シワシワのおばあちゃんかと思ってましたよ!
「そうそう…小指と薬指で」
「耳元でささやかないで…?
変な感じする」
「ふぅ〜」
「ふぁー!?」
「ほら、集中して集中」
「魔女様のいじわる!」
「ふふ、何とでも言い給えよ」
無事ラモラとの婚約は解消出来そうなので
今はラウルに型の稽古をつけている。
「これが山川流剣術の基本の型だ。
是非とも覚え、身につけろ」
「ヤマカワ?」
「人の名前じゃないよ。
自然の流れの中から創られた
剣術だからね」
「山とか川を見てて
思いついたって事?」
「そうらしいよ
面白い人が考えたんだ、きっと」
密着しながら手取り足取り教えていると
いかにも執事といった老年の男性が現れた。
「失礼致します、サレス様。
お食事の準備が出来ましたので
ご案内致します」
「分かった。
それでは今日はこの辺にしておこう」
「もう腕が上がらないよー」
執事の方に続いていくと
煌びやかなバンケットルームに通された。
上品な赤い壁紙に黒や金色の装飾が施され
照明も明るすぎず暗すぎず
程よい調整がなされている。
「テーブルがおっきくて長い!!」
「バンケットルームで食事とは豪勢だな」
「いえ、ここは食堂でございます。
サレス様達の席は此方です」
これだけの広さがあって食堂?
持て余しそうなものだ。
「ん?ラモラはいないのか?
もう2時間程経っているが」
「坊っちゃまはまだ50周終わっていないので
先にお召し上がり下さいとの事です」
「意外と真面目だな」
適当なところで理由をつけて
投げ出してくるかと思ったが
やり遂げるつもりらしい。
「それではお言葉に甘えて」
「「いただきます」」
改めてテーブルの上を見ると
実に壮観だと感じさせられる。
北京ダックのような鶏に
見たことない爬虫類の頭や
彫刻品のような美しい…野菜なのか?
正直どれが食べ物か分かりづらい。
「これが、ナイフとフォーク…?
魔女様!」
「私の持ち方を真似していれば良いよ。
何から食べたい?」
「お肉!」
そうだと思っていたよ。
「では、ステーキから」
先に見本として
あえてゆっくりと動作の一つ一つを
確かめる様に行っていく。
「なんか、綺麗…!」
「じゃあ、真似してみて」
少し不器用ながらも
それっぽい形を作りながら食べるラウル。
「刃やフォークの先は上に向けちゃダメだ。
…で、後は脇を閉めて…そうそう。
食べるの上手だな、ラウル!」
「〜〜〜!!!
魔女様、これ凄く美味しい!!」
頑張ってステーキを頬張ると
ラウルの顔が一気に綻んだ。
「そうだな!
これ程美味しいモノは生まれて初めてだ」
肉汁滴る分厚いステーキと
爽やかなバジルソースが
口の中で蕩けて消える。
濃厚な味ながら
食べ応えが軽く
パクパクいけてしまう。
「あれ?もうなくなっちゃった…
不思議」
ラウルには相当な美味しかったのか
俺の倍近いペースでペロリと食べてしまった。
「次はあの生首の奴がいい!」
未知の爬虫類の頭を目線で捉えるラウル。
何だろ、鶏とヘビの中間の様な…
「生首て…
執事さん、あれは料理で良いの?
だとしたら初めて見る品だ」
驚いた表情を浮かべている執事に
尋ねてみる。
「…えぇ!
『バジリスクの兜焼き』は
我が家に初めて来たお客様には
必ずお出しする当家秘伝の品ですので。
では、僭越ながら切り分けさせて頂きます」
その後も食事のバッドマナーや作法を
目を綺羅綺羅させるラウルに教えながら
ホスト不在の晩餐を大いに楽しませて貰った。
食後、デザートワインを頂きながら
まったりと余韻を楽しんでいると
不意に執事さんが申し訳なさそうな顔をする。
「サレス様、差し支えなければ
1つ謝罪をさせて頂いても?」
非礼をされた憶えはないが…?
「勿論、どうぞ」
「不肖このマヨルド、サレス様のような
誠に気品ある婦女子に対して
あらぬ偏見や思い込みをしておりました!!
大変申し訳ございません」
そういうことか。
「いやいや、謝罪の必要は無いよ。
これ程までに持てなして頂いたんだ。
何より、非礼など消え去るほど
私の舌鼓が唸った!
