愛してる
ざまあ回でごわす…
「フッッ!!シィッッ!!」
槍を振るい、突き、貫く。
虚空に強者を思い浮かべながら、ただひたすらに。
俺はルシオラ、戦士だ。
アーラ王国って国がつい最近建国され
周辺の公国だとか小国だとかが小競り合いだったり
略奪だったりと色々な理由で戦争している。
「俺たちの村にも
よく分からん野盗だとかモンスターだとか
穏やかじゃない連中が頻繁に襲撃してくるから
村の戦士たちが何人いても足りん…フッ!!」
別に誰か話している相手がいるわけではない。
身体は動いているのに
口だけが動いていないという状況が
何となく気持ち悪いから1人で喋っているだけだ。
それからも喋りながら
動けなくなるまで槍を繰り続けていると
いつの間にか星々が輝く時間になってしまっていた。
「今日は見張り番ではないとはいえ、
こんな物騒な時勢に
村の外に留まるのはよろしくないな」
だが、汗で全身を濡らしたまま戻るのも不潔だ。
そう考えいつも使っている
滝のある小さな湖に来ると…
「ん?あれは…人間の女か」
滝から落ちて来たのか
足元までありそうな程の白く長い髪の女。
近づいて見てみるとかなり幼い顔立ちをしている。
「斯様な少女が何故こんなところに…!」
少女は俺の声で目覚めたのか
深い海の水のような蒼色の瞳で
此方を見つめながら俺の手を掴んだ。
「に…げて…」
そういって再び意識を失う少女。
少女の装いを確認すると
巨大な爪で引っ掛かれたような傷が
いくつもローブに穴をあけ、
少女自身の身体にも
大小様々な擦り傷が無数にあった。
「白い髪に蒼色の瞳…間違いない」
この少女は穢れた血筋の者だ。
「穢れた血を持つ者のあるところ厄災あり…か」
先程の少女の台詞と合わせて考えると
やはり何かに追われて
逃げて来たというのが答えだろう。
「関わり合いになるべきではないし
まして、村に連れ帰るなんて真似は出来ない」
穢れた血筋の者…
はるか古に栄えた国の王族の末裔達。
あらゆる魔法を自在に操り逆らう者の遍くを屠り去り
大陸全てを支配したという伝説の存在。
強大な力を持った彼らと関りを持てば
必ず何かしらの諍いが起きるという。
何より迷信深い俺たちの村にこの少女を連れて行けば
火炙りだとか顔の皮を剥いでから野ざらしにするとか
不必要に苦痛を与える事になってしまうだろう。
「君の助言通り
このまま逃げる事にするよ…」
俺は身体と槍を手早く清めて
せっせと少女を置いて村へと引き返した。
「…俺はどうしようもない馬鹿だ…」
村で毛布と清家な布といくつか食材を手に入れると
その足で少女を回収して
モンスターも人気もない洞窟で
疫病神と呼ばれる少女を看病してしまっている。
今日ばかりは独り身のフットワークの軽さに感謝した。
少女の濡れた衣服
(と言っても最早ボロ切れだったが)を脱がせ
焚火を起こして熱湯で温めた布で
少女の絹のような肌を拭いていく。
「顔は幼いが随分とイイ身体をしているな…」
背が低いのも相まって童女かと思っていたが
その一糸纏わぬ肉体は立派な大人の女性だと
声高に見るものに訴えて来る。
「しかし…思ったよりも怪我が酷いな」
彼女の小さな身体についた傷は
どれもが大きく抉られていた。
まるでドラゴンにでも襲われた様だが
アレが1人の人間を狙い撃つ事はないはずだ。
「だが、この者は特異な出自を持っている…
その程度わけもないか」
万が一ドラゴンなどと対峙しようものなら
こんな女は置いて逃げる他選択肢はない。
ナトゥラ族に代々伝わる言葉がある。
「『戦士たる者、竜を見らば疾く逃げよ』…とな」
「ン…あれ、ここは…?」
「気が付いたか」
女が蒼色の眼差しで俺を見つめる。
タンザナイトという綺麗な石に似た
色合いの美しい瞳。
「どうして…逃げずに私を…?」
「そんなもの決まっているだろ?」
戦士は弱者に対して情けを掛けるものだ。
それ以上でも以下でもない…はずなんだ。
不思議そうな表情の女は
自らが俺にひん剝かれているのを認めると
頬を赤らめながら細めた瞳で俺を見つめた。
「そうですよね…対価なしにこんな事…」
「いや、ただ偶ぜ」
「その、私こういう事初めてだから…」
「君は誤か」
「出来るだけ優しくして下さいね…
こんな穢れた血の娘で良ければ…」
俺に身を委ねる煽情的な女に
俺は冷静を保ちながら応えた。
「ただ俺が助けたかっただけだ!!
