思いもよらない逮捕③
「魔力遮断装置だって、事件に使用するためにわざと登録しなかったんだって言いがかりを付けていて。なんとか起訴しようと躍起になっているんだ。ほんと、先輩は変なところで抜けてるから……だから誰か助手を雇えって言ってたんだ」
自分のように優秀な者を側に置いてさえいれば、今回のようなことにはならなかったはず。
だがエヴァンはいつだって、一人で全てをこなしていた。
誰の手も必要としない、エヴァンは真の天才であったから。
カイリはそんなエヴァンだからこそ強く憧れているのだ。
「今まで起きていた強盗事件に、魔力遮断装置以外の魔法道具を使用した形跡はございましたか?」
「ない。魔力遮断装置があればカメラもだが、金庫のロックも簡単に解除できただろうからな」
「便利になった半面、それに付随して犯罪も巧妙化するな」
「ではエヴァン先生と、殺人事件のほうに関わりは?」
クリスティアの問いに息を詰めるように、カイリは唾を飲み込み勢いよく頭を左右に振る。
「ない!被害者と知り合いだった様子もないし。ただ、どの事件の時も先輩のアリバイがないのは確実だ」
「そうなのですか?」
「事件は夜遅くに起きているし。基本、先輩は一人で魔法道具の製作をしていて部屋に籠もりっきりだから。本人を調べたとしても、アリバイは出てこないだろうって言っていた」
「エヴァンの研究室件自宅は王宮内に設けられているのだから、外に出るには外出許可が必要となるだろう。夜間の外出はあったのか?」
「それが……こんなときに限って先輩は城には戻らずに、ずっと学園の教員室で寝泊まりしていたんです」
「なんと間の悪い」
「学園の警備の者が、先輩の教員室に明かりが点いているのを見てはいるんですが。本人の姿を見ていないので……アリバイの証明にはなっていません」
行き来するのが面倒だからと言って、そういえば最近エヴァンの居場所といえば城よりも学園のほうが多かった。
どれか一つの事件にでもアリバイがあったのならば。
いや、せめて強盗殺人の時にアリバイがあったのならば。
それを理由にして釈放を求められたのだが。
カイリがやきもきしている気持ちなど知らずに、当の本人はのほほんとした様子で尋問を受けている。
「だから極めて、先輩はピンチなんだ!対魔警察は先輩を犯人の方向で捜査を進めている!なにか動機に繋がるものを一つでも見付けたら、即刻起訴に持ち込むつもりだ!」
「動機は見付かりそうなのですか?」
「いや、今のところ一切。被害者との関係すら見えていない。というか先輩は強盗をするほどお金にも困ってないし」
「そうだろうな。王家から衣食住は保証されているし、毎月給金の支払いもある。良い魔法道具が出来れば特別報酬もあるし。それにエヴァンが魔法道具を作る以外で、お金を使っているところを見たことがない」
「だからこそ、どんな言いがかりをつけてくるのか分かったもんじゃない!何処かの道ですれ違っていたってだけでも起訴しそうなんだぞ!頼りたくないけど、お前が頼りなんだ!」
警察が犯人を捕まえるためにどんな強引な手を使うのか、知り尽くしている。
歯痒そうなカイリは本当は下げたくないであろう頭を気持ち、ほんのちょっとだけ下げてクリスティアに助けを求める。
それほどエヴァンのことを慕っているのだ。
そんなカイリを見て、クリスティアはユーリへと視線を移す。
「殿下。わたくしとしましては、先生には随分とお世話になっておりますので……誰に頼られずとも、無実を証明するための努力をするべきだと思っているのですけれども。どうでしょう?」
「はぁ……そうだな」
思わぬ方向からの切実な依頼に、いつだってクリスティアが事件に関わることを良しとしないユーリは、今回ばかりは仕方がないというよつに肩を竦ませる。
エヴァンは国の宝だ、このまま警察に奪われたままというわけにもいかない。
釈放に全力を尽くそうと渋々だが頷いたユーリに、カイリは俯いていた顔を上げる。
「カイリ様。わたくしのほうでも事件についてお調べいたしますので、どうぞこの灰色の脳細胞にお任せ下さい。あなたを困らせる悪人達を成敗して差し上げますわ」
悪人ではなく同僚なのだが……まぁ、エヴァンを庇うカイリにとっては悪人に違いないので否定はしない。
味方であるときには、クリスティアが随分と頼もしく思える。
とはいえクリスティアにしてみれば、いつだってカイリの味方であり敵ではないのだが。
カイリの反応が可愛くてつい、意地悪くからかうのでデフォルトで敵認定されているだけだ。
「ですがカイリ様、それにはあなたのご協力も必要となることをお忘れなく。事件解決のために、対魔警察が掴んだ情報は対人警察のニール・グラドもしくはラック・ヘイルズへと必ず共有してください」
「なっ!お前じゃ駄目なのか!?」
「部外者であるわたくしへの情報提供は、守秘義務違反となり、なんらかの処分対象となる可能性がございます。対魔警察は些か、わたくしの力が及びにくいですから……警察同士の情報共有でしたら、問題にはならないはずですわ」
「うっ、わかっ……た」
どちらにせよ情報共有が知られればカイリの対魔警察での肩身は狭くなるだろうが、職を失うよりかはマシだろう。
丁度、国王陛下から両者共に国民に恥じぬよう協力し合い、事件を解決するようにとせつくつもりだったので、タイミングも良い。
クリスティア達に助けを求めた時点で、カイリの覚悟は決まっているはず。
ならばその覚悟を見せろと笑むクリスティアに、カイリは渋面を作りながらもぎこちなく頷く。
これを切っ掛けに多少は、対魔警察と対人警察の仲が改善すれば良いのだが。




