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その悪役令嬢、天下無双の武神になりて。  作者: 卑下流
第二章:サレス、春の冒険祭り。
32/36

魔槍の戦士と穢れた血の少女




「200年ほど前、まだこの村が

 数名の農夫しかいなかった頃の事。

 

 アーラ王国とスラヴァ帝国の周辺で

 大小数多の戦争が起こっており

 亡命者や敗残兵などを見掛けるのも

 珍しくない時代のある日、


 傷だらけの戦士を抱えた

 美しい娘が駆け込んで来たのです。


 本来厄介事に巻き込まれたくなかった村人達は

 この手の手合いを追い出していたのですが


 娘がただ少しだけ安らかな時間が欲しいと

 あまりに健気に訴えて来た為に

 村人達は手を貸す事に決めました。


 とは言ったものの戦士の傷は

 息があるのも不思議な程酷いもので

 鎮痛作用のある薬草と温かい食事を用意して

 少女と戦士が2人きりで過ごせる様にする他

 村人達に出来ることは無かったようです。


 2人が訪れてから1週間程で

 戦士が亡くなりました。

 しかしとても穏やかな死であったと

 聞き及んでおります。


 村人達の好意に感謝した少女は

 こう言いました。


 『本当にありがとう。

  良ければ私とこの子を

  この地で眠らせて貰えないか?』


 戦士は分かるとして生きている少女が

 眠るという提案に村人達は困惑しました。

 少女は続けます。


 『私を媒介とした

  結界術を展開して

  この地に繁栄と魔除の結界を巡らせます。

  私は光の粒となって消えるでしょう』


 戦士と少女の深い愛と絆を目の当たりにした

 村人達は少女の提案を受け入れました。

 それを聞いて少女は更に続けます。


 『ありがとう。

  この結界は貴方達が

  私とこの子を忘れない限り

  繁栄を齎し続けるでしょう』


 具体的には戦士の使っていた魔槍を作り

 戦士の命日に家の前に突き立てる事。

 そして、これは結界の副作用らしいのですが

 誕生月以外で身を削ってはならない…

 つまり、髪や爪などを切ってはならないと。


 そして少女は光の粒となって消え

 少女からの言い付けを守り続けた

 村人達は何をやっても上手くいき

 金や名誉などが瞬く間に集まりました…」


語り終えたピラルクは

一口お茶を口に含んでから

絵画へと顔を向けた。


「では、あの絵の少女が…」


「はい、我々が祀っている穢れた血の少女です。

 名はレガリアナ、戦士の名は

 失伝してしまいましたが

 魔槍は戦士の魂であり誇りだったとか」


「それで少女の背後に魔槍が描かれたのか」


「本来、穢れた血筋の者と関わる事は不吉だと

 されていますからな…。


 名誉や矜持を重んじる戦士が

 その者らと関わるのは当時でも御法度だったかと」


禁断の恋だった、という事だ。


「あれ?もしかして…」


カリンバが何かに気付いたらしく

ピラルクの方を見やる。


「魔除の効果が消えかけているのですか?」


「御明察通り…おい、あれを」


長らく置物の様に沈黙していたロン毛の男が

懐から大きな巻物を取り出しテーブルの上に

広げてみせた。


この村や魔槍山脈一帯の地図らしく

赤と青のマルがいくつか印されていた。


「我々もレガリアナの結界について

 詳しくは把握していないのですが

 村の南端近くを大型のモンスターが

 徘徊しているという目撃情報があり、

 その付近の家畜にも被害が出ております」


「思ったよりも猶予はなさそうですね」


「はい、それから…

 魔槍山脈の頂上辺りで

 未知のドラゴンらしき生物を見たと

 子供たちからいくつか情報が」


ドラゴン、という単語を聞いたカリンバの顔色が

気のせいか少し曇った様に見えた。


「ドラゴン、ですか…それも未知の」


「えぇ、濃霧と因果関係があるのかは

 怪しいと思いますが

 此方は調査だけでもして頂ければと」


「…分かりました。

 後は、報酬の件ですが」


冒険者にとって一番重要なのは報酬だという。

どれほど依頼内容が危険な物であっても

報酬次第では引く手数多となるらしい。


「村の存続に関わる事ですから

 金貨4,000枚でどうでしょう??」


「金貨4,000!?」


金額を聞いたカリンバが思わず立ち上がった。

ドラゴン相手には不釣り合いなのか?


