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傾国⑭

 剣道女子強化訓練講習会。これは「国内剣道水準の向上のため、青年剣士の強化を図るとともに、世界剣道選手権大会の代表選手になり得る剣士の養成に努める」ものだ。

 香川の公立高校で教鞭をふるう久本佳奈のもとにこの講習会への参加要請が届いたのは教え子を初の四国大会出場に導いた年の終わりごろだった。

 自分を含めて今回参加するのは25名。この後も何度か講習会を行い、世界大会の登録枠10名になるまで選考を繰り返す。


 年始に始まるこの講習会で佳奈は大変な屈辱を味わう。それはリーグ戦でのことだ。三人一組を8組形成し、1位は上位グループ、3位は下位グループにスライドしていくシステムで行う。ここで佳奈は次々に負けを繰り返し最下位の組でも3位になった。するとどうなるか、余り1名となって最下位の組に交代で混ぜられて試合をするのだ。

 「技が届かないし、連打に繋げられない」

 ここにきて今更のことながら圧倒的な稽古量の不足を痛感させられた。


 4月に名字が変わった。相手は大学時代から交際していた志沢弘しざわひろし。彼は千葉の習志野商業の教師であり、志沢佳奈も結婚により習志野市に移り住む。彼女は習志野中央高校で非常勤として勤めながら千葉県の教員採用試験を目指すこととなった。

 習志野市内には複数の強豪校があり、全日本剣道連盟の強化指定選手に選ばれた佳奈はこれらの高校の練習に参加することができる。また毎週のように行われる教員の稽古会にも顔を出した。渡りに船とはこのことか、稽古環境が劇的に向上した。


 8月に長崎で開催された全国教員大会。高校の部で志沢弘は初優勝し、女子の部で志沢佳奈は準優勝した。

「1年間、本気で根を詰めたら動けるようになるかもしれない」

 確かな手応えと光明を感じた。


 そして何より佳奈の世界大会のメンバー入りを決定づけたのは9月の全日本女子剣道選手権での活躍ぶりだろう。3回戦で前年度優勝の山田に対して20分間徹底して相手の間合いで勝負し続けた。長身から繰り出される伸びのあるメンを持ち味とする山田に粘り強く中間まで脅かして、最後は相手が出てくるのを完璧に読み勝ってドウに返した。

 この大会、決勝戦で敗退こそしたものの佳奈にとって全日本女子選手権では初の入賞だった。


 この活躍が選考に加味され、彼女は現在台湾で行われている世界選手権の日本選手団に帯同しているのだ。

 そうそうたる顔ぶれと並ぶことになり、「せめて1試合だけでも出たいな」と思っていた彼女は初戦から先鋒として起用され続け、準決勝までを全勝。

 そして今、決勝の舞台で対するは韓国。団体礼を済ませ相手の先鋒と向き合う佳奈。慣れ親しんだ切り込み隊長のポジション。

 ふと思い出した。今回、久本家応援団に佳奈の祖父母はいない。もう高齢だし、昔の人だから飛行機が苦手なのだとは母の弁。

「そっか。そしたら、おじいちゃんによろしくね」

「おじいちゃんだけ?」

「『桃太郎』じゃないんだから。わざわざおじいさんとおばあさんなんて言わないでしょ」

 そう、日本昔話ではないのだ。女だって戦う。あまたの強敵を退けてきた彼女は、この最大の舞台で傾国の美女たり得るのか。

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