そうゆうのではない!!」
「でも、その、鼻血が…」
顎の下まで滴る鮮血を感じながら
それでも俺は白を切った。
「俺は、ほら…デカいのが好みだから」
「…私も結構…その、デカいと思いますけど?」
「…」
大きさを確かめるように
自身の手でデカいのを揉む女。
そこから先の記憶はない…
無いという事にしておいてくれ。
意識が戻るとキスマークだらけの女と
見つめ合っていた。
「…何だか、気恥ずかしいですね…」
「あ、あぁ…」
完全にやっちまった。
距離を置くどころかこうして
裸で抱き合って暖を取るほどの仲になってしまった。
「レガリアナ…」
「名前?」
「はい」
「レガリアナ、ルシオラだ」
「ルシオラ…素敵なお名前ですね」
距離が近いせいか
レガリアナの笑顔がとても眩しく見える。
そのままはにかんで続けるレガリアナ。
「その…初めてがルシオラでよかったです…♪」
「…」
「あら、また鼻血が…」
「気にしないでくれ」
この人といると戦士としての俺が
丸くなるというか、弱くなっている気がする。
「ルシオラは、魔槍の戦士達の村のものですよね?」
一転して真剣な表情で問うてくるレガリアナ。
「そうだ」
「あの村の周りには悪い気が流れ込むような
地形や龍脈があります。
最近村の周りをならず者がうろついたり
執拗にモンスターが襲って来たりしていませんか?」
「…確かにそうだ。
それがどうかしたのか??」
部外者であるレガリアナが俺たちの村の事に
首を突っ込む必要はない。
こうして怪我をゆっくり治せる環境にいるのだから
大人しくしておく方が彼女にとって得策な筈だ。
「少しだけ龍脈に干渉して
魔除の効果のある結界を張りたいのです。
勿論、ルシオラさえ良ければ…ですが」
「…理由が知りたい」
「だって、貴方みたいな暖かい人がいる村に
悪い事なんて起こって欲しくないから!!
…ごめんなさい、少し声が大きかったですよね…」
今までのか細い声から想像できなかった
声量の叫びに思わず身が固まってしまった。
「…たとえ君が善意で施そうとしていても
きっと俺の村の連中は君の事を…蔑ろにするぞ?」
出来ればそうなっては欲しくない。
惚れた女性が傷つくのも
それを家族同然の者達がしているのを見るのも。
「分かっています…だから
今からこっそりと実行しに行きましょう、ルシオラ」
起き上がって真っ直ぐな視線で
俺を捉えるレガリアナの姿は
蒼白い月光に照らされてとても美しかった。
「…分かった、行こう!」
そうしてレガリアナが
村人に内緒で施した結界のおかげで
俺たちは拡大する戦果にも巻き込まれず
モンスターに襲われる機会もめっきり減った。
あれから1年、
レガリアナの存在を知っているのは俺だけで
彼女は普段はあの洞窟で龍脈に関する調査をしている。
出来れば身重の彼女を村で手厚く持て成してやりたいが
戦火に紛れて穢れた血の者達が
虐殺を行っているという噂が流れて来た。
その噂のせいもあって益々レガリアナを
村に招くのは不可能になっていた。
平和を齎した張本人が暗い洞窟で日夜孤独に過ごしていて
それをどうにも出来ない自身の無力さに苛立ちが募る。
更に暫くして、レガリアナと俺の子は
洞窟で元気に生まれた。
「アナ!!男の子だ!!
あぁ、よしよし!!
…ほら、お母さんだぞ」
赤子を抱かせてやると
大粒の涙を流しながら
愛おしそうに赤子を撫ぜるレガリアナ。
「本当に…私の赤ちゃんが…
誰とも結ばれないって思ってたのに…
ありがとう、ルシオラ…!」
生涯孤独である事を覚悟していた
彼女の胸の内を初めて聞いて
思わず俺も涙を流してしまった。
「バカっ!!