「小国の国家予算並じゃないっすか!?」


思わず素の話し方になってしまっている。


「先祖代々から

 質素な生活を送っておりましたから

 どんなに稼げても我々には

 使い道がないのです」


「な、なるほど…

 そういう事でしたら」


「それで、支払いはどうしましょう?」


「まだ実態を解明出来たわけでも

 脅威を排除したわけでもありませんので

 報酬は後払いで頂きます」


「分かりました。

 村の者たちにも全面協力するよう

 伝えてありますので…


 この屋敷もご自由にお使いください」


そういって鍵の束を差し出すピラルク。


「どうか、レガリアナと戦士の魂が

 安らかに眠れるように

 何卒、よろしくお願いします。

 カリンバ殿、サレス殿」


「…はい、最善を尽くします!」


そういって固い握手を結ぶピラルクとカリンバ。


「では私は村の見回りをして参ります。

 何かありましたら、このロングにどうぞ」


「…」


コクっと頷くロン毛の男。

ロン毛のロング…大変覚えやすい。


「では我々も早速行動させて頂きますので

 これで失礼致します」


そして屋敷を出た俺とカリンバは

魔槍の村の南端へと来ていた。


辺りの住居は避難しているのか

人や動物の気配がない。


「サレスちゃん、さっきのお茶だけど」


「美味しかったな」


「そうじゃなくて、疑わずに飲んじゃダーメ。

 アタシやサレスちゃんみたいな面も身体も

 エロい娘は隙あらば

 奴隷商に売られちゃうんだからね?

 毒見なり鑑定なりしてから飲むように!」


「なるほど、先程は熱さを気にしていたのではなく

 毒物が入っていないか確認していたのか」


「そっ!

 この指輪はちょっとの毒物にも反応して

 模様が浮き出てくるのよ。


 サレスちゃんも

 魔道具は持ち歩いた方が良いよ?」


「何買ったら良いか分からな〜い♡

 買い物デートしよ〜??」


「…何その露骨なぶりっ子」


「いや、カリンなら

 こうやって男を籠絡するかなって」


「した事ないしする事もねーな…」


カリンバはぶりっ子かなと思っていたが

どうやら全然違うらしい。


「…まあデートは別に良いけど

 先にこの依頼を終わらせちゃおう!」


パンと手を叩いて仕切り直し

持ってきたスクロールを広げて

カリンバは転送の魔法を使った。


という事は誰かと連絡を取るらしい。


スクロールが俄に光り出し

相手と繋がったのか

カリンバは虚空へと話を始めた。


「もしもーし…そうそう…今から大丈夫?…

 なんと金貨500枚です!…マジだって…

 調査と排除だけど…そう結界の方を…

 りょーかい!…んじゃ…」


会話を終えたのか

スクロールは消費されて

指先ほどの小さな紙片になってしまった。


「サレスちゃん、アタシの後ろに」


言われた通りにカリンバの背後に回ると

俺のいた場所へポーチから取り出した板切れを

投げ、魔術書を開いて詠唱を始めた。


詠唱に共鳴して板切れが震えながら

三角錐状の光を型取り

何もない三角錐の中から

大量の板切れが溢れ出してきた。


板切れは旋回しながら周辺を覆い尽くし

やがて三角錐のあった場所へと戻っていった。


「…それで、この大天才ディーバちゃんは

 何処へ向かえば良いのかな、カリン?」


板切れが戻った場所には

1人の少女が立っていた。


少女は手元に戻って来た板切れを

シャッフルしながら此方へと近づいて来た。


大小のベルトが夥しく施されたローブに

魔女のようなつば広のとんがり帽子を被った少女は

初対面の俺を見るとローブをはためかせて

名乗り口上を盛大に上げた。


「私は大天才魔術師・ディーバちゃんである!」


そしてディーバちゃんは

背後から現れた禍々しい顔の

虎のようなモンスターに頭を食べられてしまった。


←To be continued…














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