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供養タイム 『転生、悪役令嬢』

『ep.6 エイプリルフール』で言ってた、他のサイトに投稿してたけど、消した話。はーじまーるよー。

元作品『ep.167 弱気』で半分救い上げることができたから、まだマシな方かな。

 たまに、あの噴水の音を思い出すことがある。

 私の世界がひっくり返ったあの日のことを、今は少しだけ落ち着いて振り返ることができるようになった。


 ◆


 真っ白な部屋も何もなかった。

 気付いたら噴水の縁に腰掛けていて、行き交う人々の装いや、街の景色は見たこともないようなものだった。


 ——異世界転生


 そんな言葉が頭を過った。

 教室で男子たちが話していたような、特別な能力も何もないようだった。

 とりあえず街をうろうろしてみて、なぜか日本語で話せることがわかり、それだけは救いだった。


 ひときわ目立つ水道橋が縦断する街で、内側にすり鉢状に根を張る外壁がぐるりと囲う。

 ずんぐりとしたトカゲのような馬に牽かれる馬車の群れを追い、外壁の中にある巨大な穀物畑を横切る。

 ちょうど、水の流れを遡る方向に進んでいた。

 水道橋は、外壁の中腹から飛び出していて、外側から水が引かれているのだろうと思った。

 外壁を高台から見下ろすと、まるで水道橋に合わせて傾く巨大な指輪のようだった。


 外壁の内部で予想が裏切られる。

 巨大な結晶が浮いている間があり、そこから大量の水が流れ出ていたのだ。


 ——帰れない


 そんな確信に、水の結晶と共鳴するように涙した。


 ◆


 外壁を出ると、リオナと名乗る専属の侍女だという少女に出会った。


「例の首飾りをお見せくださいませ。ほら、硬貨……のような。いつも胸元に下げておられるでしょう?」


 そう言われて二枚合わせの硬貨のような首飾りを見せると、にっこりと笑って豪華な屋敷に案内された。


 ◆


 翌日、外壁の外側に連れて行ってもらった。

 門のすぐ外側は、活気のある宿場通りが広がっていた。

 さらに離れると農業や畜産を営むような集落になっており、初めて獣人を見掛けたのもそこだった。

 そのときは、もふもふさせてくれるようなケモミミに出会えるかもしれないなんて、呑気に思っていた。

 しかしそこで、犬や猫の死骸が放置されているのを見付けてしまった。

 よく見ると、お腹には刃物による傷。

 明らかに人間の手で殺されていることがわかった。


 ——許せない


 怒りがこみ上げる。

 領主の娘であることを教えられていた私は、馴染みのない父親、エレガン辺境伯の元に怒鳴り込んだ。

 執務室には、翌日に母親だとわかった筋骨隆々の女性、ドーラがおり、その同伴者として、ネロとオクパトスという二人の役人がいた。

 怒りに任せた私の希望は、『鳥獣憐みの令』というルールになって、この辺境伯領にて発布されることとなった。


 ◆


 鳥獣憐みの令の発令に合わせて、私の名、リルを冠した孤児院が建てられた。

 私は適応保護法という福祉法に則り、冷ややかな目を浴びながらも、奴隷制度の闇とも言える孤児たちを、積極的に見付けては収容していった。


 紆余曲折を経て、鳥獣憐みの令は適用範囲を広げていった。

 発令当初を犬猫期とし、害獣期、家畜期、獣人期と呼ばれるようになり、私の気付かないところで悪法と呼ばれるようになっていった。


 同時に、鳥獣憐みの令と孤児院の旗標として、私は王国の聖女などと呼ばれるようになっていった。

 この聖女という役割が、私を悪役にしていったのだった。


 ◆


 食事の際に、聞きなれない挨拶を唱えるようになったリル。

「いただきます。」「ご馳走様。」

 両手を合わせて祈る姿から、聖女と呼ばれるようになっていったのだと思う。


 ここから先は、わたしが語る番。

 イシュの民である私、リオナの少しだけ長い昔話。


 ◆


 私は、イシュの民と呼ばれる獣人であり、かつてこの世界に数多く存在した魔物と、魔法を操っていた時代の人間との間に生まれた種族だった。