俺と、この子はお前の家族だろ!?
誰が独りぼっちにさせておいてやるものか!!
嫌だと泣きつかれても
絶対にお前を離さないからな!!」
レガリアナと元気に泣く赤子を抱き締めて
胸の内の全部を吐き出してやった。
「うん…ルシオラ…うん…」
それからの1週間だけは、俺の人生の春だった。
愛する女性と愛しい我が子が居て
3人で飯食って下らない話して
それで寒い洞窟の中で抱き合って寝て…
間違いなく俺の人生のハイライトだった。
戦に明け暮れ、家族の為と
誰かの父親や兄弟、恋人を何人も手に掛けた。
家族を守る為に鍛え上げた槍で。
こんな血に塗れた俺が
誰かと結ばれるなんて夢物語だと思っていた。
だが、夢は永くは続かなかった。
「アナ〜??…置き手紙?」
我が子が生まれて1週間後
レガリアナは子供と俺を置いて
どこかへ消えてしまった。
『愛しい家族へ
アイツが近づいて来てる。
ごめんなさい
どうか貴方達に魔の祝福がありますように
レガリアナ 』
「そんな…いや!まだだ…
よしよし!たまにはお父さんの抱っこも良いだろ?」
俺は全速力で洞窟から村まで駆け抜けて
ナトゥラの族長を務める親父に赤子を預けた。
親父は赤子を抱くとポツンと。
「そうか…お前とアノ娘の子どもか…
よしよし」
「親父…この子を頼む」
俺は人生で初めて親父に頭を下げた。
すると親父は穏やかな顔で応えた。
「任せておけ。
それより、お前は早くアノ娘のところへ」
「行ってくる!!」
直感のままに山々を駆け抜ける。
ただレガリアナがいると感じた方へガムシャラに。
「レガリアナーーッ!!
どこだ、レガリアナーー!!」
叫んでも飛んでくるのは凶悪なモンスターばかり。
「邪魔だああああああ!!」
魔力全開で光の刃を生成し
全力で俺以外の周りの全てを薙ぎ払った。
木々もモンスター達も真っ二つになり
辺り一帯に土煙と血の雨が降り注ぐ。
山を右往左往し
邪魔するモノ全てを薙ぎ払って
進んでいると頭上を大きな影が横切った。
見上げると
巨大な翼の生えた4足の竜が
何かを追うように空を駆けていた。
「ドラゴン…!!」
俺は奴がレガリアナを狙っていると確信し
奴の後を追う。
ドラゴンが現れてから
他のモンスター達が邪魔をしてくる事はなくなった。
当然か、絶対的暴力の象徴が
自分の真上を飛んでいるのだから。
奴の気まぐれ次第で
山1個吹っ飛ぶくらい平気である。
だがそれが僥倖となり
開けた盆地へと飛び出た。
真っ先に視界に飛び込んできたのは
巨大な火焔の塊に灼かれようとするレガリアナの姿。
ドラゴンのブレスが
彼女へと向かって放たれたのだ。
家族に向かって城くらいはありそうな
火の塊が向かっているのを見て
俺の中の何かが切れた。
「アアア…アアアアアアアアアアアッッッ!!」
俺はレガリアナの前に躍り出ると
魔槍がぶっ壊れる程のパワーで槍を握り
槍が砕け散る程の出力で氷結魔法の一撃を放った。
「 《青魔法 ・ 氷堰砕》 !!!!」
城塞を落とす為の魔法によって
火焔は消え去り、余波でドラゴンは
翼が凍りつき盆地へと落ちて来た。
「凄いっ…!!
…じゃなくて、ルシオラが何でここに!?」
「…ッハァ、言っただろ?
