魔法と魔術、そして乳ビンタ。
初回拡大SP?でちょいと長めに御座います。
「ガッハハハハハハハハ!!
やはり若いというのは良いな!!!」
(このマッチョ…
どこかで見た覚えがあるなんだよな)
冒険者となった俺、サレス・レディールは
どこか見覚えのある
酔っ払いのマッチョに絡まれていた。
————————数時間前————————
フローゼに散々叱られた翌日。
俺はヴァルに跨って
王都に隣接する街、アロへとやって来た。
「凄まじい数の人だ…!」
新宿駅前の通勤ラッシュ時のような人口密度
…とまではいかないが
それでもとてつもない数の人々が
街路を行き交っている。
通り過ぎる誰もが俺を
訝しそうな眼差しで見やる。
「うんうん、アウェイな空気を感じるな!」
これが歓迎や黄色い歓声に変われば
悪名を雪げたと云っても過言ではないだろう。
「まずは冒険者としての登録…
『ギルド』という奴に行けばいいんだったな」
ベンKから渡された地図とメモ書きを見ながら
賑わう街の中を探索している。
海風を感じながら海岸沿いの通りを歩いていると
何だか懐かしく香ばしい香りが漂って来た。
「『 キ ヤ コ タ』…たこ焼きか!!」
屋台というか出店というか
立派なテントというのが適格か。
幟だけ異様に和風なのがアンバランスだ。
「らっしゃい!…!?
お前、魔女か!?」
きさくな挨拶をして来たかと思うと
俺の顔を見て驚愕する屋台のオヤジ。
答える間もなく追い返してくる。
「しっし!!
手前ぇみたいなバケモンがいると
商売になりゃしねぇ!!
あっち行けや、魔女が!!」
「一人でこの量のタコ焼きを捌けるのか?
多すぎるんじゃないか?」
「…はぁ!?
テメェ…オイラの腕を疑ってんのか??」
普通のタコ焼き屋の三倍くらい
プレートがデカいのだ。
正直四人で同時に捌くような量に見える。
「あぁ、疑っている。
見栄を張っているだけなのかと!」
「~~!!
ふん、なら目ん玉かっぽじって
ご覧じやがれぇい!!
でやぁあああああ!!」
「おぉ!!」
眼にも止まらぬ速さで
タネとタコが均一にバラまかれ
火力が高いのかすぐに固まった側から
修羅の如き腕捌き体捌きでひっくり返していく。
「ふん!そいっっ!!」
「まるで手品でも見ているようだ…!」
「あたぼうよっ!!
オイラぁ、『たこ焼きの魔術師』と
呼ばれてんだからなぁ!!」
精密機械のように順序良く
たこ焼きを船皿へと盛り付けていくオヤジ。
ものの3分も経たない内に
10人前ちかいたこ焼きが出来てしまった。
ワザマエ!!
「実に見事な腕だな、オヤジ!」
「ふん、わかりゃぁいいんだ。
とっとと消え…」
「オヤジの腕を疑ってすまなかった。
ごめんなさい」
非礼を詫び頭を下げると
オヤジは呆気に取られたのか固まった。
「…」
「というわけで、2皿頂けるかな?」
「あ、あぁ…
青のりは大丈夫か?」
「一番良いのを頼む」
「おい!見ろよ、クジラが潮吹いてやがるぜ!!」
「虹掛かってんじゃん!!きれえ~!!!」
振り向くと沖の方で
随分と厳めしい面構えのクジラ?が
壮大に潮を噴き上げていた。
それを見てはしゃぐ子供たち。
「良いところで商売をしてるんだな、オヤジ」
「…さっきはすまなかった。
聞きかじった程度の事で嬢ちゃんに
つっけんどんにあたっちまった」
「いいよ、恐らく本当の事だ」
「オイラにはそうは思えねぇがな…」
「どんな話を聞いたんだ??」
ソースと白マヨネーズで模様を描きながら
オヤジは続けた。
「部屋に切り飛ばした美男子の首を飾ってるとか
気にくわなかった貴族の腹を切り裂いて
その場でソーセージ作り出したとか
あとは、領民の胸のデカい娘を見つけては
胸だけ切り取ってステーキにして食ったとか」
「うーん、それはどれもやってないな」
だが何となく民衆の中でのサレス像は分かった。
エグいくらいのサイコパスお嬢様
というイメージらしい。
「だよな、嬢ちゃんから
そんな邪気は一ミリだって感じねぇ。
…たこ焼き二人前、お待ちどう!!」
銀貨二枚を渡してたこ焼きを貰う。
何かの骨か植物なのか半透明なフタがついている。
「おっと嬢ちゃん、一枚余分だぜ」
「とっといてくれ、オヤジの腕へのチップだ」
「…嬉しい事言ってくれるじゃないの!」
にこやかに笑うオヤジ。
「あぁ、1つだけ聞いても良いか?」
「おうおう、何でも聞いてくんな」
「冒険者ギルドっていうのは何処にあるんだ?」
「ギルドに用があんのか?
