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傾国⑫

「週2回でいいよ。それが無理なら1回でも。ねえ、剣道続けたほうがいいよ」

 仏生山高校の新任教師久本佳奈が最初に自分に課したことは、全校生徒の中から剣道経験者を探して剣道部に勧誘することだった。


 本庄大学を卒業した彼女は母校での非常勤講師を経て、仏生山ぶっしょうざん高校の教員として赴任する。

 仏生山が剣道部を要すると聞いたが、佳奈は自分が高校生のとき一度もトーナメント表でその名を見たことがなかった。不安は見事に的中、道場を覗くとわずか2人の男子部員がチャンバラもどきの稽古をして終わるというレベル。どうやら顧問を務める教師は未経験者かつ校務に追われて日頃顔を出さないらしい。


 そういうわけで甘ったるい声で勧誘をしていたのだ。その甲斐あってか新入生部員はまずまず集まった。この集まったヒヨッ子たちに対して勧誘のようにやさしい声で接したのか、いや、しない。「上履き!」と鬼の形相で叫んだ。元本庄大学剣道部女子主将の本領を発揮して教えることは、まず技術ではなく履物の揃え方や道場の掃除の仕方だった。

 しかし部員たちは本庄大学も全日本女子選手権も知らなかった。そもそも聞いたことがないからお構いなしに

「自分は地元の道場の先生からこうやれって言われました。それが正しいと思うから道場のやり方通りにします」

 そこらの町道場と体育学部武道学科とどちらの指導が正しいか、佳奈は懇切丁寧に力づくで教えてやった。


 この年、仏生山高校は男女ともアベック初戦敗退を達成した。これは同校17年ぶりの記録で、女子の出場も17年ぶりだった。

 一方で佳奈は望叡学園にも定期的に足を運んだ。まだ選手として終わる気のない彼女は全国教職員大会と全日本女子選手権に出場を決めても仏生山では自分の稽古ができる環境にない。週に1度は勤務の帰途に顔を出した。

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