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その悪役令嬢、天下無双の武神になりて。  作者: 卑下流
第一章:サレス・レディールは死んだ。
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決闘《デュエル》




実は、ずっと引っ掛かりがあった。


サレスが集団で主人公のイデナをイジメていた事。


そして、サレスの悪評が

国中に流布しているという事。


前者については今のベンKの情報で確信を得た。

学校や社交界で永年孤立していた筈のサレスが何故

集団でのイジメを行えたのか?


財力や権力を利用すれば

当然格下の令嬢や貴公子を操る事は

出来ただろう。


だが、イデナの周りには王族や公爵子息もいるので

辺境伯令嬢の権力というのは微妙なところだし

信用も無く恐れられているサレスの金を受け取る者が

いたのかというところも疑問だった。


正直、サレスに加担するのはデメリットばかりなのだ。


そして後者。


こちらはもう1人悪役令嬢がいるなら自然な話だ。

それもサレスよりも格上の公爵令嬢なら。


「サレスの悪評を流せば

 その公爵令嬢から注意を逸らせる」


領地であるフルーゴルや周辺の街、

社交界の中で有名ならさほど不自然でもないが


それなりに格式ある貴族令嬢の悪評が

全国的に拡散するというのはやはり考えづらい。


「流石にある程度は世間面を考慮するはずだ」


たとえ名声に興味がない辺境伯でも

体裁というものはあるのだから。


自身が悪役令嬢なのだから

それで終わりだと思っていた。

だが、それは絶対のルールなんかではない。


いつから悪役令嬢が1人だと錯覚していた?


「魔女様?

 あの大きい屋敷って…」


「あぁ、あれがノデュス公爵邸だ」


今は一旦忘れる事にする。


城塞のように巨大な壁に囲まれた

如何にも貴族が住んでいそうな屋敷。


門番に事情を話すと

慌てた様子で連絡を取りに行き

暫くして堅牢な門が開かれた。


「ここって誰かのおうち…だよね?

 広すぎる…!」


ラウルの言う通り、石畳の小道は

辺り一面の花畑に囲まれており

そよ風に吹かれ邸宅全体を花びらが包んでいる。


暫く進んでいると

屋敷の方から剣を抜いた青年が歩いて来た。


門番とは全く違う装いをしていながら

鎧にピストルまでぶら下げており

騎士か冒険者の様な剣呑な雰囲気を醸し出している。


臨戦態勢なのかと警戒していたが

青年は此方を、むしろ俺を見ると剣を手放して

その場に立ち尽くしてしまった。


暫くしてもリアクションが無いので

ヴァルから降りて

青年へと歩み寄った。


「アポ無しの訪問という非礼を詫びさせて頂く。

 ラモラ殿の婚約者のサレス・レディールという者だ。

 ラモラ殿にお目通り願いたい」


「…あ、ああ。

 君が俺の婚約者なのか…

 

 ごほん、俺がラモラだ。

 ラモラ・ノデュス」


「よろしく」


気が変わったのか、握手を促してきたラモラ。

警戒はもうされていないようだ。


花緑青のツンツン頭に

ペリドットの様な優しい黄緑の瞳。

身長は150cm後半くらい。


「それで要件は?

 父さんからも辺境伯からも何も聞いていないが

 まさか、俺に会いに来たとか?」


急に強気な表情になるラモラ。

情緒不安定な青年だ。


「その通りだ。

 私の事は忘れて別の女を捕まえろ。

 じゃ」


「ええええええええ!?

 ちょ、ちょちょ待って下さい!!」


またも急に態度が変わるラモラ。


「ん、なんだ?」


「何故、そのような事を…?」


変に隠し立てしても不信感を抱かせるだけだろう。

正直に言ってやる。


「君と結婚すると

 私は死んでしまうんだ」


「えええええええええええ!?

 ど、どういう事?!!」


どういう事も何も。


「そういう運命なんだ」


「うん、全然分からない!!!

 待って下さいね、ちょっと」


顔色がコロコロ変わる愉快な青年は

状況を整理しているのか考える人の

ポーズをして屈んでいる。


「魔女様、この兄さんは何で落ち込んでるの??」


「ラウルもその内分かるようになるよ」


好きでもない女に告白してもないのにフラれる。

凹む人ならかなり凹むだろう。


「なるほど」


「分かってくれたか」


「そこの男に惚れたから

 ソイツと結婚したくなったという事だろう。

 そうはさせん!!」


「え、僕?」


「他にいないよ、ラウル」


何を勘違いしたのか

ラモラは白い手袋を脱いでラウルに投げつけた。


「決闘だ!

 この女は俺のものだからな」


「…じゃあ、魔女様の騎士の僕も

 兄さんのものって事??」


「き、騎士だとっ!?

 羨ま…じゃなくて、けしからん!!」


「ラウルー、加減しなさいよー」


「分かった」


「いくぞ!!