貴族なのに、なんであんなとこに…?」
あんなとこ?
「いや、ギルドならここを真っ直ぐいって
女神様の像があるところを左に曲がると
アロで一番デカい通りに出られる。
そうしたら後は分かるぜ」
「ありがとう、オヤジ」
「あぁ、また来なよ!!」
たこ焼きを頬張りながら海岸沿いを歩いていく。
快晴の空を漂うドラゴン。
砂浜で遊んでいる少年少女達。
金ピカのよく分からん魚の群れ。
「まるでファンタジーの世界だ」
実際ファンタジーの世界だ。
記憶の奥底にある世界の断片達は
もっと落ち着いた…平和な世界だった気がする。
「ま、平和な世界なんて存在しないだろうが…」
持論だが、世界は不平等だから美しい。
世界が美しい限り、絶え間なく争いがある。
だから、世界が果てるその日まで
争いと美しさがあり続ける。
「水…水…」
海を眺めながら物思いに耽っていると
足元から乾いた呻き声が聞こえた。
「どうしたラウル…はいないんだったな」
「アンタ…水持ってないか…?
一口…一口だけで良いんだ…」
俺はタコ焼きのフタを取って
魔法で水を注いでやり差し出してやった。
声の主はそれを受け取ると
水を一気に仰いだ。
「…っぷは!!
も、もうない…」
「まだまだ作れるから飲みな?」
彼が飲み終わったタイミングで
矢継ぎ早に水を生み出していく。
それを片端から飲み干す青年。
見たところ彼も冒険者の様だ。
背中には双剣を携え、
関節の要所に鎧を当てている。
12回ほど一連の動作が続いた後、
ようやく青年は此方を見上げた。
「ありがとう…恩に着るよ」
「困った時はお互い様さ」
「アンタ…善い人だな」
「さあ、どうかな?」
善いかどうかも怪しいし、人かどうかも怪しい。
「分かる…アンタの瞳からは
奴らと同じ心を感じない」
「心?」
「俺、人の心が見えるんだ」
キリッとした顔でそう告げる青年。
俺は何故だかそれが真実だと直感した。
「私はサレス、君は?」
「シレオ…よろしく」
差し出した俺の手を掴んで
起き上がるシレオ。
白銀のクセのある短髪に
イエローダイヤのような煌びやかな瞳。
背が高いだろうに少し猫背になっているせいで
若干小さく見える容姿。
眠そうな垂れ目も相まって
少し胡散臭いオーラが出ている。
「シレオは冒険者なのか?」
「一応?…」
「実はギルドに用があってな、
悪いが案内を頼めるか?」
「サレスは…命の恩人だ。
そのくらい任せて」
言うや否や足早に歩き出すシレオ。
その歩調に合わせながら彼に口を開けるよう促す。
「あーん」
「…ウマい」
タコ焼きを彼の口に放り込むと
少しだけ表情が柔らかくなった。
「んん〜!!
メチャクチャ美味しいー!!!」
続けて自分の口にも。
ソースとマヨネーズはどんな世界でも
王道なのだと改めて実感させられる。
マヨネーズしか勝たん。
暫く歩き、海岸線を抜け街道を抜け
我々探検隊はついに
アロの冒険者ギルドへと到着した。
「それじゃ…用事あるから」
そう言って1枚の巻物を差し出すシレオ。
宝の地図とか?
「転送のスクロール…俺に繋がる。
何かあったら…使うといい」
「転送…?」
「バイバイ」
「バイバイ、シレオ」
小さく手を振っていた彼は
俺の前から掻き消えた。
実際は上へ飛んでいったようだが。
「それにしても、これがギルドか…」
幾百の矢が外壁を射抜き
入り口へと続く道には
数多の剣が聳え立っている。
恋愛ゲームにあっていい絵面ではない。
「…騒がしいな」
入ってすぐにクロスボウのボルトが飛んできた。
矢尻には何かの毒物が塗布されており
キャッチしたそれを壁に突き立てる。
なるほど、侵入者対策の罠だったのか!
