傾国⑬
明くる年、仏生山高校剣道部に4人の女子新入生が来た。特筆すべきは4人が4人とも剣道経験者であること。久本佳奈はがぜん指導に熱が入った。
目標は四国大会出場、すなわち県大会ベスト4になること。そこを目指して鍛えにかかった。
5月の県総体、3回戦で東丸亀高校に敗れる。3回戦は準々決勝戦だったので、あと一歩及ばずだった。しかし就任2年目の成績としては上出来でもあるとも考えられる。
選手としての彼女はどうか。8月、全国教職員剣道大会が石川県で開かれた。この大会は団体戦と個人戦があるが、個人戦で男子が複数部門に分かれているのに対して女子は1部門だけである。
佳奈は女子個人の準決勝戦を戦っている。彼女が対戦する岡野(岡山・県立北高校)は上段の構えを遣う。高身長の岡野と対峙すると間合いに不利がある。自分から打っていくには厳しいこの難敵に対して盛んに足を使って撹乱し、焦れて諸手コテに来るところをメンに乗って仕留めた。
決勝戦の相手は東京の昭島第六中学校に勤務する高浜。どちらが勝っても初優勝の対戦。岡野というこの日最大の難所を乗り越えた佳奈は決勝をのびのびと戦い、彼女の攻めに思わず手元を挙げた高浜から小手を先制する。その後も間合いに明るい彼女は取り返しに来る高浜の技の切れ目にメンを打ち込み、時間内に試合を畳んだ。
中学校2年生時の全中以来、そして個人では初となる全国タイトルだった。
仏生山高校に赴任して3年目。四国大会を目指すにふさわしく、佳奈は強い口調で部員らの足捌きを正す。逆に「上履き!」と叫ぶことはなくなった。
今年の香川県総体、佳奈には期するものがある。
1回戦と2回戦を危なげなく勝つと迎えた3回戦「準々決勝」。相手の相和大学附属高松は昨年の優勝校だ。この日、仏生山はオーダーを前2人に最も強い選手を置いた。かつての自分がそうだったように先鋒と次鋒に先行逃げ切りのポイントゲッターの役割を与えたのだ。
この策が功を奏して先鋒が二本勝ちをする。そこから引き分けが続くが、相大高松の大将小畑から開始早々に相コテメン一本を奪われる。これで勝負はわからなくなった。こちらの北は捨て大将とまでは言わないまでも、ほぼ丸々4分を逃げ切れる保証はない。
二本目の初太刀に小畑の逆ドウ。危なかった。相コテメンを打たれて迂闊にコテで逃げられなくなった北の心理を見越したような技だが、なんとか旗は1つしか上がらず。
「足止まってるよ!見すぎるな」
監督席から響いた声で北は我に返る。相手に入られたら下がり、下がったら追うを繰り返して、下がり切れない場面では徹底して間合いを潰す。この場面、地力に勝る相手にバカ正直に構えあうのはお人好しが過ぎるというもの。
対して後のない小畑はひたすら仕掛ける仕掛ける。技を防がれてくっつかれたら崩して引き技、見切られたら二段打ち。
あ、今の小畑の引きメンは惜しかった。だが焦って上半身が浮いていたから軽かった。慌てて北も追いメンを放つが返しドウ、これも危なかった。
以降も途切れぬ猛攻が続いたが、なんとか凌いだ。旗に助けられた部分もあったが、雑に切ろうとする小畑に合わせずしつこく引き技を狙い続け、北も懸命に時間を使い逃げ切る。
これでベスト4。
続く準決勝戦では望叡学園に敗れた。しかしついに達成された四国大会出場。佳奈は生徒たちよりも大きな声で泣いた。




