始まりの卒業式:バッド・エンド
彼女はお母様によく似ている。
私の死んだお母様に。
「イデナ・フェーリクスと申します」
「ほほう…血は争えないな?レクスよ」
「?」
レクス王子だけは
分からないという顔をしているが
透き通る金髪に眩しい琥珀色の瞳の
イデナの容姿は王妃様に似ているのだ。
「此度の宴は無礼講だと聞いている。
俺も一杯だけ頂くとしよう
おぉ、どうも…
それでは、息子と娘、未来のその孫に!
そしてアーラ王国の栄光に!
乾杯!!」
「「乾杯!!」」
「…孫?」
会場の賑わいがヴィクト王の声で更に増した。
レクス王子は誰の孫なんだろうと
尚更分からないといった微笑みを浮かべている。
頭に?が浮かんでいるのが良く見える。
「孫だなんて…まだまだ早いですよ~」
顔を包んではにかむイデナ。
「ガッハハハハハ!!
早すぎる事はなかろう?
君たちの子供はまさしくアーラの宝!!
俺だけでなく民も皆、心待ちにしているさ」
「陛下は既に王宮の一番大きかった倉庫を解体して
子供部屋を作られていますからね☆」
「おいリト~?!
まだ内緒にしておけと言っただろう!!
マリーにバレたらどんな仕置きをされるか
分かったものじゃないからな?」
「そうでしたっけ?
ふひはへん、へいは☆」
陛下は口の軽いリリー様の
ほっぺを揉みしだきながら続けた。
「まぁ俺の気がちょっとだけ早いのは忘れて
存分に愛を育んでいくといい!!
レクス、イデナ、本当におめでとう」
普段の険しい顔からは想像できないほどの
柔らかい笑みで2人を祝福する陛下。
「「ありがとうございます、陛下」」
全く同時に頭を下げる2人。
まるで運命の赤い糸が雁字搦めになっているほど
2人のタイミングは完璧に合っていた。
「よそよそしいな~??
せっかくの席なのだから
今日くらい『お父様』と呼んだって
誰も怒らんぞ??」
「陛下!
一応この卒業式は公務のようなモノですから
それは憚られるかと」
「固いな~レクスは?!
本当に母さんにそっくりだな…」
「陛下!」
「イデナちゃんは呼んでくれるかな?」
「え~と…お、お父様?」
イデナには素直に呼んでもらえた陛下は
ぱぁっと顔を輝かせる。
「よしよしよし!!
イデナちゃんは大変に素直でよろしい!!
ガハハハハハ!!」
「イデナ、父さ…陛下は適当なところが多いから
あまり合わせなくて大丈夫だよ」
イデナに耳打ちするレクス様をみて
益々喜ばれる陛下。
「おぉ!?
夫婦での内緒話とは、本当に仲が良いなぁ!!
王である俺にすら隠し事とは!!」
「いつも公務をサボって連絡もせず
各地を放浪としているクセに
都合のいい時だけご身分を出されるのは
如何なものかと思いますよ、陛下?」
「もー、そういうところ
マジでお母さんにそっくりだな、レクスは」
「言葉遣い!」
「ハイハイ…」
「生返事しない!」
「ハーイ…」
「フフ、お二人って仲良し親子なんですね」
「な、どうみたら…」
「そうだろう?
王宮ではもっと…いっった!?
どうしてお前はいつも俺の脛を蹴るのだ!?
いっっ!?
分かった、分かったよ!!
俺は他の用事を済ませに行くよ」
いつの間にかグラスからボトルに持ち替えた陛下は
ちょっとだけ悲しそうな顔をしながら
投げキッスするリリー様とホールを去っていった。
「本当にお父様と仲が良いんですね、レクス」
「そうかな?」
「でも良かったの?
公務って言っていたのに」
「??」
「陛下の脛、蹴っちゃって」
「あ」
開いた口を押さえるレクス様。
一番無作法だったのは彼自身だと気付いたらしい。
「今後は気を付けます…」
「うむ、よろしい」
平民の娘に一国の王子が頭を下げているのに
誰もそれを気に留めていない。
2人の仲を国民だけでなく
社交界すらも認めているという証左だ。
2人の幸せそうな姿も見れた事だし
私はそろそろ退散するとしよう。
「あっ、サレス!!
ちょっと待って!!」
「え…イデナ?」
私を見つけるや否や駆け寄ってくるイデナ。
「ラモ君は…いないね!」
ラモ君とは私の元婚約者のラモラ様の愛称だ。
そんなふうに呼べるのはイデナくらいのものだが。
「…あまり私と一緒にいるべきじゃないわよ、イデナ」
「何で?