秩序のカケラもない輩しかいないのかと思った。
広々とした華のない宴会場の様な空間には
傷だらけの厳しい男達が犇めいており
全員大小様々な得物で武装していた。
受付らしいカウンターに行くと
虚空に何かの画面が投影されている。
暫くそこで待っていると
露出の激しい服装の色っぽい女性が
画面越しに現れた。
着崩しているが
メイド服に近い造型の装いだ。
「クエストの受注…じゃねーのか。
あんた未登録だけど、
もしかして冒険者になりたくて来た…
わけじゃねーよな?」
随分と遠回りな言い方をする女性だ。
「いや、冒険者になりたくて来た」
「…なんかの罰ゲームだろ?
悪いこと言わねーから帰んな」
「いいじゃねーか、カリンバ!
登録してやれよ〜」
背後からモヒカンの男が
俺の小さな肩に大木の様な腕を乗せてきた。
「嬢ちゃんも
カッコイイ冒険者目指してんだろ?
へへへ、なっちゃいなよ」
「げええええ
アタシ、何も見てないからね」
舌舐めずりをしながら段々と手が
胸の方へ伸びてくる。
俺は巨漢の腕と肩を固めて
そのまま左側へと捻ってやった。
「うおおお!?ッダァ…」
失礼な巨漢は空中を綺麗に翻ると
そのまま頭から床へとぶっ刺さった。
「あ、すまん。
まるでセクハラされている感じがして、つい…」
酒を浴びてる奴もナイフを舐めてる奴も
得体の知れないハンバーグを食べてる奴も
全員が手を止めて俺の方に注目した。
「なんだ今の動き…?」
「ありゃ身体能力じゃねえ、魔法だ」
「ユニークスキルだろ!!」
「いやいや、武術か何かだな。
俺は詳しいんだ」
1人だけ正解者がいたが
やはりこの世界の住人には合気は
魔法か何かに見えるらしい。
そのまま全員が変わる代わる
此方へと攻撃を見舞ってきた。
これは歓迎の一種なのだろうか?
「ほっ!さぃ!よっ!!」
「キリ!キリキリ!キリキリキリキリ…」
「死ねえええええ」
殺気まで感じる程に
闘気の漲った打撃、斬撃、蹴撃。
全てを僅かに身体を傾けて躱し
ついでに重心を逸らしてタイミングをずらしていく。
「なんだ!?なんで当たらねえんだよ!!?」
「詠唱してねぇんだから魔法じゃねえ!!
魔術師か何かだ!!」
「魔術師ってこんなに
実物めいた幻影作れたっけか?!」
段々と息を切らしていく巨漢達。
そろそろ止めた方が良さそうだ、
先輩方にあまり無茶をさせるものではない。
「歓迎ありがとう、だが頃合いだ」
「な!?」「ん?!」「だとぉッッ!?!?」
それぞれの体幹と遠心力を利用して
投げやすい方向へと飛ばしてやる。
無駄な力は込めなかったので
先輩方も大した怪我はしない。
「…ば、バケモンかよ」
「信じらんねー!!
こんな小娘が荒くれ共を一瞬で!?
マジで冒険者になる気じゃん」
「野郎ども!!
全員武器を…」
一際大きな巨漢が号令を掛けようとした
次の瞬間。
「待ちな、お前ら」
静かながら威圧的な女性の声が聞こえた。
それを聞いて得物を置き席に戻る漢達。
奥の2階へと続く階段から
筋骨隆々な隻眼の女性がやって来た。
一言で表すと「猛虎」と云った装いをしており
アマゾネスを彷彿とさせる。
段々と近づいてくるその女は
2m近い長身であるのが分かってきた。
「嬢ちゃん、私と腕相撲だ」
親指でギルド中央の樽の方を指すアマゾネス。
「一向に構わん」
「マジかよ」「姐さんが認めたってのか!?」
「シレオの坊主以来じゃないか」
「俺はあの嬢ちゃんに金貨一枚!」
珍事なのか先程までの喧騒は消え果て
漢達は姐さんと呼ばれたアマゾネスと
俺の方に注目し出した。
「ただいまのオッズは姐さんが1.1倍
カワイイ嬢ちゃんが10.0倍だよー」
「まあシレオの時もボコボコだったからなぁ?
