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その悪役令嬢、天下無双の武神になりて。  作者: 卑下流
第二章:サレス、春の冒険祭り。
31/36

魔槍の村




王都郊外、魔槍山脈なる霊峰のその麓に佇む

人口300人にも満たぬ小さな村落。


「少し肌寒いな」


「魔槍山脈の一帯は何故か王国の中で

 唯一平均気温が5℃も低いからね。

 カバンにローブがあるから使って」


こういっては何だが

人里とは思えない程禍々しい場所だ。


濃霧に包まれ日中でありながら薄暗く

村のいたる所にノコギリの様に

返しの付いた棘がぎっしり並んだ槍が

突き立てられている。


村人達もどこか顔色が悪く

装いこそ貴族のように立派な服だが

爪や髪に髭などが手入れされておらず

不気味の一言に尽きる。


腐臭や人骨こそ見かけてはいないが

お香の様な不思議な香りが村全体に漂っている。


「面倒事とは良く言ったものだ」


「報酬の高いクエストを

 オールウェイズ選んでるだけよ」


「カリンも冒険者なのか?

 てっきり受付嬢か給仕係かと」


「そのとーり受付嬢なんだけどさー?

 詳しく依頼主(クライアント)について調べて

 次回以降受けるかどうかを実地調査すんのが

 ウチのギルドのやり方なの」


無鉄砲に高額だからと引き受けるわけではなく

それなりにはリスク管理しているらしく

何だか感心してしまった。


「真面目だな、カリンは」


「荒くれ共とは違って

 アタシは貰った分はキッチリやるだけ」


「そうか…」


「何ですぐアタシの乳を凝視すんのさ!?」


凄くビンタしやすいからです。


「怖い怖い…

 んじゃ、早いとこ依頼主探して

 どんな依頼か聞き出すよん、サレスちゃん」


「ん?

 その言い方だと

 まるで依頼内容が分からないように

 聞こえるのだが」


「そのとーり。

 まずはそっから!」


高額な報酬で会うまで伏される依頼内容。

マトモな仕事だと期待するのは無駄でしかない。


暫く怪しく光る

ランタンの道に沿って歩いていると

身嗜みのしっかりした老紳士が声を掛けてきた。


「よもや、貴女方が

 ギルドから遣わされた冒険者か?」


ようやく普通の人と出会えた筈なのに

マトモそうな人がこんなところにいるのが

かえって怪しく思えて来た。


そんな老紳士にカリンバは

柔らかい笑顔を浮かべて答える。


「はい、アロの冒険者ギルドから来た

 カリンバと、こちらサレスと申します。

 よろしくお願いします」 


「どうも」


「私が依頼を出したピラルクです。

 どうぞお見知り置きを…


 さて、早速ですが此方へ」


軽い握手と自己紹介をして

老紳士の家へと招かれた。


小さな屋敷へと辿り着き

ドアの向こうには

意外とすっきりとした空間が広がっていた。


「もっと胡散臭い水晶とか掛け軸とか

 ヤギの頭骨とか置いてあるのかと…」


「ホホホ、御客人方には良く言われます。

 無理もない事です」


結構オブラートに包まないで

随分な物言いをしてしまったが

ピラルクは軽く流してくれた。


御客人方によく言われるのなら

存外、外部の人間の出入りはあるらしい。


「ピラルクさん、どうしてこの村には

 あれほどに槍が設置されているのでしょう?」


「あぁ、魔槍の事ですな。

 あれは供物なのですよ、カリンバ殿」


「供物?」


「えぇ、村の名前にもなっているこの魔槍。

 これは我々が祀っている

 存在のシンボルと言いますか、

 象徴と言いますか。

 とても重要で身近な物なのです」


「祀っている存在というのは?」


「…」


暫く屋敷の中を歩いていると

とある一室のドアを開き

中に入る様に促された。


「今回の依頼にも関わる事ですので

 まずはお掛けください。

 お茶の用意をして参ります」


「お構いなく…あらら、行っちゃった」


「ここだけは来賓の佇まいだな」


先程の廊下やロビーには装飾品の類はなく

花の1つも見当たらなかったが、

この部屋だけはラモラの屋敷にも負けず劣らずな

豪華絢爛さを宿していた。


「供物だと言っていたが…

 当然ここにもあるか」


壁には外に夥しく聳えていたのと同じ

痛々しい魔槍が飾られていた。


「何なんだろーね、供物って?

 てか、そーいうのって大体食べ物じゃない?」


「確かに…果物とかパンとか生花辺りか」


供物は信仰対象に対する贈物だと聞いた気がする。

棘の生えた槍を贈るのは祀られた存在の異質さを

示唆しているように思えてならない。


「この女の子…娘さんとか?」


槍の隣には3mを超える

大きな肖像画が掛けられている。


地面を引き摺るほど白く長い髪に

海の深くの様な蒼い瞳。


子どもと大人の間と云った年頃の少女。

その背後にはあの槍が寄り添う様に描かれている。


「槍と少女…」


「お待たせしました。

 粗茶ですが身体が温まる物を用意しました」


「…本当だ、何だか懐かしい味だ」


カリンも指輪を何個も付けた手で

熱さを確認してからか飲んでいた。


「美味しいです、ピラルクさん」


ピラルクの後ろからもう1人ロン毛の男が現れ

全員が席に座ると話し合いが始まった。


「では、先ずは依頼からですな。

 来ていただいてすぐに霧を見たと思うのですが

 あれの発生源の調査・排除をお願いしたい」


「あの霧はこの地方特有の気候ではないのか?」


「えぇ、時折濃霧が2日3日

 局所的に立ち込める事はあるのですが

 何ヶ月も魔槍山脈一帯を覆う事は

 観測上も経験上もございません」


「モンスターや動物などの

 生態系に変化はありましたか?」


「えぇ、濃霧に覆われる前にはいた小動物が

 見当たらなくなり大型のモンスターが

 跋扈するようになってしまいました」


「原因になんとなくアタリはついたのですが…」


カリンバは顎に手をやりながら

考え込んでいる。


「ほ、本当ですか!?なら…」


「いえ、まだ憶測でしかありませんし

 他の現象と重なり合っている可能性もあります。

 魔力を帯びた鉱物などの採掘は

 行われていますか??」


先走るピラルクを制して

カリンバは冷静に質問を続けた。


「いいえ、我々が祀っている存在の事もあって

 魔槍山脈一帯での採掘は禁止していますし

 そもそも有用な鉱物資源は発見されていません」


「なるほど…」


「どうでしょう?!

 依頼を受けて頂けますでしょうか?」


脂汗を垂らし、老人とは思えぬ声量で

尋ねるピラルクにカリンバは微笑んだ。


「はい、是非やらせて下さい」


「おぉ、貴女方は正しく救世主だ!!」


「なのでピラルクさん達の祀っている

 存在について教えて頂けませんか?」


頑なに仔細を話さないその存在について触れると

暫くの沈黙の後、静かに教えてくれた。


「『穢れた血筋』の者達をご存知で?」


穢れた血筋…デクスとシニスが

そんな事を言っていたな。


「私達も詳しくは…」


「それもそうでしょう。

 何せ彼らは何百年も前に滅んだ王族の

 末裔ですからな…


 その末裔の少女と

 魔槍の戦士が出会ったところから

 全てが始まったのです」


老紳士は静かに語り出した。







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