正義の悪役令嬢
「それで、何故俺は
悪役令嬢を斬らなくてならない?」
「我のイデナが殺されてしまうからだ。
後はお前もな」
俺とファウストは再び対面して
紅茶を飲んでいた。
「イデナが?」
「悪趣味な奴なのさ…。
主人公である彼女を嬲って殺す。
後は…何だったかな?
記憶の全てにアクセス出来ない…」
「それは嫉妬によるものなのか?
それとも、平民が貴族や王族とくっつくのが
疎ましいからなのか?」
一国を代表するような立場の者達にとって
ただの平民が自分たちと同じ立場になるという現象は
さぞ不愉快な事だろう。
「…いや、理由は分からん。
ただ、我ですら見つけたら
1000年痛めつけてから
全身の皮という皮を剥いで殺してやろうと
思っていた程だ。
あまりよろしい理由ではないな」
「そうか…
悪魔であるスト君には
美味しい展開じゃないのか?」
人の悪なる感情を糧に生きているのだろうから
むしろ悲劇・惨劇は喜ばしい事なのでは??
「我は偉大なる悪魔!!
そんなチープな悪辣では腹の足しにもならん。
何より愛しいイデナの肉体を味わえなくなるのは
想像を絶するデメリットだ」
「…さいですか」
「イデナはな、実に良い嬌声で鳴き
瑞々しいその肢体は…っったい!?!?」
「ティータイム中にはよしなさい」
「ふぁい…ぐすん…」
偉大なる悪魔殿はすぐに泣く。
それも大粒の涙を零して。
「一番肝心な事を聞いていなかったが…」
「なんだ?」
「ずばり誰なんだ?」
ファウストは沈黙する。
思い出そうとしているのか
ジャムたっぷりのスコーンをモグモグしている。
ようやく飲み込むと、一言だけ告げた。
「分からない」
「ま、そうだよな」
知っているなら『守れ』ではなく『殺せ』という
契約内容であるはずだ。
不安の種は早々に摘んでしまえばいい。
「我はこの屋敷に籠って出来そうな事をする。
守れという内容だが…これを」
そう始めると
懐から煤の着いた銀の鈴を渡して来た。
「これは?」
何の変哲もない
小さな鈴にしか見えないが。
「それは『ファウストの七つ道具』が1つ。
『どこでもベル』だ!!」
一瞬未来から来た
猫型ロボットみたいな声になったが
妙に似ていた、〇ぶ代の方に。
「貴様に渡した奴は
我の持っている鈴とリンクしており
我が鳴らせば即座に
貴様を召喚出来るという寸法だ!!」
「ピンチの時だけ呼び出されるのだな」
「Exactly!!(その通り!!)」
基本的には自由にしていて構わないらしい。
「鳴らすことは恐らく無いと思う。
というか、怖いのでマジで
そうならないように努める」
「頑張れ、スト君」
恐怖のあまりか
キャラがブレブレになるファウスト。
敵対しないと契約させてからは
随分とカワイく見える。
「イデナと懇ろにしているような
口ぶりだが、彼女とはどんな関係なんだ?」
ファウストという名前は記憶の中に無い。
当然、イデナが悪魔と結ばれたなんて結末も。
「俗に言う隠しルートという奴だ。
そのルートに到達するには
イデナがある事をしないといけなかったのだ…
聞きたいか?」
ゲームなのだから当然
そういった趣向もあるのだろう。
何故溜めるのか分からないが
気になるのは事実だ。
「全ての情報を教えるという契約だろう?」
「…イデナがサレスを殺したのだ」
「は?」
「あれが彼女の初めての殺人だったなー!!
実に愛おしい表情をしていた!!
ただサレスの使っていたナイフを返そうと
しただけだったのに…ククク。
本当に良い表情だったな、まるで
苦悩に満ちた画家が呪詛と怨嗟を込めて
描いた最後の一枚の自画像のようだったよ!!」
そこにいたのは正しく悪魔だった。
人間の苦悩や恐怖で愉悦する下種な魔性。
「そのルートとやらで
お前とイデナは結ばれたのか??」
「そうだ!!
我の愛しいイデナを虐げた者、
愛した者は
全て我が殺し!!
最後には我がレクスと入れ替わって王国すらも
あのカワイイ娘に捧げたよ!!
クククク、ハハハハハハ…
いはいいはいッッ!!?」
歪んだ笑みを浮かべるスト君の頬を
思いっきり引っ張ってやった。
「カワいくない、その顔」
契約の中に下種な笑みを私の前では浮かべないと
付け加えておけば良かった。
「わはっは!わはっははあ!!」
離してやると頬をさすりながら
涙を浮かべるファウスト。
「今の馬鹿笑いの後だと
演技感が凄いぞ?」
「演技じゃないもん!!
痛かったんだもん!!」
本来はもっと青年のような姿なのかもしれないが
不完全な今の姿だとやはり大変に愛らしい。
あれほど醜悪な部分を見せられてなお
スト君への好感度がさがらないのは
一種の魔法なのだろうか?
「一先ずはこんなところだろうか?」
「この分岐は偉大なる我ですら初めてだ。
不要な懸念を増やすのは
賢しい者の行いではない」
凄く背伸びした子どもみたいな事を言いながら
スコーンを頬張るスト君の顔は輝いていた。
「では俺はこれにて失礼するよ」
「気を付けろよ?
我が召喚された事自体は
アバターも把握している」
「分かっているさ」
目的が不明瞭だが
個人的な理由で
惨劇を望んでいるように思える。
「言うなれば、『悪なる悪役令嬢』か」
「じゃあ何だ??
貴様は『正義の悪役令嬢』というわけか?」
「正義の…悪役令嬢…」
悪くないし、むしろ良い。
書斎の扉を開け、
ずっと扉に張り付いていた
興奮気味の双子にこう囁いた。
「もういいぞ」
「「突撃いいいい!!」」
双子は目を輝かせながら
スト君へと突っ込んでいった。
「ちょっ、何をするぅ!?
やめろ、スカポンタンどもぉぉぉぉ」
「いや〜一時はどうなるかと思ったけど
こんなカワイイショタが出てくるなんて…」
「サレス嬢にはいつも驚かされてばかりだな」
「やめろーー!!
服の中を弄るなぁ…
うぅ…サレスぅぅぅ!!!
助け…助けてぇぇえ!!
僕を守る契約だろぉぉぉぉ」
「悪魔ってこんなにカワイイ反応するんだぁ…
1匹くらい飼い慣らしてみよっかの〜??」
「私も黒魔法…覚えようかな…」
「ヒィィィ!?」
私は阿鼻叫喚のスト君と
初号機の様に暴走する双子を置いて
書斎の扉を閉めた。
「サレスぅぅうううううぅぅうぅ!!」
「ゲームオーバー…」
さてさて、我が騎士の様子でも
見にいこうかな。
貴方の高評価とブックマークで
救われる(作家生)命が(ここに)ある。
よろしければ、是非。