姐さんに勝てる奴なんてS級にしかいねぇや」
「ましてアロ如きにS級なんて来るわけねーさ!
みんな王都の方行ってガッポリだろうよ」
「ダハハハハ!!違ぇねぇや!!」
これが本来のここの賑わいなのか
昼間から酒を飲んで冒険者トークに
花を咲かせている。
「随分と余裕があるようだね、嬢ちゃん」
周りの雰囲気を眺めていると
肩を回して温めてるアマゾネスに話しかけられた。
「いや、随分と楽しそうなところで良かったなと」
「ふーん、随分と舐めた態度じゃないか。
生意気なだけのガキじゃないと良いんだがね」
「投票締め切るぜぇ~!!
最終オッズは姐さん0.8倍、
嬢ちゃんが20.0倍だ!!」
「ネコババしてんじゃねーかブッキー!!」
「懲りねぇなネズミ野郎!!」
「よし、始めるよ!!嬢ちゃん」
「あぁ」
腕を組んで改めて分かったのは
彼女の筋肉は見せかけのものではない
実戦で練り上げられた高密度のパワーだという事。
「にしてもえぐいな、体格差が!」
「ップァ…だな、まるでハムスターvsライオンだ」
「こんなマッチポンプ初めて見たよ」
「いや…嬢ちゃんならワンチャンある。
俺は詳しんだ」
「ハイハイ、お爺ちゃんは詳しいな」
あの爺さんは何者なんだ?
見たところただの休日の父親みたいな風貌だが…
「ブッキー、勝負開始の合図を頼んだよ!」
「対戦よろしく頼む」
「…本当に余裕があるんだね」
今すぐその余裕を消してやるよと言わんばかりに
口角を引き上げて笑うアマゾネス。
まるで肉食獣のようだ。
握りあった拳に手を置いたブッキーは
私とアマゾネスに準備が出来たか聞くと
そのまま高らかに勝負開始を宣言した。
「決闘開始ィーー!!」
「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」
右腕にアマゾネスの力が入り込んでくる。
サレスの華奢な身体では当然耐えうるわけもなく
魔力を流して倒されない程度に身体を強化する。
…ズルじゃないぞ?
「…なんでどっちも動かねえんだ?」
「まさかあの嬢ちゃん…姐さんと互角なのか!?」
「バーカ、あの体の何処にそんなパワーがあんだよ」
暫く均衡の続くと
アマゾネスは意外そうに笑った。
「意外と力があるんだねぇ、あんた!
なら、少しだけ本気を出そうか」
「…!」
彼女の腕がみるみるうちに膨れていき
先程の2倍近く大きくなった。
顔からも笑みが消え
激流のような圧力が右腕を通して
全身に掛かってくる。
強化魔法を使っていなければ
とうの昔にぶっ飛ばされていただろう。
「凄く強いのだな!」
「は…?」
だがまた均衡を保てるように
強化を強めていく。
ギャラリー達も流石に
どよめいて此方へと詰め寄ってくる。
「な、姐さんが手抜くなんてな…」
「ねーよ、冗談と手加減が大嫌いなんだから」
「俺ら、夢でも見てんのか」
段々とアマゾネスの顔に汗が滲んでくる。
いや、むしろ滝のように滴って来ている。
ヤジだった漢達の声は
段々とアマゾネスを応援する声へと変化していった。
「姐さん、頑張れ!!」
「あんたがウチの最強なんだ!!
そんな小娘に負けるなんて
姐さんらしくねぇよ!!」
「「行けぇええええ!!姐さん!!!」」
「はぁ…これだけ応援されちゃあ仕方ないね」
そういって短く叫んだ。
「『孤狼靭力』!!!
おおおおおおおおおおお!!!」
咆哮するアマゾネスの力が格段に上がり
俺と彼女の足元の床がひび割れていく。
更に力を増していく彼女の隻眼は黄色く輝いていた。
「出たぁ!!姐さんのユニークスキル!!」
「堅牢なドラゴンの首すら
一発で両断するほどの馬鹿力だ!!
いくら強くったって、
生身の人間に耐えられるわけがねぇ!!」
「やっちまえ!!姐さああああん!!」
「ぅあああああああああああ!!!」
まるで全国大会の決勝戦の様な盛り上がり。
腕相撲1つでこれとは、冒険者というのは実に愉快だ。
「…おっと!」
「貰ったああああああ」
周りの熱狂を感じて一瞬力が抜けた瞬間に
凄まじい剛力が全身にのしかかって来た。
最早手が接地するまでコンマ数秒もない。
まずい!!
