思いもよらない逮捕①
その日、学園へと登校したクリスティアの元へと驚くような知らせが舞い込んできた。
曰く朝早く、まだ生徒達の登校が少ない時間帯に対魔警察が数名学園へと押し寄せて来たのだと。
そしてそのご一行は迷わずにエヴァン・スカーレットが居る教員室へと向かい、有無を言わさず彼を連行していったのだと。
その光景をたまたま目撃した生徒により広まった噂。
王家から支援されているお金を着服していたのだ。
兵器になりえる魔法道具を国外へと輸出したのだ。
クリスティアの元へと噂が辿り着いた頃には、長い長い尾ひれが付いた真偽不明の情報が飛び交っていた。
なんという事態。
なんという出来事。
一体なにが起きているのか!
懇意にしているエヴァンが逮捕だなんて、何かただならぬことが起きているのだと。
クリスティアはソワソワとした落ち着かない気持ちを抱えながら、授業が終わり帰宅の時間となった瞬間……教室を出て夕暮れ迫る廊下を駆け、逸る気持ちを抱えながら馬車に飛び乗り、中央対魔警察署へと向かう。
一人で向かおうと思ったのだが、同じく噂を聞いたユーリも乗せて。
「エヴァン先生、狡いわ。狡い。わたくしより先に牢屋に入ってしまうだなんて。本当に羨ましくってよ」
「いやはや、面目ございません」
面会室でエヴァンと再会すれば開口一番、クリスティアのズレた嫉妬。
本当に羨ましそうに拗ねた声を上げられて、困ったように眉尻を下げたエヴァンは頭を掻く。
ぷっくりと頬を膨らませるクリスティアの隣、簡易的な丸椅子に座るユーリが呆れている。
対魔警察の面会室は対人警察の面会室とは異なり、魔力を遮断する分厚い魔法壁で隔たれている個室だ。
「一体これのどこが狡いんだ。王家が支援している魔具師であり学園の教師が捕まったなど、由々しき事態なんだぞクリスティア。それで、何故捕まったんだエヴァン?」
「申し訳ないです王太子殿下。恐らくですが最近、頻発している強盗事件の容疑者としてらしいのですけれど。事件時、防犯カメラの魔力が切られているのはご存じですか?」
「えぇ、そのようなお話しを対人警察より伺っております」
「実はそのカメラの魔力遮断に私の魔法道具が使用されているようでして……そういったことから任意での取り調べとして最初は連行されたのですが。どうやら私が与えられている学園の教員室を捜索したときに、その道具が見つかったそうなんです」
「魔法道具を開発したことが罪ならば、王国で使用されている魔法道具のその殆どはエヴァンの作品だろう。それだけで捕まえるのは横暴ではないのか?」
全くもって馬鹿馬鹿しい。
どれだけ多くの魔法道具を、エヴァンが生み出してきたと思っているのか。
ラビュリントス王国の魔法道具の発展に、エヴァンは欠かせない人物である。
「あはは……そうなんですが。実はその魔力を遮断する魔法道具なんですが試作品ということもありまして、魔法庁への登録を忘れておりまして……悪いことに疑いが深まったと」
「エヴァン……」
どうしてそう、うっかりしているのか。
何故逮捕にまで到ったのか理由を察し、目頭を押さえたユーリにエヴァンは申し訳なさそうに笑う。
一部の魔法道具はそれぞれに製作ナンバーというものが割り振られている。
魔法庁が管理する番号を登録することによって市井での使用が可能となるのだが、その登録をしていなかったのとなれば大問題である。
魔法道具の発展は、戦争時の武器兵器開発からの派生が多くある。
武器型の魔法道具や、犯罪に転嫁できそうな品物は全て登録対象であり。
今回のように登録対象の魔法道具の登録漏れは、なにかやましい理由があるから登録していなかったのだという疑いを対魔警察に持たれても仕方がない事案である。
「今のところ、魔法道具管理法違反としての罪を問われているわけですが。対魔警察はそこから私を強盗事件の犯人にしたいのだと思います」
「殺人事件に発展したのです。対魔警察としても、犯人逮捕になにふり構っていられなかったのでしょう」
「見つかったその魔法道具が、事件に使用されたかどうかは分からないんだな?」
「もちろんです殿下。とはいえどの魔法道具が使用されたのかは分からない、というのが正解ですね」
疑わしきは罰せずだが、疑わしきは取り敢えず逮捕でもある。
魔力遮断の魔法道具は資産のある家の門や商会の入り口に設置されることが多く、普及率もそれなりに高い。
その魔法道具の発動範囲内にいると、他の魔法道具の使用が一定時間できなくなるので、テロ対策のために王宮でも使用されているし、ランポール邸の門でも活躍している。
大規模なイベント時にも使用され、不要な魔法道具の持ち込みができないように先の孤児院のチャリティーイベントでも使用していたほどなので。
その魔法道具一つでエヴァンを逮捕するとは、対魔警察の勇み足感と考えられなくもないが。
余程なにかの自信があるのかもしれない。
「まぁ、ですが。事件を起こす動機が見付からなければ呆気なく無罪となるでしょうから、それほど悲観はしていません。お二人もどうぞご心配なさらずに」
「そうか、なら安心だが。陛下には私から事情を説明しておこう」
「よろしくお願いします殿下」
「是非、わたくしが無実の証明をいたしますわ先生。お任せ下さい、この灰色の脳細胞は悪しき国家権力と戦うことだって怖じけはしませんわ」
「その悪き国家権力に私は含まれないのか?というか絶対面白がっているだろうクリスティア」
「ははっ、感謝いたします。あなたはいつだって私の希望ですね」
キラキラと瞳を輝かせて勇むクリスティアに、心底楽しそうに笑うエヴァン。
隣のユーリはそのやる気に、毎度のことながら頭を抱える。




