゃあ、出回らないのは仕方ない。

 そうそう、なんでミサキさんはお子様達と一緒にいるのかなーと不思議に思ってたら、お酒飲めないんだそうです。ものすごく意外だった。

 エルさんはザックさんとそのお友だちっぽい人に捕まってるね。随分と話がはずんでいるようだけど、何の話をしているんだろうか。最近になって気付いたんだけど、何となくエルさんとザックさんって、雰囲気が似ている事がある気がするんだよ。ザックさん、普段は兄の扱いが雑ではあるけど人畜無害な感じしかしなくて……なんでエルさんと似てるなんて思ったんだろーか、私。ちょっと怖い気がしてきた。


 取り敢えず、今日は都合が合わなかった方たちは、日を改めてお招きしようかと考えているので、そちらの準備も考えておかないと。

 また、今日と同じような感じになるのかなぁと、ちょっと怖い気がしたけれど。

 まあ、皆さん楽しそうだからいいかと、そう思えた。







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