咄嗟に魔力の全てが右半身に集中し
無意識に全身全霊が出てしまう。
「…え?」
俺を中心に空間が震え
全力でアマゾネスの腕を叩きつけると
樽は無残に砕け散り
更にギルドの床を跡形もなく砕ききってしまった。
ギャラリー達も軒並み倒れている。
アマゾネスはあまりの勢いで体勢を崩された為に
肩を脱臼してしまっていた。
「…すまない、つい全力が出てしまった」
「あ、あぁ」
「肩をはめるぞ」
「…ッ!!」
「いやー、びっくりした。
もしかして、貴女が噂に聞くS級冒険者なのか?」
「私はA級だよ…」
驚愕したまま呟くように答えたアマゾネス。
彼女ですらS級ではないのか…意外だ。
皆なぜかその場で固まっているし
歓迎はこれくらいで終わりらしい。
俺は再びカウンターに戻ると
間抜けな顔をした露出の激しいメイドに
呼び掛けた。
「それで、カリンバとやら。
取り敢えず冷やかしでないのは分かって貰えたか?」
「ハイ」
「登録はここでいいのか?」
「今行くんで…」
画面が消えたかと思うと
カウンターの奥の方から何かが開く音がして
暫くしてカリンバが俺の方に駆け寄って来た。
「それじゃ、この紙に記入してって」
「うん」
名前や魔法に関する項目が多数ある羊皮紙を渡され
しっかりと記入していく。
連絡先という項目があるが
何か連絡手段みたいなものがあるのだろうか?
「カリン、この連絡先っていうのは?」
「そこは空けといてイイよ、後でやるから」
「うーい」
カリンは腕を組んでその上に胸を乗せながら
不思議そうな顔で訪ねてくる。
「なぁ、アタシの記憶だと
『サレス・レディール』ってお嬢様だよな?」
「お嬢様だぞ?」
俺こそがまごう事無き
辺境伯令嬢その人であるが、何か?
「いくら容姿が似てるからって
偽名にしちゃーバレバレだって」
「?????????」
何だって?
「本名なんだが…??」
「そりゃ冒険者なんて大概は訳アリなんだし
偽名を使うのだって黙認されてるけどさー?
流石にそれは安直すぎるよー」
「…」
「いったい!!?
ちょっと!!
生乳にビンタはヤバすぎだって!!
痛い痛い!!??」
俺は無言で乳ビンタを繰り返した。
「わ、分かったよ!!
それでイイです!!
だからおっぱいだけは勘弁して!?」
「分かってくれたんだね、カリン」
「ッッッ~~~!!」
恥ずかしそうで悔しそうな苦悶の表情を浮かべながら
書類に不備がないか確認していくカリンバ。
問題なかったようで
そのまま羊皮紙を裏へ持っていくと
次に大きめの羊皮紙を2枚持ってきた。
ついでにちゃんとメイド服を着なおして
胸当ても装備して来た。
「…」
「なんでそんな乳凝視すんのさ!?
こほん、それより髪の毛何本かちょうだい」
「はい」
「こらこら、女の子が髪引き抜くんじゃないよ?
ナイフだって貸したのに」
「また生えてくるし大丈夫」
これ以上口出しして乳ビンタされるのを
恐れたのか突っ込まないカリンバは、
何かの教則本めいた書物を開き
羊皮紙に手を翳しながら
魔法の詠唱を開始した。
「『汝、いと賢しき知恵の輪の王…
天啓を齎し祝福の唄を天に響かせ…』」
今まで見て来た中で一番長い詠唱だ。
そして今までの魔法の詠唱と決定的に違う事がある。
(あれ、カリンバの魔力に変化がない…?
魔法じゃないのか??)
不思議そうに眺めていると
後ろから金貨を皮袋いっぱいに詰めた
やたらに詳しいオヤジが解説を始めた。
「嬢ちゃん、魔術も初めて見るんだろ?」
「魔術?」
「そうさ、知っての通り魔法てのは
ガキから骨みたいなジジィでも使える。
…才能さえあれば、だがな」
才能というのは適性の事だろう。
「だが才能がなきゃ使えないようなもんじゃ
商売にならないだろ??