 はあああああ!!」


裂帛の気合と共に突っ込んできたラモラは

次の瞬間には気絶させられていた。


「この決闘、ラウル少年の勝利ー」


「僕だけが魔女様の騎士だ」


やる前から結果は見えていた。


ベンKと戦った後から

人の魔力の量のようなものが見えるようになり、

ぱっと見でも相手の実力が量(はか)れるようになった。


左目が光る事も何か関係しているのだろうか??


「ラウル、適当に屋敷の人を捕まえて

 ヴァルを休ませて貰って来てくれ」


「うん、分かった。

 行くよ、ヴァル」


「流石に公爵家の嫡男を

 路傍に放置しておくわけにはいかないからな…」


俺は伸びてるラモラの頭を掴んで————————


(うぅ…いつの間に寝てしまったんだ??)


確か、俺は決闘を申し込んで

婚約者の騎士を名乗る男に突撃したはずだ。


だが、そこからの記憶が無いし

いつの間にかベッドで寝ている。

…いや、ベッドじゃないぞ?


鳥たちの囀(さえず)りも聞こえるし

風とそれに吹かれて揺れる花の音も聞こえる。


やはり決闘をしていた庭園で寝そべっているらしい。

背中からは石畳の堅く冷たい感触が伝わってくるが

頭だけは柔らかく温かい感触を感じる。


それに先程から誰かの視線を…

いや、覗き込まれている気配がする。


「~♪」


俺を覗き込んでいる奴は

スラヴァ帝国でありがちな

メロディを口ずさんでいる。


だがよく聞くものとは違う。

牧歌的でありながら切なく

節々に温かみを感じる調。


なんと素晴らしい曲だろう。


「…!?」


「~♪」


瞼を上げると目の前には婚約者の胸と

綺麗な瞳が君臨していた。

膝枕されているのだ。


惚れた女を掛けた決闘に負けておきながら

惚れた女に介抱されている。


決闘には負けたが、勝負には勝った!!


「…あぁ、女神様…」


一目見て驚いた。

醜い魔女だと思っていたはずの存在が

絶世の美女だったのだから。


「ん、起きたか」


「え!?

 あ、お、こんばん・・・わ?」


しまった、無意識で思った事が口に出ていた。

聞かれてしまった…


「もうすぐ夕方だが少し気が早いんじゃないか?

 まぁ、こんばんわ」


奇跡的に聞かれていない!!

心臓が爆発するところだった。


だが抜かるなよ、ラモラ・ノデュス?

公爵家の長子たるものポーカーフェイスだ…!


「ふっ、決闘に負けてしまった身だ

 潔く君との婚約は白紙に戻してやるよ」


「そうか、ありがとう。

 …というわけでどいて欲しいのだが??」


「あ、ああ!!

 それも、そうだな?!

 その通りだと思います!!」


「では何故そんなに名残惜しそうに

 私の手を握っているんだ?」


手元が温かいなぁーと思って

見てみると、

ガッツリ俺の手が彼女の手を握り込んでいた。


それも恋人繋ぎで。


「ああああああああああああああああ

 これは違うんですううううう!!?」


飛び起きた俺は

うつ伏せの向きで花畑へと盛大に飛び退いた。


心拍数が跳ね上がり、身体が滅茶苦茶に熱くなる。

汗が滝のように湧き出し、顔が真っ赤に染まる。


(死にてええええええええええ!!)


負けておきながら未練タラタラで

しかもその部分を悟られた!!!


俺なんてカミキリムシの幼虫に

なっちゃう魔法でも掛けられて

一生朽ち木の中でモゾモゾしてれば良いのに。


「あぁ、それとフっておいてなんだが

 少し休憩させて貰っても??」


落ち着け、深呼吸して、ポーカーフェイス。


「べ、別に構わないさ。

 何なら夕餉くらい振る舞ってやるよ

 婚約者だからな?」


「元だがな」


「よし、少し待ってろ」


俺は顔を見られないように彼女に背を向けて

屋敷へと駆け込んだ。


扉を開いて執事を呼ぶ。


「爺、爺はおらんか!?」


「はい、こちらに」


「ウチで一番良い客室は空いているな!!?」


「え、ええ。

 勿論空いておりますが…

 

『レディール家の魔女めを叩き斬ってやる』と

 仰っていませんでしたか??」


「バカ!!

 あれは世界一美しい娘だ!!


 我がノデュス家の全力を以てして

 彼女を持て成すのだ!!!

 良いな!!??」


「ええええ!?

 か、かしこまりました!!!」


婚約を破棄されたからなんだ?

決闘に負けたからなんだ?


「好きだ…サレス」


絶対に俺に惚れさせてやる。

やりやがります!!!!


————————






いつもありがとうございます!!

読んでくださる皆様のおかげで

三日坊主が随分と継続しております。


本当に感謝感激雨霰のアマゾン!にございます。


恋に恋する貴方!

是非高評価とブックマークをお願い致します!!


あと、告ってもないのに

フラれた経験のある方はいいねをどうぞ!!


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