 やがて、世界から魔物と魔法は姿を消していったが、イシュの民の血には人間との間に子を儲けることができるようになる「願いの魔法」と呼ばれる魔法が残った。

 願いの魔法は、同時にイシュの民の怒りや憎しみという感情を抑制していた。


 私は、先祖返りで魔物のような外見的特徴がひとつもなかった。


 ◆


 私は外壁の街の外縁の森で、イシュの民の両親から生まれた。

 イシュの民の血は、外壁の内部にある水結晶に惹かれるようで、それは私も例外ではなかった。

 外壁の内部に侵入した私は、水源の間で理由もなく涙した。

 その後、黄金の穀倉地と呼ばれる場所で酷使されるイシュの民を見てしまい、生まれて初めて怒りを覚えた。


 私は、例外種と呼ばれる、願いの魔法が宿らずに生まれたイシュの民だったのだ。


 その感情の意味がわからず、ただ怖くなって噴水の縁で泣いていた私に声を掛けたのが、リルだった。

 もらった小さな飴玉を見せて両親にその日の出来事を話すと、ハピィという鳥の獣人の案内で、かつてイシュの民が行きついた楽園、ガン・イシュへと向かうことになった。


 ◆


 ガン・イシュは、人間が簡単には来ることが出来ない秘境だった。

 気性の穏やかなイシュの民が数多く暮らしており、譲り合いの喧嘩などという光景も見られた。

 私はそこで、ラヴィという名の兎の獣人とぶつかった。

 ラヴィは兎の獣人だった。

 私と同じ例外種であり、私との衝突で初めて怒りの感情を覚えたようだった。


「イシュ」それは原初の魔物

 愛を育み願いを唱える

「イシュの民」よ「人であれ」

 彼の地に向けて夜明けを祈ろう


 ハピィに歌を教わった。

 ラヴィと一緒に怒りについて考えた。


 私は、リルの元で願いの魔法を見付けるという夢を追い掛け、ガン・イシュから旅立った。

 ラヴィは世界を回ると言って、途中まで一緒だった。


「じゃあな、例外。」

「ええまたね、例外。」


 そう言って別れて、私は生まれ故郷に戻った。


 ◆


 幸先よくリルと再会することができた。

 リルはレンとカイという男二人に詰め寄られており、そこに割り込むようにして自分のことを話した。

 そのときの成り行きでできたものが、銀貨と金貨を合わせて叩き延ばした硬貨だった。


「ねえ、リオナ。それ、記念に貰うことってできるかしら?」

 それからいろいろあって、私はお嬢様専属の侍女として屋敷に迎えられたのだった。


 ◆


 リルに仕えるようになってから、子どもじみた夢は砕かれて行った。

 はじめは敬語なんて使っていなかったのに、私はリルから距離をとるために敬語を使うようになっていった。

 リルが、イシュの民をどう思っているのかわからなかったから。

 他の人間たちと同様の、選民思想を持っていると思ってしまったから。


「そう、仕方ないわね。」


 敬語に逃げたときのリルの悲しそうな顔を今でも覚えている。


 リルの様子が変わったとき、はっきりと敬語を拒絶された。

 イシュの民を初めて見た変貌後のリルは、なんであの良さがわからないのかと、本気で私に苦言を呈した。

 だけど、リルに付いて人間の講義を聴講した日、まるで忌むべき存在のように語られたイシュの民。

 気性が穏やかなイシュの民を都合よく利用し、当然のように奴隷として扱う人間たち。


 私はガン・イシュを思い出し、ハピィに練習させられた歌を歌った。

 リルは私に合わせて歌ってくれた。

 思わず私は、イシュの民であることを打ち明けた。


 私を基準にイシュの民を認識したリルは、イシュの民と獣人とを結び付けるまでに、時間が掛かることになってしまった。


 ◆


 こうして振り返ってみると、あの日の噴水も、水結晶も、飴玉も、二枚合わせの硬貨も、全部ひとつながりなのだと分かる。

 もちろん、祈りの歌も。

 聖女と呼ばれ、悪役となり、それでも笑っているリルのそばで、私だけの願いの魔法を見守りつづけるだろう。

某サイトにて、ep.1-30を省略するという試みをしたんだよね。

なぜかって?

継続して読まれるかは最初の3話で決まるとかなんとか。

まあ、コンテストに応募してみようと思ったり。


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