だからどんな奴だろうが
魔法を使える形にアレンジされたモノ。
それが『魔術』さ」
「どんな奴でも、か」
確かに魔法の行使は人によって
全然印象が変わってしまう。
周りからすれば
そもそも詠唱も必要とせず
独学で魔法を使える俺なぞは
天才や神童に見えている事だろう。
「具体的にはどうアレンジしたんだ?」
「見ての通りさ」
そういって瓶ビールを煽りながら
カリンバの手元を指すオヤジ。
「あの本が?」
「それだけじゃないさ。
手を翳してる羊皮紙も
その下に描いてある魔法陣も
カリンバの着けている指輪も
全てが魔術用に誂えられた品だ」
「随分と手間とコストが掛かるんだな」
フッと鼻を鳴らすオヤジ。
「当り前さ。
才能のない奴が才能のある奴に勝とうとしたら
ソイツらの何倍も努力しなきゃならない。
何より、才能ある奴だって努力してるんだから
更に努力を重ねなくちゃ勝てるわけあるまい」
瓶を見つめたかと思うと
一気にビールを飲み干すオヤジ。
「もっと早く気付いてやれたら
結末は変わっていたのかもしれんな…」
それだけ残すとオヤジはとっとと
自分の元いたテーブルへと戻っていった。
彼も訳アリの1人らしかった。
カリンバの方に向き直ると丁度詠唱を終えたのか
羊皮紙が淡く輝き、何かの魔法陣を刻むと
そのまま丸まってしまった。
それを見届けるとカリンバは
教則本を閉じて
2枚ある内の1枚を俺に渡して来た。
「こーゆうの、スクロールって言ってね?
コイツを開くだけで刻んだ魔法が
1回だけ発動する便利な道具なわけよ」
「ふーん」
「で、今渡した奴には
転送の魔法が刻まれてて
2分くらいの間念話が出来るのよ。
基本使うのは緊急の時だけにしといて」
「なるほど、そういう事か」
シレオが先程くれたスクロールは
彼の連絡先というわけだ。
「それから…これ。
クエストに行く時とギルドに来る時だけで
いいから着けておくように」
「指輪?」
銀色の小さな指輪には
何か小さい宝石でもはめ込めそうな
細工が施されている。
「サレスちゃんは駆け出しのEランクだから
まだ指輪には何の宝石もないけど、
ランクが上がっていけばギルドから
認定証代わりに宝石を授与するよ!」
なるほど、そこで冒険者のランクを見分けるのか。
「強いサレスちゃんには悪いけど
実務経験も兼ねてEランクから頑張って貰うのが
ウチの仕来りだから」
「構わないぞ…」
「構わないならアタシの乳を凝視しないでさ!?」
全力で胸を守りにいくカリンバ。
何かムルに似てるなー、この子。
「取り敢えず今受けられる一番良いのを…」
「元気にしてるかー、お前ら??」
「「!?」」
入口の方を見ると
筋骨隆々で大剣を背負った渋い漢が
爽快に笑いながらギルドへと入って来た。
「ヴェクターの叔父貴!!」
未だ仰向けでボーとしていたアマゾネスが
漢を見るやサッと飛び上がり
まだ無事な椅子とテーブルを用意して
漢を招いた。
ギルド最強と言われていたアマゾネスが
下手に出ているという事は、
ヴェクターと呼ばれた漢は
偉いか強いかのどちらかか両方なのだろう。
「あそこに駆け出しの嬢ちゃんがいるって事は
お前らまた歓迎してやってたのか??」
「はい、初めて叔父貴以外に負けました…」
拳を握りしめるアマゾネス。
「本当か、ドミナ?
お前を打ち負かすなんて…」
そう言いながら此方に来て
俺の頭をクシャクシャに撫でるヴェクター。
「ガッハハハハハハハハ!!
やはり若いというのは良いな!!!」
(このマッチョ…
どこかで見た覚えがあるなんだよな)
————————
そんなこんなで冒険者になった俺は
魔法学校に入る前の1カ月を利用して
S級冒険者となり、サレスの悪名を雪ぐ事にしたのだ!
「では、サレスの新たな門出を祝って!!
乾杯!!!」
「「「乾杯!!」」」
そして俺が無事冒険者になれた事を祝って
二次会が催される事となったのだ。
えー、めでたく新章に突入で、あります。
この章はサレスが最高の冒険者になるまでの
物語だ。プ○スウルトラ!てな感じです。
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