冒険者の宴
「ほーう、サレス君は
あのサレスなのだな!!
噂とは真逆の人間過ぎてビックリしたぜ」
「良いかサレス!!
次はぜってぇに俺が勝つ!!」
かなり酔いの回ったアマゾネス改めドミナと
ずっと笑っているヴェクターに囲まれて
話半分に聞きながらチビチビと酒を飲む。
「マージで飲み過ぎだろ、荒くれども…」
丁度ジョッキが空になったタイミングで
背後をカリンバが通った。
「カリン、ビール特大3つ追加だ」
「またサレスちゃんとこ追加かよ!!
まじでペース早すぎだって!?」
忙しく食器を下げては
新たなに料理の盛られた皿をもって
カウンターと会場を往復するカリンバ。
普段からやつれて見えるらしい彼女だが
今日はなおさら悪化している様に見えた。
「なぁ、おい」
「んだよぉ~??
そんな気まずそうな顔しやがってよぉ」
「姐さんと叔父貴のテーブル、見ろよ」
「あぁ、お嬢様がチビチビと呑んでんな。
別に珍しくもねぇだろ」
「そうじゃねんだよ!!
あのお嬢ちゃん、二人と同じペースで吞んでんのに
ぜんっぜん酔ってねぇんだよ!!」
「んなわけねぇ~って!!
もう20Lくらい飲んでるんだぜ、あの2人。
カリンバ、ビール大2つ追加だ」
「またかよー、お前らあああああ!!」
金髪碧眼と清楚そうな見た目をしていながら
胸元を大きく開け派手な白のピアスを
沢山右耳にだけ飾ってるカリンバは
まさしく不良メイドと言った雰囲気だが、
反比例するように仕事に対しては
真面目に取り組んでいる。
「なんでカリンバは1人で頑張っているんだ?」
手が足りているようには見えない。
「俺らを怖がってここで働こうなんて
玉の付いた奴ぁ、そういないのさ!!
次は俺が勝つッッ!!
…ッ…ッ…ッ…ッハァ!!」
酔って敵意剥き出しのまま
一気飲みするドミナが俺の疑問を解消してくれた。
腕相撲の件は相当応えているらしい。
「サレス君は駆け出しという扱いだが
ドミナを打ち負かした実績もある事だし
Eランク最難関のクエストを紹介するよう
カリンに伝えておこう。
ガッハハハハハ!!」
「それは助かる。
しかし、良いのか??
私だけ贔屓して貰って」
「なぁに!!心配しなくていい
ギルドマスターの俺が許可したんだ!
誰にも文句は言えねえし、言わせねえさ!!
…ゴクッ…ガッハァ!!
カリン、ビール!!」
どうやらこの渋いマッチョが
アロのギルドの主人らしかった。
「…どこかで会ったか、ヴェクター?」
「いや、初対面だぜ」
「そうだよな…でも何処かで…」
モヤっとするが、嘘をつくタイプの男には見えない。
ただのデジャヴか?
周りが腹踊りしたりナイフでジャグリングしたりと
好き放題騒いでいるのを横目で見ていると
突然ドミナが隣に座って肩を組んで来た。
何だか酒臭さに混ざって香草の香りがふわりとした。
「良いかい~??