嫌だと泣きつかれても離さないと」
「…バカ」
口角を緩ませながら
大粒の涙を零すレガリアナ。
いい感じになっている俺たちを
起き上がった異形のドラゴンが見下ろす。
目線が合い、恐怖が全身を強張らせる。
「…バ、バケモノ…!?」
「ルシオラ、気をしっかり持って!!」
レガリアナの声で守るべきものを思い出し
全身の硬直が解けた。
『——しかして見よ、あえかなる異形の覇者を。』
幼い少年少女達なら誰もが聞いて口ずさむ唄。
4つの眼を血走らせ山の巨躯で以て空を駆り
地獄の炎の雨を齎す、絶対支配者。
こんな存在がいるなど、間違っている。
人の身では手を伸ばしても星に手が届くことは無い様に
ドラゴンと戦うなんていうのは夢物語だ。
しかし背後の愛する人の顔を見る。
そうだよな、小さな彼女が立ち向かう覚悟をしているのに
戦士の俺が逃げるわけにはいかないよな…
「ルシオラ!!」
「レガリアナ!!」
せめてこのバケモノに痛ましい傷でも残してやれば
レガリアナを狙わなくなるかもしれない。
レガリアナに強化魔法を掛けられ
俺は魔槍をドラゴンへと突き立てた——
——あれからどれほど時間が経ったのだろう?
「ルシオラ!?」
「あぁ…なんだい、レガリアナ…」
「ギィアァアアアアァアアア!!!」
相打ち…とまではいかなかったが
あのバケモノの左目を2つとも潰してやった。
それも顔面の左側に大きな傷までつけて。
「…ざまあみろ、ハハハ…」
「大丈夫だから!!
絶対に貴方を死なせたりしないんだから!!」
見ろよ、バケモノ。
俺はお前を相手どって
レガリアナに傷1つ付けさせなかった。
俺に最後まで怨嗟たっぷりの表情を向けたドラゴンは
悔しそうに山を飛び去っていった。
俺の最愛の家族を狙うからだ、馬鹿め…
「そんなに…泣かないで、アナ」
「うん…うん…大丈夫だから…」
身体には穴ぼこが何個も空いてるし
右腕もバケモノの攻撃で
何処かへ飛んで行ってしまった。
「生ける伝説を相手にこの程度で済んだんだ…
戦士は引退しないとだが…」
そもそも村の掟を破ってしまっている。
「穢れた血の者と関わってはいけない」という掟に。
もう俺は村には帰る事が出来ない。
「でも良いか…俺と君の子は皆が育ててくれるし…
ちょっとだけ寂しい想いをさせちゃうかな…」
「ルシオラ…」
「アナ、ごめん。
君もきっとあの子にはもう会えない」
「うん…大丈夫…
貴方がいた村の人達ならきっと良くしてくれる…!」
随分と軽くなってしまった俺を担いで
レガリアナは歩き始めた。
空からはドラゴンの傷から零れてきた
魔力の残滓が光の粒となって山全体に降り注いでいる。
目線を左下に持っていくと
レガリアナの綺麗な顔がある。
「レガリアナ…愛してる」
俺の弱弱しい声を聞いて
泣きながらも笑顔を見せてくれるレガリアナ。
「うん…私も愛してるよ、ルシオラ…!」
————————
「やあ、こんにちは」
また何処か知らない場所にいる貴方。
カモメかウミネコか分からないが
何か水鳥が鳴いている。
海が近いのだろうか?
「もしかしたら”君”にはこんばんは、かもしれないし
おはよう、が適切なのかもしれないね?
全部を考慮すると『おはこんばんにちは』?
うーん、でもそれは違う気がするなー」
デジャヴを感じる貴方。
ふと風が吹き貴方の鼻腔に
潮の臭いが吹き抜けていく。
目を開くと、眼下には町とその先に海洋が広がっていた。
ここは山か丘の上のレストランだろうか?
テラス席で頭上にはパラソルが展開しており
強い日差しから貴方とチェシャを守ってくれている。
正面にいるパスタを食べるチェシャの装いは
前回前々回同様に何処かの学校のブレザーだ。
「評価+10pt、ブックマーク+0ptで
私達の…おっと、私の負けだ。
どうやら作者の方が1枚上手だったらしい」
思い出して来た…!
確かゲームをやっていたのだ。
高評価か、ブックマークかを選んで入れるゲーム。
「まだまだ私への好奇心が足らないみたいだね
”君”には?
…はい、あーん♪」
そういって貴方の口に
カルボナーラを捩じ込むチェシャ。
少し怒っているのだろうか?
…美味しい。
「昨日は負けたが
別にゲームは一回こっきりじゃあない!
じゃんじゃんやっていこう。
最終的に私が勝てば良いのだから…」
そしてまた意識が沈み出してくる貴方。
いつもより早い気がするが…?
「作品が面白いと思ったら高評価に、
私に会いたい、私の事が知りたいと思ったのなら
ブックマークを押してくれ
それでは、またこんど!」