友達と一緒にいて
悪い理由なんて私には分からないよ!」
屈託のない笑みを向けてくるイデナ。
本当にこの子は純粋で曇りが無い。
「卒業おめでとう!!
お別れ…でもないよね?」
「えぇ…その内どこかの
お家の宴の席でお会いすると思うけれど」
お父様が公爵位を叙勲することが確定し
私サレスもやがて公爵令嬢となる。
イデナも明日には正式に王女となる為
私達がまた会うのは必然的なものだ。
「…まあ私なんかはおまけで
弟のプラヌが呼ばれるのでしょうが」
黒髪に紫水晶の瞳の女を貰いたいお家など絶無だ。
それがたとえ公爵家の娘だとしても。
「私は綺麗だと思うけどな~??」
「貴女がそう言ってくれるだけで
私には十分すぎるわ」
本当に私はこの子をイジメていたのかと思わせるほど
優しく接してくれるイデナ。
命を救われた事すらあるのだ、
この子の幸せを願わずにはいられない。
「イデナ、本当に卒業おめでとう」
「ありがとう、サレスもおめでとう!」
私たちは固い握手を交わした。
この瞬間、時が止まったような気がした。
会場すべての灯りがイデナを照らしていたような
そんな眩しい錯覚に。
彼女は今この瞬間、
世界でもっとも輝かしい存在になった気がした。
そして、照明が落ち視界が暗転した。
「え!?何事ですの」
「サレス、大丈夫だよ
すぐ…」
「きゃっ…イデナ??
何か零してしまったの??」
何か温かい液体が頬に着いた。
飛んできたというのが正しいか。
しかしイデナの両手は未だに
私の手の中だ。
「今ハンカチを…
な、何!?
雨漏り…??」
違う、私の上には
巨大なシャンデリアがぶら下がっているし
私に注がれているこの液体はやはり温かい。
何よりシャワーのように降り注いで来ている。
誰かの悪戯か。
どよめく会場は10秒もしない内に再び照らされた。
「イデナ、ドレスは汚れていない?
今度は私が——」
握手しているイデナの方に向き直ると
イデナはそこにはいなかった。
しかし、イデナの両手だけは私の手の中だった。
手首より先の彼女が消えた。
「は…?」
まるで意味が分からない。
イデナはどこ…?
何も分からないまま
頭上から降り注ぐ液体の出所を見上げた。
「あ、あああ、あぁぁああぁあああぁぁあ」
それを見た瞬間私の嗚咽だけが
会場に響いていた。
完全なる沈黙。
シャンデリアに四肢を斬られ血塗れのイデナが刺さっていた。
「イデナ…?」
ぽつりと聞こえた声の主はレクス様だった。
ただ光の消えた瞳で上を見上げていた。
手の力が抜け私が握っていたイデナの手が地面に落ち
足元の血だまりを跳ねた。
「なに、これ…」
私はイデナの鮮血に塗れていた。
誰がどう見ても私は魔女そのものと化していた。
静寂なホール全ての視線が私に向いた。
その瞳のどれもが
状況を理解出来ないという意思を持っていた。
誰も叫ばない、誰も喚かない。
ただ、目の前の景色があまりに異様過ぎて。
「貴様ぁあああああああああああ」
誰かが怒声と咆哮と共に此方に駆け寄ってきた。
激昂したラモラ様だった。
「 《蒼魔法 ・ 氷結塊!!》 」
次の瞬間、私の全身が凍りつき氷塊と化した。
「うああああああああああああ!!」
詠唱を終えたラモラ様は双剣を取り出すと
全霊で振りかぶり、私を砕いた。
『フフッ…』
私が砕けるその瞬間、女性の笑う声が聞こえた。
これがサレス・レディールの辿ったエンディングで
イデナ・フェーリクスが辿ったエンディングだ。
こんな悍ましい結末、誰も望む事はないはずだ。
だが、そうは思えなかった。
人生で最後に聞いたその女の声は
とても楽しそうだった。
私は自身が、自身こそが魔女だと思っていた。
でも違った。
(魔女は、私じゃなかったんだ…
イデナ…貴女を守れなくてごめんなさい…
ラモラ様…貴方の逆鱗に触れてごめんなさい…)
消えていく意識の中でサレスは願った。
『神様、貴方を恨みます。
こんな呪われた結末を
あの子が迎える事を止めなかった貴方を。
本当の魔女の悪逆に
無関心を貫いてしまった貴方を。
あの子の幸せを取り上げてしまった貴方を。
ねぇ、誰か———神様も魔女も全部壊して。
そのかわりに、私の全てを差し出すから——』
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お待たせしました。
闇(悪役令嬢)の力、お借りします!!
というわけでよければ、高評価とブクマを是非!!