勝負ってのはいつだって一本勝負なんだ」
「私もそう思うよ」
「つまり!今!アンタと俺は0勝1敗なわけだ!!」
「そうだな」
「何が言いたいか分かるか~~?」
全然分からない。
「次は勝つ!って事さ!!」
空いている方の手で天を衝くドミナ。
「分かった、ドミナ。
いつでも君の挑戦を待ってるよ」
「首を洗って待ってな、サレス!」
了承してやると無邪気に笑ったドミナは
他の漢達に呼ばれて別のテーブルへと歩いていった。
ヴェクターもギルドの真ん中で
筋肉自慢?なのかブーメランパンツ一丁で
漢達と己が肉体を褒め合っている。
「想像以上だな、冒険者という存在は」
何となく愉快で風変りな連中だとは考えていたが
それ以上に楽しそうな連中で。
「珍しいよ、ここに馴染む若者ってのは」
「あ、詳おじ」
「くわおじ?」
瓶ビール片手に黄色い腹巻で
一本の頭髪すら消え去った不毛のオヤジは
合点しないと云った表情で?を浮かべている。
「詳しいオヤジだから、詳おじ」
「そうかい、まあ好きに呼んだらいい」
「それで、私が珍しいというのは?」
瓶ビールを煽ってから話を続ける詳おじ。
「アロみたいな訳アリギルドに来るってのもあるし、
そもそも魔法や武術を使える人間が
冒険者っていうのもな」
「そうなのか?」
「冒険者なんて基本厄介事を押し付けられる
損な役回りなのさ、好んでやるような仕事じゃない」
厄介事、か。
「具体的には?」
「…領地の騎士団が討伐出来なかった
賊やモンスターだったり
生理的嫌悪感を催す掃除とか
毒ガスの出てる地域での
単独の採掘・採集作業だな」
なるほど、便利屋としてこき使われているのか。
それも汚れ仕事を中心に。
「当然報酬も高額ではあるが殉職率は断トツだ。
俺の同期に先輩後輩は1人も残っちゃいねぇ」
「そうか、残念だな」
「気にすんな、よくある事だ。
まあだから冒険者なんて
基本飲んだくれててだらしねぇ輩ばかりなのさ」
明日をも知れぬ命。
生きている内にやりたい事をやっておかなければ
未練を残したまま死ぬ。
「特にここ、アロなんかは
他所が断った面倒事を率先して取って来てる。
報酬も高いが、当然死ぬ可能性もな」
「なるほど」
筋骨隆々で幾重もの傷を抱えた者ばかりなのは
そういう事らしかった。
「魔法が使えるならば魔法学校の教員に
武術が使えるならば道場の師範代に…
名誉も金払いも断トツだし、
何より死ぬような事はそうそう無い。
どうしてそっちの道を選ばなかった?」
真剣な眼差しで俺を見据える詳おじ。
「私が…俺が、正義の悪役令嬢だから」
此方も真剣であると眼差しで応える。
「…そうか」
詳おじの瞳に写る俺の左目は怪しく光を放っていた。
「ふっ、俺にもそれだけ
真っ直ぐな芯があったらな…」
「無いのか、芯?」
詳おじは瓶を置いて
囁くようなか細い声で話した。
「芯が無かった…だから色々な事に雑多に取り込んで
迷走していた。
選択肢が多いってのは
選ばないという選択を遠ざける。
どれかを選ばなきゃって
大事なもんが見えなくなる」
「…」
「お前さんは俺のようになるな。
大事なもんだけは絶対に見失うなよ、良いな?」
「あぁ、胸に刻んでおくよ」
それも聞いた詳おじは安心したのか
瓶を煽りながらギルドの外へと消えていった。
その後はヴェクターとも腕相撲したり
カリンバを手伝ったりビンタしたりしながら
楽しい夜を終えた。
「起きろー、サレスちゃん」
小鳥の囀りと
響き渡る漢達のいびきを聞きながら
瞼を上げると鎧や短剣に
大きなカバンを背負っている
カリンバが俺を覗き込んでいた。
「おはよう、カリン」
「おはよ!じゃなくて、早く準備して!
もう行くよ」
「行くって、どこに?」
「どこって、クエストに決まってるでしょ?」
「分かった、すぐ行こう」
飛び起きてカリンの荷物を奪って背負い
カリンをお姫様抱っこして駆け出す。
「ちょっ!?
サレスちゃんそんな恰好で行く気!?」
布面積を増やしたチャイナドレス状の
青いドレス姿の俺を見て驚愕するカリンバ。
「案ずるな!
クエストが始まったら鎧を纏うから」
「そんなもんドコにあんのさー!?」
そのままヴァルを指笛で呼び
アロの街道を下っていく。
「何処へ向かえば?」
「王都郊外の『魔槍の村』へ…
ってこの馬早すぎじゃん!?」
地図を見ながら日の出に照らされて
王都郊外へと初のクエストに胸を躍らせながら
向かっていった。
神は自身に似せて人を作り給うたと云いますが
畢竟、神はお嬢様だった…
という事でありましょうか??
冒険とかすっきゃねんというあんちゃんは
高評価・ブクマを是非!!




