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思いもよらない逮捕②

「エヴァンも、クリスティアを煽るんじゃない。動機がないのならば捜査もなにもないだろう。余計なことはするな、帰るぞ」


 このままここに居ればエヴァンが余計なことでも言って、クリスティアを焚き付けそうだ。

 事件の話もだがこの牢屋の中の居心地がどのようなものか聞きたいと、好奇心に満ちた輝かしい目をしているクリスティアを引っ張るようにして、面会室から押し出す。


 ユーリの横暴な態度に、拗ねたようにムッスリと唇を尖らせたクリスティア。

 もっと話しをお聞きしたかったのにと……無理矢理連れ出された文句を言いながら、人の気配がない廊下を歩いていれば。

 角を曲がった先で対魔警察の刑事であるカイリ・レーニックが腕を組んで壁に凭れて立っている。


 相も変わらずふてぶてしそうな態度と猫のように鋭い黄金色の眼差しだが、むっつりとした表情はいつも以上に険しい。

 尊敬するエヴァンが逮捕されたからか、機嫌はいつも以上に悪そうである。


「カイリ様、お久し振りです。どうぞ先生のことをよろしくお願いいたしますね」

「ちょ、待て待て待て待て!」


 軽く挨拶をし頭を下げると、前を通りさっさと去ろうとするクリスティアをカイリが慌てて止める。

 ユーリはこの時、クリスティアの後ろに意地の悪い悪魔の尻尾が生えてくるのを見る。

 この瞬間、カイリは猫ではなくネズミに、クリスティアは猫になりネズミを弄ぶのだ。


 ユーリが呆れた表情を浮かべながら面倒ごとになるのはごめんだと、呼び止める声を無視して先を進もうとするが。

 エスコート相手がその待てという言葉に足を止めてしまったので、立ち止まるしかなく。

 淑女に付き従う紳士のマナーが、どのような状況であったとしても自然と出てしまうのが憎たらしい。


「お前!どういうつもりなんだよ!」

「どういうつもり……とは?」


 はてさてなんのことやらと、惚けた様子で小首を傾けるクリスティア。

 エヴァンがこの場にいたのならば、いい加減にその無礼な態度を改めなさいとカイリを穏やかに叱ったことだろうが。

 だが今はその横柄な態度を注意する者はおらず。

 クリスティアの素知らぬ態度に、カイリの苛立ちがただ募り態度がいっそう悪くなる。


「スカーレット先輩が捕まったんだぞ!それなのに狼狽えもせず!もう帰るつもりなのか!?」

「えぇ、先生の無事を確認することができましたので。思っているよりお元気そうで、安心いたしました。しばらくお務めになるのでしたら、なにかお品物を差し入れたいと考えているのですが。カイリ様宛に届けさせればよろしいでしょうか?」

「お前の目は節穴か!先輩はな、先輩は魔法道具を開発しなきゃ死んじゃうんだぞ!あの輝かしい脳味噌を動かしてないと、腐っちゃうんだからな!」


 エヴァンはマッドサイエンティストなのかな?

 随分と失礼な庇い方だが、それもカイリなりの一種のリスペクトなのだろう。

 回遊し続けなければ死んでしまう魚のような扱いに、エヴァンは苦笑うだけで喜びはしないだろうが。


「ご本人もすぐに釈放されるはずだと申しておりましたから、過度な心配は杞憂かと思ったのですが」

「それは……!だからそう、簡単にはいかないかもしれない」


 怒鳴っていた声を意気消沈させて、難しい顔をしたカイリは俯く。

 その焦燥感を感じ取り、クリスティアとユーリは顔を見合わせる。

 二人としてはエヴァンが起訴される確率はほぼ0%だと確信していたので、何故ここまでカイリが不安がるのか理由が分からない。


「まぁ、どういうことなのでしょう?」

「エヴァンが強盗を行う明確な動機があるのならば別だが……魔力遮断装置だけでは、物的証拠としては決定打に欠けるだろう?各警察としても、不起訴になる確率が高い起訴など、しないはずではないのか?」

「対人警察はそう思うでしょうけど対魔警察は……実は、今回先輩を逮捕したのは対魔警察の中でも先輩をやっかんでいる奴らなんです殿下。先輩は王家の公認を得て魔法道具を好き勝手開発しているから、対魔警察では不満を持っている奴らが多くて」


 カイリが口籠もったのは、これも原因であった。

 エヴァンの魔法道具開発はいつだって、王家という強力な後ろ盾の元で行われているので、彼への不満はある意味、王家への不満でもある。


 カイリはクリスティアに対しての態度は悪いが、ユーリに対しては(正しいか正しくないかは別として)自分なりに礼儀を持って接している。

 現王家に不満はない。

 むしろエヴァンの価値を見抜いたその目は信頼に値している。


「無責任に魔法道具を開発するから、それを使って事件が起きるんだって、犯罪を助長しているんだって言っていて……」

「そうなのですね」


 プライドだけ一人前に高くて、エヴァンの足元にも及ばない分からず屋共が。

 支援を受けたとしても同じ魔法道具を作ることのできない愚か者共が。

 エヴァンが反論しないのをいいことに、好き勝手言っている。

 カイリからすれば口先ばかりの奴らが対魔警察で働いていることのほうが、十分に特別扱いだ。


「自分達だってその便利な魔法道具を使って生活しているくせに、事件が起きるとなんでもかんでも先輩のせいにして……結局は嫉妬なんだ。自分達にはあんなに凄い道具を作ることができないから」


 魔法道具を使用した事件には魔具師が関わっていることが多くあり、事件自体も複雑でどうしても規模が大きいものになってしまう。

 対魔警察は事件を起こした魔具師を敵視しており、自分達が魔具師の尻ぬぐいをしているのだと思っている。

 片や魔具師の間では、対魔警察は魔法道具を作れない落ちこぼれが、魔法道具を解体して魔具師の真似事をしていると揶揄されている。

 これは対魔警察が魔具師に対して反感を持っている原因でもある。


 つまり魔法道具を扱う人間は総じてプライドが高いのだ。

 カイリもプライドは高いほうだが、認めるところはきちんと認めているので、そのような奴らと同等に扱われるのは不愉快で、下唇を尖らせる。

 ちなみにエヴァンは対魔警察であろうが魔具師であろうが、肩書きなどどうでもいいと思っているのでいつだって我関せずだ。

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