本当に良き晩餐だった
ありがとう、マヨルドさん」
「勿体無きお言葉…!」
いくら俺が釈明しようと善行を行おうと
これまでサレスの行ってきた悪行は消えない。
だから上書きしていくつもりだ。
「マヨルドさん、私も1つ伺っても?」
「はい、なんなりと」
もう手遅れではあるが。
「お酒って18才とかからですよね…?」
おいしい!とか言っていたが
サレスはまだ14才だ。
未成年飲酒ダメ、ゼッタイ。
「世間一般では確かにそうですが
社交会に名を連ねる方々は15の齢には
すでに嗜まれているかと」
「それもそっか…ありがとう」
考えてみれば当然か。
貴族が美酒も無しに宴など開くわけがない、
それが15-6の小僧小娘達であっても。
…にしても本当に上等なワインだ。
レディール家の屋敷にも置いてあるだろうか…
ラウルは横で腹を膨らませて
気持ち良さそうに眠っている。
ホストの席は未だに虚空が佇んでいるだけだ。
「マヨルドさん、ウチの騎士を客室まで
運んでおいて貰っても?
私はラモラの様子を見て来る」
「かしこまりました」
そろそろ終わると思い
ラモ吉の分のステーキとタオルを持って
夜闇の下へと繰り出した。
「ラモラ様ー、あと1周ですよ!!」
「…ッザェ…ハァッ…」
門番の男に声を掛けられて
返事をしたのか息が漏れてるだけなのか
表象しずらい音を出したラモ吉。
「お疲れ様、彼の調子は?」
「あぁ、これは御客人様!
凄いですよ、あんなに
やる気のある坊っちゃまは
今まで見た事がありません!」
「そうか…普段は違うのか?」
俺とラウルの前では
ずっとあんな調子だったが。
「はい、それはもう。
紳士的というか大人びているというか
ノデュス家に相応しい佇まいで!!」
ただのお調子者の七光りかと思っていたが
そうでもないらしい。
「反面、子どもらしい部分が無くて
なんだか自分は寂しかったですけどね!」
「寂しい?」
「何ていうんですかね〜?
こー…親が凄い人だから
子どもも当然凄い筈っていうのが
坊っちゃまには当たり前なんですよ」
「貴族に生まれた者は皆そうだろう」
「そうなんですよ!
でも、それって子供心というか童心というか
誰もが持ってたモノを
捨ててしまっている気がして」
「そうかもしれないな」
「でも今日の坊っちゃまは違うんですよ。
50周なんて走らされるもんだから
当然泣いてるんですけど、
でも顔が笑っているというか…
背筋が伸びてたというか…」
「分かるよ、何を言いたいか」
今までは責任感や矜持から
どこか自分を抑えて振る舞っていたのだろう。
実際、王や王族についで有力な貴族なのだから
例え子供であっても責任ある立場なのは違いない。
それでも、今日のこの罰ゲームは
自分で選び、自分でやり抜くと決めた。
だから、それは貴族とか責任とか
諸々を取り払った本当の彼が選んだ
真にラモラの意思なのだ。
だから迷いも憂いもなく
普段よりも輝かしく見えたのだろう。
「御客人様、良かったら
これからも坊っちゃまと仲良くしてあげて下さい」
「勿論だとも。
先程までは婚約までしていた仲だし」
「えぇ、婚約!?
という事はアナタが…レディール家の魔女?!」
門番のきさくな男は
バットが話しかけて来たみたいな顔で驚く。
「てっきりもっとシワシワのおばあちゃんかと!」
「令嬢ぞ?」
ラモ吉の話を聞いていると
丁度死にそうな顔の本人が帰ってきた。
というか目の前で倒れた。
「坊っちゃま、お疲れ様でした!
正直本当に走り切れると思えませんでしたよ〜」
「お疲れ、ラモラ。
水飲むか?」
無言で頷くと
私の差し出した水筒を煽るラモ吉。
「サレス…どうだ?
ノデュス家の晩餐は…最高だったろ?」
「あぁ、最高だったよ」
微笑んでやると満足したのか
白く燃え尽きた。
「あらら、こんなところで寝たら
風邪ひいちゃいますよ。
…もう寝てるな」
「私が彼を寝室まで担いでいこう」
世話の掛かる貴公子様だ、と思いながら
お姫様抱っこでラモ吉を担ぐ。
「本当によく頑張ったな。
おやすみ、ラモ吉」
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